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61話_視線の主との対面

 今回のビィザァーナの授業は、予定していた時刻よりも早く終わった。

 だが、俺の足は、寮ではなく学校の敷地内を出て、ギルドの方へと進んでいた。

 勿論、スカーレットも一緒だ。


(ライッ! ライッ!)


 ビィザァーナから教わった万能(オールマインド)念話(・テレパシー)は、使い慣れるまで練習として解除せず、そのまま発動している……なんて、真面目な事を言っているが、本心は、スカーレットとの会話を楽しみたいだけだ。

 会話と言っても、スカーレットは俺達のように長文を話すことは出来ないらしく、単語しか発しない。現に今も、俺の名前しか言わない。

 今後の成長次第では分からないが、少なくとも現段階では、単語しか話せないらしい。

 ビィザァーナは曰く、この魔法は言語という概念の無い生物の意思を、無理やり自分達が理解できる言語に翻訳するという、ある意味、力技のものらしく、少々、使い勝手が悪い部分もあるとの事。

 まぁ、使い続ければ、自ずと慣れてくるだろうということで詳細は割愛されてしまったが、今のところ問題は無いので、良しとする。

 スカーレットの念話(テレパシー)背景音楽(BGM)に、俺はギルドまでの道を進んでいた……のだが、その道中で足を止めて、サッと建物同士の間にある、人が3人程度は横に並んで歩けるほどの幅がある路地裏へと入っていった。

 スカーレットは俺が突然、方向転換したことに不思議そうにハテナを浮かべていたが、すぐに追いかけて来た。

 路地裏に入って少しだけ進むと、その先は、過去にポスターが何回も剥がされ、貼られを繰り返したのであろう小汚い壁しか無かった。

 その壁の前で立ち止まると、振り返って周囲を見渡した。


「……出てこい。用があるなら目で訴えるのではなく、直接、口で言え」


 誰もいない空間に、そう言い放つと自分へ向けられている視線が、分かり易いほどに動揺したのが分かった。


「…………俺に、何か話があるんだろう?」


 今度は、怯えている小動物を宥めるように、出来るだけ優しい口調を意識して言った。

 すると視線は意を決したように真っ直ぐに俺を定めたかと思うと、シュタッと音の無い着地を披露して、俺の前に姿を現した。

 その姿には、見覚えがあった。


「お前は、確か……」


 カリンとよく一緒にいる、頭に獣のような耳を生やした女子生徒だ。

 今も、彼女の頭にある耳はピクピクと警戒するように小刻みに震えている。


「……カツェ・ヴァーニャだニェ。ライ・サナタス……君に、頼みがあるニェ」


 彼女と会話をするのは、これが初めてだった。

 名前より特徴的な語尾の方が気になったが、それを指摘できる雰囲気では無いため、心の中に留めておく。


「……頼みって、なんだ?」


 俺から問いかけると、彼女は辺りを見渡し、大きく息を吸った。


「一緒に……カリンちゃんを、探してほしいニェ!」


 切羽詰まったような言葉に、俺は訝しげな表情で彼女を見た。


「カリンは風邪をひいていると、ビィザァーナ先生が言っていた。寮の自室で寝ているんじゃないか?」


 しかし、カツェは即座に首を左右に振った。


「ウチ、カリンちゃんと同じ部屋だから、居るならすぐに分かるニェ……でも、少し前に倒れて運ばれてから、まだ帰って来てない上に、なんの音沙汰も無いのニェ」


「倒れた……?!」


 初めて耳にした情報に、思わず声に出してしまった。

 彼女は俺の言葉を肯定するように頷くと、不安を隠しきれない表情で語り始めた。


「カリンちゃんが倒れたのは、本当に突然だったんだニェ。ウチ、急いで誰かに助けを求めようと走ったニェ。その時、偶々、ビィザァーナ先生に会えて……だから、先生に助けを求めたんだニェ」


「……そのビィザァーナ先生が〝風邪〟と言っているかなら、大丈夫なんじゃ……」


 ないか?

 そう後に続く筈だった言葉は、猫のように瞳孔を細くした彼女の瞳に吸い込まれた。


()()()風邪で、なんの連絡も無く、数日経っても帰ってこない事ってあるニェ? 君は、倒れた友達の身体に突然、鱗のようなものが生えてきたとしても……〝風邪〟で納得するニェ?」


 返答次第では襲いかかってきそうな彼女に何かを感じ取ったスカーレットは、俺を守るように前へと出た。


(……テキ? タベル? タベル?!)


 予想外すぎるスカーレットの言葉に、慌てて首を左右に振った。

 単語ばかりで分かりにくいが、恐らく、〝彼女は敵か? 敵なら、食べても良いか?〟と尋ねている。

 ここで頷いてしまえば、スカーレットは本当に彼女を喰ってしまうだろう。それだけは勘弁だ。

 それにもし、彼女の言ったことが本当ならば、ビィザァーナは何かを隠している。

 俺が彼女だったとしても、身体に鱗が生えたところを見て、風邪だとは思わないし、言われても納得しない。


「……悪かった。よければ詳しい話を聞かせてくれないか?」


 軽い気持ちで彼女の話に耳を傾けていたことを謝罪すると、彼女は鋭い眼孔と爪を納め、安心したように微笑んだ。

[新たな登場人物]


◎カツェ・ヴァーニャ

・頭に獣耳を生やした少女。

・過去にも、何度か登場している(名前は、今回が初公開)。

・カリンと、よく一緒にいる。

・語尾については、後々……

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