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430話_無人の地下都市

 〝邪魔者を殺せ〟という命令が発動し、スカーレットが抹殺対象となった。魔法が発動した時点で抵抗の意志など何の価値も無い。このままだと俺はスカーレットを殺してしまう。

 抗えないと思われた運命を変えられたのは単純な幸運。あれは奇跡と呼ぶに相応しい。神を自称する者の言葉を借りるなら〝不具合〟か。

 スカーレットに攻撃する寸前、俺は魔法の支配下から解放された。だが、直前だったせいか攻撃自体を止めることは出来ず、スカーレットが死なないギリギリの威力に調整するので精一杯だった。

 スカーレットの静止を振り切り、転移穴(ポートホール)を抜けた俺の前に現れたのは謎の地下都市。王都より立派に見えるその都市は道も建物も綺麗に整備されているのに自分達の足音が響くほど静かで廃都を思わせるような寂れた空気に満ちている。


(何だ、この巨大都市は?! これだけの規模なら王都と同等……いや、それ以上か? だが、それにしては活気が無い。此処は既に国として機能してないのか?)


 これほどの巨大都市が地下に作られていたなんて話、この世界でも前の世界でも聞いたことが無い。

 思想の違いで迫害された者達が難を逃れる為に地下を掘って作った空間を根城にして生活していたという話を昔聞いた事があったが、これは一時的な難を凌ぐ為だけに作られたものとは到底思えない。

 閑散としていて、まるでこの場所だけ世界から孤立してしまったかのような寂寥感(せきりょうかん)を覚えるが、誰がどう見ても此処には国家が存在していた。理由は分からないが、ここまで栄えておきながら国家は衰退してしまったらしい。これだけ立派な国が、どうやって終わりを迎えたのだろう? 建物等の状態を見る限り、武力による制圧という線は薄そうだが。

 気になる事は他にもある。何故この地下都市が今まで誰にも発見されなかったのか。それから、どうやってリアム達は地下都市の存在を知ったのか。


(調べたいのは山々だが、この状態じゃなぁ……)

 

 自分に付けられた首輪、そしてその首輪と術者の間で繋がれた鎖。改めて見ると何とも悪趣味な魔法だ。

 せめて鎖を透明にするとか首輪のデザインを無難な物にするとか、もっと、こう……どうにかならなかったものか。

 この姿を大衆に晒されていたら俺は正気でいられなかったかも知れない。この国が滅亡してて良か……いや、それは駄目だろ。人として。




 活気のない街の中を、ただ歩いていく。リアム達の間に会話は無い。先ほどの遣り取りからして友好な関係というわけでもなさそうだ。何と言うか、互いの利害が一致するから仕方なく連んでいるように思える。

 今、彼等は何処へ向かっているのだろう? そして俺は、いつまで魔法に掛かっているフリをすれば良いのだろうか?

 魔法に耐性が付いた時点で首輪も鎖も消滅するものだと思っていたが、未だに存在しているのは耐性により効果は無いが魔法自体は変わらず発動されたままだから? ……まぁ、理由は、この際どうでも良いか。そのお蔭で術者を欺き、相手の拠点に潜り込む事が出来たのだから。

 先頭を歩いていたリアムが不意に足を止め、振り返る。フード男と子どもも足を止め、俺も不自然に思われないよう足を止める。


「僕は、このまま研究所に向かうが君達はどうする?」


「俺達は一度、部屋に戻る。兄さんが疲れてるから休ませたい。……で、連れて来た奴は、どうすれば良い?」


「役目を終えるまでは君の好きに使わせてやる。雑用でも護衛でも、やらせておけ」


「役目を終えたら他の奴等と同様、こいつも貴重な実験材料になるってわけか」


「教養の無い君でも少しは頭が回るようになったか。間違っても魔法は解くなよ。今回は運が良かっただけで、そいつは本来なら僕達の手には負えない奴だ」


「分かっている」


 どうやら研究所とやらは違う方向にあるようで三方向の分かれ道に差し掛かるとリアムは左の道へ、俺達は真ん中の道へと進む事に。

 街から中心に向かった場所に聳え立つ高台の城。あそこが彼等の拠点らしい。当時この国を治めていた名のある王族が所有していた物だったのだろう。

 しかし、あの高台の城に行くまでの入り口は愚か、坂や階段も見当たらない。転移や飛行の魔法を使える者でなければ実質的に城内へ侵入するのは不可能だ。彼等は、それらの魔法の使い手なのだろうか?

