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55.5話_閑話:観客席にて

※今回は、名前のない第三者視点(神視点とも言う)で、話が進みます。

 突然だが、今から少しばかり時間を遡る。

 これは、ライ達が協力協定を結ぶ、少し前。

 協定を結ぶまでの彼らを見続けていた、とある観客達の話。


 ライ達が会場に入ってくるのを確認すると、周囲は歓声で溢れかえった……と、言っても、実際に彼らに激励の歓声を送っているのは、外部から来ている観客だけだった。

 始め、彼らと共に試験を受けるはずだった生徒達は彼らに応援の声すらかけず、唯々、ジッと闘技場の中央に置かれた巨大な水晶に映る彼らを見ていた。

 ただ、視線の形は各々で違うようで、彼らを(さげす)むような視線を送る者が多い中、少数ながら別の感情を潜ませた視線があった。

 わざわざ記述するまでもないだろうが、観客の1人としてライ達を見ているグレイは、後者にあたる。

 ちなみに今回の中心はグレイではなく、アルステッドを中心とした、所謂、〝特別席〟に座っている観客達だ。


「いよいよだね……」


「うむ! 彼らが、どのように試練に立ち向かうのか……楽しみですなぁ!!」


 瞳をキラキラと輝かせながら前のめりで語るヴォルフの姿は、興奮した幼い子どもそのものだ。

 子どもにしては少々……いや、かなりガタイが良過ぎるが……

 そんな彼から視線を外すと、今回、特別に自分と彼の間に設けられた席に腰を下ろし、どこか緊張した表情で、闘技場の中心の場所に映し出されているライ達を見つめているアンドレアスの姿を捉えた。


「緊張されておりますか、王子?」


 アルステッドが声をかけると、アンドレアスはハッとした表情で彼を見た後、申し訳なさそうに笑った。


「緊張、というより……なんと言うのだろうな、これは。心を鎮めようとすればするほど、逆にザワザワと騒がしくなる」


 先程から、どこか落ち着かないような様子だったのは、そのせいかと納得したアルステッドは彼を安心させるように微笑んだ。


「大丈夫ですよ、王子。今の貴方は、初めて抱く気持ちに戸惑っておられるだけです」


 アルステッドの言葉に、アンドレアスは心底驚いたとばかりに目を見開いた。


「なんと……アルステッド殿は我の、この気持ちを理解しているのか?! それも、魔法の力なのか?」


 詰め寄るアンドレアスにやんわりと首を左右に振り、闘技場の中央にあるモニターのような画面に映るライ達に顔を向けた。


「そんな大層なものではありませんよ。ただ……私も今、貴方と同じ気持ちを抱いているだけの事です」


 ライ達を見つめるアルステッドの瞳は、愛しい愛しい我が子を見るように優しかった。


(こんなにも胸が躍るのは、いつぶりだろう? 何でも面白く、美しく見えていた幼少期に戻ったかのように、彼らが、やけに輝いて見える。初めて会った時から、目を付けていたライ・サナタス。そして、彼の幼馴染であるアラン・ボールドウィン……勇者と魔法使いが互いを(いが)み合う、この現状を知って尚、己の気持ちに偽りなく接し合う彼らの、なんと美しいことか。彼らならきっと、我々の()()を現実にしてくれる……っ!)


