417.5話_閑話:風化されない栄誉
決闘に勝利したことでアランは改めて聖騎士団長に任命されると同時に沢山の通告鳥達が城から一斉に飛び立つ。
通告鳥達は各々の役割を終えるまで飛び続ける。通常、通告鳥の役割はメッセージを届ける事。メッセージ内容の決定方法は使用者が口頭で伝えるのみ。
通告鳥が与えられた使命は一つ。新王に仕える聖騎士の選定が終わり、誰が聖騎士に選ばれたのかを伝える事。
通告鳥は王都の門を守る検問官に王都内を守る傭兵や騎士達の肩に止まる。目的地に到着した鳥達は手紙に形を変えて彼等の手の中に落ちる。
この手紙が届いた者達は今日〝聖剣の選定〟が行われたことを知っている。立場上の問題で実際に現場に立ち会うことは出来ないため、こうして通告鳥による事後報告により概要を知るのだ。
「お、来たな!」
赤髪に所々、鳥の足跡のような黒い模様が入った変わった髪色の青年の肩にも一羽の通告鳥が止まる。
青年の名はザルク・アイマール。王都騎士団に所属している騎士である。二年前まで騎士見習いであったが、日々の努力の甲斐あって正真正銘の騎士となったのだ。
彼が騎士を志したのは七歳の時。切っ掛けは十二年前の魔王襲撃で当時ザルクは六歳の少年であった。父親と歳の離れた兄は各地で大量発生した魔物の討伐に駆り出されていたため魔王が倒され、魔物が落ち着くまで家に帰ることは無かった。ザルクは母親と妹と一緒に二人の帰りを待ち続けた。
戦場にいながらも彼の父と兄は手紙を送ってくれていた。手紙は当時のザルク達にとって彼等の生存を確認できる唯一の存在。
一通目の手紙には戦況は芳しくないが、それでも必ず家族の元に帰るという彼等の決意が書かれていた。だからザルク達も、その言葉を信じて待ち続けた。
二通目の手紙には父が負傷し、結果的に左足を失うことになったとの報告。本来であれば戦線離脱の対象になるはずが、戦況的にとても安全な場所へ連れ出せる状況でないことから戦地に留まるしかないという悪い報せが書かれていた。
そして最後の三通目の手紙には……父と兄を救った魔法使いのことが書かれていた。その魔法使いは兄より少し幼い印象のある若い青年で魔物の軍勢を一人で追い払ったらしい。
魔王が倒され、無事に再会を果たした父と兄から「あの青年がいなければ生きてお前達に会うことは出来なかった」という言葉を聞き、ザルク達は会ったこともない魔法使いに何度も何度も感謝の祈りを捧げた。
父親は片足を失ったことで本業であった騎士を引退し、昔からの趣味であった絵描きを生かして今は絵本作家になっている。自分を助けてくれた青年を主人公にした物語を描きたいのだと父が語っていたことを思い出す。
兄もザルクと同じ騎士で、最終目標は聖騎士になる事。つまりはザルクの家系は歴とした騎士一家なのである。
「親父、通告鳥が届いたぜ」
作業中という看板を掛けられた父親の部屋の扉を叩くと「入って来い」と、ぶっきらぼうな声。扉を開けると作業中であるはずの父が作業台に背中を向けている。
「早く読んでくれ」
「分かった、分かった。兄貴がもうすぐ巡回から戻ってくると思うけど待たなくて良いのか?」
「どうせアイツのとこにも来るんだ。先に読んじまっても問題ないだろ」
「自分が早く読みたいだけの癖に」とザルクが呆れたように言うと「いいから早くしろ」と急かされる。
「まぁ、待てって。えーと……あ、やっぱ親父の言った通り、勇者が団長になったみたいだぜ」
「やっぱり俺の勘は正しかったわけだ! 賭けは俺の勝ちだな」
「俺も勇者がなる方に賭けてたんだから勝ちも負けも無いだろ。それで副団長は……へぇ、意外だな。ゼノ・ホワイトって確か毎年魔激乱舞で優勝してるギルドのマスターだろ?」
「あぁ? じゃあ陛下は獣人を聖騎士にしたってぇのか? そりゃまた随分と大胆なことをなさったもんだ。んで、後は誰だ?」
「アメリア様とガンマ様は続投、それ以外は引退だってさ。で、今回新しく聖騎士になったのは副団長のゼノ・ホワイトと後はグレイ・キーラン、リュウ・フローレス、それから……」
「親父!! 親父、何処だ?!」
巡回から帰って来た兄が何やら興奮したような声で父を探している。ザルクは「親父なら此処にいるぞ」と入り口から、ひょっこり顔を出すと今にも溢れんばかりの感情を押し殺したような醜い顔をした兄と遭遇した。
「どうしたんだよ、兄貴? そんなブッサイクな面して」
「誰が、不細工だ! って、そうじゃない。ちょっと通るぞ」
自分を押しのけるように部屋に入って来た兄にザルクは訳が分からないという顔をしながらも兄の後に付いて行く。
「帰って来るなり騒がしいぞ、ジェファル。何をそんなに興奮してやがる。とうとう結婚相手でも連れて来たのか?」
「結婚相手以前に今は彼女もいな……って、だからそういう話じゃなくて! あの人が……あの人が選ばれたんだよ!」
「はぁ? あの人って誰のことだ? それに選ばれたって何に?」
「だから! 俺達の命の恩人が、聖騎士に、選ばれたんだよ!!」
その時、ザルクは全てを理解した。兄がやけに興奮していた理由も、必死に父を探していた理由も、全て。
ザルクの父は感情を失ったかのような無の表情をした直後、盛大に椅子から転げ落ちた。
「………………え、マジ?」
「大マジだって! ほら、これを見てくれよ」
ジェファルから手紙を受け取ると父は穴が空きそうなほどに食い入るような目付きで書かれた文章を目で追った。そして作業台にある一冊の絵本に挟めていた手書きのメモを引き抜いて何かを確認するように手紙とメモを交互に見る。
「……間違いない……〝彼〟だ」
ザルクの父は手紙に書かれた名前と自分が書いたメモの内容を確認しながら確信を持ったような声色で呟いたのをザルクは聞き逃さなかった。
「そうか、彼が…………神よ、我等を再び巡り会わせて頂いたこと心より感謝いたします」
ザルクの父であるヤナフェ・アイマールと兄のジェファル・アイマールは今から十二年前に弱肉強食の森にてライが無意識に救っていた騎士達であった。