 その疑問は、すぐ解消された。フード男が壁に触れると鉄格子と同じ見た目の扉が出現。開いた扉の奥には数人が収納できる程度の広さがある箱のような空間でフード男達と共に、その〝箱〟に乗り込む。

 扉が閉じた瞬間、浮遊魔法を使った時と似た感覚に襲われる。何か異常が発生したのかと周囲の様子を観察したがフード男達が慌てている様子が無いところを見ると、この感覚は正常のようだ。

 俺達が乗った箱が上昇していくと同時に鉄格子の扉越しに見える街が下降していく。見渡せる範囲が広くなればなるほど、この街の広大さに圧巻される。


「兄さん、疲れただろ。兄さんと俺とじゃ歩幅が全然違うもんな」


 上昇している最中、フード男が子どもを抱き上げる。表情は見えないが声からは相手への気遣いが窺える。

 〝兄さん〟と呼ばれた子どもはフード男に抱えられながら下降していく街を見下ろしている。こちらもフードを被っていて表情は分からない。

 フード男が持っていた鎖は、いつの間にか消えていて首輪だけが残っている。

 それが出来るならもっと早く鎖を消して欲しかったなんて愚痴を言ってしまいそうな衝動に駆られながらも俺は二人を見つめる。

 確かにフード男は子どものことを兄と言った。この二人が実の兄弟であるかどうかは置いといて何故、兄と呼ぶ? 普通に考えれば弟と呼ぶ方が自然だ。

 何か意味があるのか? それとも子どもくらいの背丈でも実は成人?

 我ながら緊張感が欠落するような事を考えていたら箱が最上階まで辿り着いたようで今度は入った時の逆側にある鉄格子状の扉が開いた。


 箱の外に出ると、さっきまで見上げていた城が目の前に。

 フード男の後に付いて行きながら周囲の様子を窺う。城に入っても相変わらず俺達以外の気配は無いが、この場所に関して言えば不可解に思う点など幾らでもあるため今更気にならない。

 そう思えるのは自分以外の誰かが存在しているからで、こんな場所で俺一人だけが取り残されている状況だったら、もっと違う感想を抱いていただろう。

 気持ちに余裕が出てくると自然と他のことを考えてしまう。グレイ達のこと、それから……スカーレットの事。

 魔法に対する完全な耐性が付いたのがスカーレットに攻撃を仕掛ける直前だったのは幸いだった。ただ、それでも〝邪魔者(スカーレット)に攻撃する〟という命令を解除する事は出来ず、咄嗟に威力が限りなく低い攻撃魔法を放つことしかスカーレットを救う手立てが思い付かなかった。とはいえ、スカーレットが本当に無事かどうかは分からない。仮に即死を免れていたとしてもグレイ達に死亡と判断されてしまえば、それで終わりだ。


(何とかグレイと連絡を取れないものか……)


 念話(テレパシー)さえ使えればグレイから状況を聞き出すことが出来るし、逆にこっちの情報も伝えられる。

 ここで問題は〝この場所からグレイの所まで念話(テレパシー)が可能かという事〟と〝命令以外の魔法を使用することで向こうに魔法が効いていない事を察知されないかという事〟。

 後者に関してはスカーレットが生きている時点で命令違反をしているわけだから事実確認さえ出来れば問題ないと証明される。ただ、その事実確認をする為には念話(テレパシー)を使う必要があるわけで。


(向こうから命令されない限り、勝手に動くわけにもいかないし。かと言って、成り行きに任せるのもなぁ)