 アルステッドの確信めいた言葉は、心地よい温もりと共に、彼の中に、じんわりと染み渡っていった。


 ◇


 そんな穏やかな彼とは裏腹に、後ろの席で構えているアリナとリカルドを取り巻く空気は、息をするのも疲れるほどに重苦しい。

 隣り合った席に座りながら、これまで無言を貫いていた彼らだったが、唐突にリカルドが口を開いた。


「なぁ……1つ、聞いていい?」


 リカルドの問いにアリナは何かを言うわけでもなく、視線だけを彼に向けた。

 〝何だ? とっとと話せ〟

 彼女と長い付き合いのある彼にだけ聞こえる、彼女の心の声である。


「ずっっっと前から聞きたかったんだけど……何で毎回、実技試験の時、西洋甲冑なんて着てんの? しかも、自分が出る試験でも無いのに……」


 恐らく、今まで何人もの人間が聞くに聞けなかった疑問を、リカルドがついに投げかけた。


「何故って……これが私の勝負服だからだ」


 至極当然だと言わんばかりに、アリナは疑問に答えた。

 答えてくれたのは有り難いが、この回答を理解出来た者が、どれ程いただろうか?

 疑問を投げかけた当の本人は、理解どころか、何とも言えない渋い表情でアリナを見つめている。


「……何だ、その顔は」


 リカルドの反応が気に入らなかったらしいアリナも、彼をジトリと睨みつけている。


「いやさぁ……魔法使いって普通、もう少し女性らしい服というか…………露出度が高い服を着るのがセオリーじゃないの? てか、勝負服って何? この後、何かと戦いに行くの?」


 最初の方は彼なりに言葉を濁そうとした努力は垣間見えるが、最後の最後で面倒になったのか本音が出てしまった。

 リカルドがしまったと口を手で覆ったが、時すでに遅し。

 絶対零度の目で彼を見つめるアリナの姿があった。現実なのか幻覚なのか、彼女の周辺が段々と凍りついている(ように見える)。


魔法使い(同族)が出るのに、それを見守る私が験担(げんかつ)ぎをするのは当然だろう。それより貴様……まだ、魔法使いに対して、そんな卑しい幻想を抱いていたのか……」


「あ、それ験担ぎだったのね……って、ちょっと待て! 誤解だって! 今のは、特に深い意味は無くて……」


 慌てて否定するも、アリナはフンと鼻を鳴らして一蹴した。


「今日は、よく喋るじゃないか……あぁ、そうか。今回は、ビィギナー家の者が来ていないから……」


 ヒュンと、空気を斬る何かが前を通過し、アリナは思わず口を閉ざした。

 新品の鏡のように傷も汚れも見られない刃には、彼女の顔を映っていた。

 横を見ると、いつの間にか立ち上がっていたリカルドが剣を振り下ろしたまま、アリナを睨んでいる。


「忌まわしい名前を出すな。聞いただけで虫唾が走る……っ!」


 目の前に剣を振り下ろされているにも関わらず、アリナは慌てる素振りも無く、呆れたように息を吐いた。


「剣をしまえ。ここは神聖な試験場だ。それに……貴様の父親が見ているぞ」


 アリナの言葉にハッと我に返ったリカルドが父親であるルドヴィカを見たが、彼は相変わらずの無愛想な顔でヴォルフと会話をしている。

 リカルドの方を、少しも気にかけている様子は無い。


「……騙したな」


「相変わらずだな、貴様は」


 フッと小馬鹿にしたように笑ったアリナを見て、何かが冷めたリカルドは剣を納め、着席した。

 それと同時に、ピィーッと試験の開始を告げる笛の音が鳴った。


「始まったな」


「……そうだね」


 目を合わせることも無く、彼らの会話は、味気ない一言で終わりを告げた。


 ◇


 皆、見ている景色は同じ。

 されど、胸中に抱いているものは、各々違う。

 そんな十人十色な観客の想いなどいざ知らず、ライ達が共通の敵を倒すために、一時的とはいえ結託するなんて展開を、誰が予想出来ただろうか?

 勇者と魔法使いが組んで何かをするという行為自体、疎まれる世の中で当然のように互いの心配をし、況してや、蹴落とす存在であるはずの別のコンビとまで組んで、この試験を突破しようとしている。

 拳を突き合わせたライ達の姿を見て、ある男は抱いた希望を更に強め、ある王子は静かな決意を胸に固めることになったのだが……それはまた、別の機会で話すとしよう。

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