 味方が一人もいない状況、しかも知らない場所で、いつ何が起こるかも分からない。こんな不確定要素だらけの中で偶然に身を任せるというのは我ながらどうかとは思うが、これが今の俺にとって最善の策とも言える。少なくとも無鉄砲な事して、ここまで潜入した意味を無に帰してしまうよりはマシだ。

 とりあえず今言えるのは今後俺がどう動けるかはフード男の出方次第。このままの状態が続けば最悪、彼等に種明かしをしてしまうしかない。勿論しっかりと口封じをした上で、だ。

 色々と考えている間にフード男達の部屋に着いたらしい。てっきり部屋の外で待っておくよう命令されるかと思いきや命令をされる事はなく一瞬躊躇いながらも相手に悟られないよう出来るだけ平静を装い、部屋に入った。

 値が張る宿屋の部屋と同等の豪華さはあるものの掃除が行き届いてないのか埃臭さが少々鼻に付く。よく見ると部屋に置かれた家具も色褪せていて骨董的と言えば聞こえは良いが、要は長い年月が経過した事による劣化である。

 フード男は子どもをベッドの端に座らせ、頭を撫でるようにフードを下ろした。露わになった子どもの表情を見て、俺は動揺してしまった。

 子どもの瞳には光がなく、顔は血の気を失っている。更に表情は喜怒哀楽すら感じられない〝無〟。ただ一つ分かった事があるとすれば子どもの性別が男だという事だ。

 少年は目の前のフード男を見上げることもなく、唯々、虚空を見つめては何を考えているか分からない表情を保っている。彼はフードの下で、ずっと同じ顔をしていたのだろうか。


「兄さん、もう少しの辛抱だ。グレイは見つかった。彼を捕まえて、あの男の実験が完成すれば、やっと兄さんに時間を返せる」


(時間を、返す……?)


 この男の魔法は時間を奪った相手を意のままに操る能力。じゃあ時間を返すって、どういう事だ? 単純に奪った時間を返すという意味なら、それは奪われた側からすれば本来進むべきはずだった時間を全て取り戻すという事。魔法から解放された瞬間、奪われた時間分の成長も老いも全て、その肉体で受け止めるという事。

 もし俺の仮説が正しいとすれば彼は自分がどれだけ残酷なことを言っているのか理解しているのだろうか?

 奪われた時間の長さに比例して肉体への負荷は大きくなる。例えば相手から百年という時間を奪い、それを返すとなれば相手の肉体にはその百年という時間の大波が一気に押し寄せる事になる。そんなの人間が耐えられる衝撃の次元じゃない。


「……なるほど、そういう事か」


 大体、話は見えてきた。彼がリアムと協力関係にあるのは、この少年を救うため。正確には何らかの理由で奪った少年の時間を返す為だ。

 本来の時間に戻した時、少年がどうなるか彼は知っている。他でもない自分の魔法だ、知らないわけが無い。だからこそ彼はリアムの研究に目を付けたのだ。不死の身体になってしまえば奪った時間を返しても死ぬことは無いのだから。

 俺の憶測に過ぎないが決して的外れではないだろう。事情すら知らない他人の俺からすれば、その選択は自己満足にしか見えない。そこに少年の意思が無いとなれば尚更……って、何かフード男の奴、こっち見てないか?


「っ、お前……?!」


 表情は分からないが、声で分かる。これは有り得るはずの無い現象を目の当たりにした時の反応だ。

 フード男は立ち上がり、少年を庇うように前に出る。その動作の反動でフードが下ろされ、フード男の顔が露わとなる。少年と髪も瞳の色も同じ。顔つきも何処となく似ている。初対面でも赤の他人ではないと分かるほどに容姿の特徴が殆ど一致している。


「馬鹿な! 俺の魔法は今も問題なく発動している。なのに、どうして動ける?!」


「時間が経つにつれて魔法への耐性が付いただけだ」


「はぁ?! 意味分かんねぇよ!」


 理解不能とばかりに男は声を荒げるが、他に説明しようがない。


「俺も聞きたい事がある。何で俺に魔法が効いてないって気付いた?」


「何でって、命令もしてないのにお前が急に喋り出したからだろ」


「え?」


 命令してないのに喋った? 俺が? いつ?

 全く自覚は無いが、本人に気付かれてしまったのは事実。もう開き直るしかない。


「バレてしまったなら仕方ない。それで、どうする? この事をリアム・ワーナーに報告するか?」


 俺の推測が正しければ彼とリアムは対等な関係ではない。彼はリアムを必要としているようだが、リアムは恐らく彼を研究材料あるいは駒の一つ程度にしか考えていない。それ以前に同列またはそれ以上の相手に「無能」という言葉は使わない。


「……目的は何だ?」


「俺はリアム・ワーナーを捜すよう頼まれただけだ」


「だったら、もう目的は果たせてる筈だ」


「あぁ、だが事情が変わった。奴はグレイを狙っている。グレイは俺にとって大事な仲間だ。狙われてると知って、引き下がれるか」


 彼の能力の全てを把握しているわけじゃない。それでも負ける気はしなかった。現に、彼が扱う魔法の一つを無力化しているのだから。

 向こうも自分にとって不利な状況だと理解している筈だ。彼は今、目の前にいる男が()()()()()()()()()()()見定めようとしているのだ。


「じゃあ今のお前には俺の魔法が効いてなくて。それを知らずに俺達は此処まで連れて来ちまったって言うのか」


 動揺してた割には理解が早いな。まぁ、何度も同じ話をしなくて済むのは有り難い。


「俺は兄さんを助けたい。その為なら何だってしてきた。今更、引き返す事なんて出来ない。けど……勝てる見込みの無い相手に勝負挑むほど馬鹿でもない。だから俺には、こうする事しか出来ない」


 そう言って彼は床に座ると平伏するような姿勢を取った。


「頼む、見逃してくれ。どうしてもグレイが必要なんだ」


「……お前がそこまでするのは、そこに座っている子どもの為か」


「そうだ。彼は俺の兄で、昔、殺されかけた。いや、本当なら死んでたんだ。でも死ぬ前に俺が時間を奪った」


 絶命寸前であったとしても生きている内に時間を止められれば確かに魔法の効果が持続している間は〝生きている〟と言えるだろう。見た目的に彼は二十代後半から三十代前半といったところか。対して、彼の兄は齢二桁いってるかどうか。つまり彼は数十年もの間、魔法を発動させ続けていた事になる。


「奪った時間を返せば兄さんは死ぬ。そうさせない為に俺はリアムの研究に協力してるんだ。彼奴の研究が上手くいけば奪った時間を返しても兄さんが死ぬことは無い」


「自分の兄を助ける為ならグレイがどうなっても構わないって言うのか」


「……もう幾つもの村を、人間を、犠牲にしてきた。今更一人どうなろうが何とも思わない」


 既に取り返しようのない犠牲を払っているからこそ相手の決意は揺るがない。むしろ一生を掛けても賄えないだけの代償を支払ったからこそ絶対にやり遂げなければならないという使命感が更に強まったのだろう。

 向こうにも言い分はあるようだが、それで納得できるわけがない。相手が哀れだからグレイを諦める? 冗談じゃない。そんな馬鹿馬鹿しい理由で大事な仲間を手放せるか。


「グレイは、お前達の私利私欲を満たす為に生まれてきたんじゃない」


「お前に……っ、お前に何が分かる?! 目の前で親を殺されて、兄さんだって俺の魔法が無いと生きていけない状態で……彼奴だけだったんだ。自分なら何とか出来るって希望を示してくれたのは」


 叶わぬ願いだと分かっていても、仮初の希望であったとしても縋らずにはいられなかったのだろう。同情はするが、看過する事は出来ない。


「甘ったれるな。不幸なら何をしても良いのか? お前達のせいで死んだ人達にだって家族がいた筈だ。お前は遺族の前でも同じ言い訳をするのか?」


「っ、!」


 男は悔しそうに顔を歪めて口を閉ざす。ここで「する」と答えていたら俺は彼を害悪と見做し、攻撃していた。


「俺は兄さんを助けたいだけなんだ。目的を果たした後なら、お前の好きなようにして良い。だから頼む…………、お願いだ」


 自分の弟が目の前で他人に頭を下げているというのに表情一つ変えない。魔法で時間を奪われているのだから当然と言えば当然なのだが。恐らく行為の意味も誰の為にやっているのかさえ分かっていない。

 額を床に擦り付けて懇願する男を、やり場のない気持ちで見下ろす。昔、何度も見た光景。まだ俺が魔王を名乗っていた頃に、何度も。

 ある者は命乞いを。ある者は神が聞き届けなかった祈りを。ある者は死を。ある者は切なる願いを。

 俺は魔王でもなければ神様でもない。だから個人の願いを叶えてやる義理も無い。無いが、だとしても。


「……顔を上げろ」


 それでも何とかしてやりたいと思ってしまうのは昔多くのものを奪ってしまった者達への贖いなのかも知れない。

 男が、ゆっくりと顔を上げる。涙と鼻水で濡れた顔が照明に照らされる。


「お前はリアムの研究を成功させる為に力を貸していると言ったな。リアムは前に一度だけ、しかも偶々成功させたらしいが……昔その研究を偶然ではなく意図的に成功させた奴がいると言ったら?」


「う、嘘だ……そんな話、彼奴から聞いてない」


 ……うん、まぁ、信じないよな。同じ立場だったら多分、俺も信じない。だが、それでは話が進まない。


「信じる信じないは自由だ。でも、よく考えて欲しい。俺は今、自由に動ける。つまり今から研究所を破壊しに行く事も出来るわけだ」


「っ、……悪魔め!」


 悪魔、か。元は魔王なんだし強ち間違いでも……いやいや、滅多な事を言うもんじゃない。そもそも悪魔と魔王じゃ色々と次元が違い過ぎる。


「……それで俺は何をすれば良い?」


 相変わらず察しが良くて助かる。でも身構えてるところ悪いが、俺からの要求は単純だ。


「このまま俺に魔法を使い続けてくれ」


「は?」


「まだ俺がお前の魔法の支配下にあるとリアムに思い込ませるんだ。その方が俺にとっても都合が良いからな。それに、お前だって〝敵を連れ込んだ裏切り者〟だと勘違いされて関係を切られたら困るだろ」


「あ、あぁ」


 案外、分かり易い奴だ。今も表情だけで俺の意図が読めないと困惑しているのが分かる。


「それからグレイと連絡を取りたいんだが」


「無理だ。此処には電話が無い。それに電力が供給されてるのは、この城と研究所くらいだ」


念話(テレパシー)は?」


「……試したことは無いが魔法が使えるなら普通に使えるんじゃないか?」


 それも、そうだ。念話(テレパシー)を使うため部屋を出ようとしたところを男に呼び止められた。


「その、良いのか」


「何がだ?」


「グレイは、お前にとって大事な仲間なんだろ」


 俺がグレイを諦めたと思っているのだろうか? グレイを実験材料にされるのは困る。というか、そもそも承諾した憶えも無い。


「勘違いするな。俺の意志は変わらない。今から作戦会議をするんだ。邪魔してくれるなよ」


 呆気に取られたような顔をした男を置いて俺は今度こそ部屋を出た。


「あ、そういえば名前を訊くの忘れた。……まぁ、後で良いか」


 城の近くにリアムの気配が無いことを確認して、俺は城の外に出ると同時にグレイに念話(テレパシー)を送った。


(グレイ、聞こえるか?)


(えぇ、聞こえています)


 あっさりと返事が返って来た。俺が念話(テレパシー)を送ることを予知していたみたいだ。

 念話(テレパシー)を通じてスカーレットが無事だったと確認できた事でグレイの反応に納得がいった。そこで早速、人がこちらの状況を話そうという時に念話(テレパシー)の場所が悪いのか、それとも調子が悪いのかグレイ達の声が届かない時間が続き、俺は向こうからの返答が来るまで延々と首を傾げる羽目になった。

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