364話_新たな問題
城に辿り着くと入り口でグレイが出迎えてくれていた。
(おかえりなさい、魔王様、ギィル。あ、それからギルも)
「あぁ、ただいま」
「人をついでみたいに言うんじゃねぇ」
グレイは驚いた顔一つせずにギルの存在をすんなりと受け入れた。やはり、彼には全て御見通しだったようだ。
(ついでみたいではなく、ついでですよ。偶々目に入ったので)
「あぁ?! テメェ、表出ろ!」
(面白いことを言いますね。もう出てるじゃないですか)
此奴等は顔を合わせる度に何かしら言い争ってる気がする。
邪険するギルもギルだが、律儀に返すグレイもグレイだ。
「止めなさい、ギル。魔王様の前で、はしたない」
「お前もだ、グレイ。態と煽るようなことを言うな」
「……先に吹っ掛けてきたのはコイツだ」
(…………)
ギルは不満を零し、グレイは何処吹く風と聞き流している。案外大人気ないとこあるからな、此奴等は。
不意にギィルと視線が合い、お互い困ったように笑う。同じ苦労を抱えている者同士だからこそ可能な遣り取りだ。
気を取り直して俺達はグレイの調査の結果を報告した。
「エド達の言っていた通り、森に危険性は感じられなかった」
「魔物も意図的に僕達を避けていましたしね」
(では、牽制は上手くいっているということですね)
「それでも、まだ安心とは言い切れないけどな。念のため国と森の境目に結界石を設置しようと思う。人工的な結界石は魔法の質や安定性では魔力鉱石に劣るが、定期的に必要な魔力の補充さえ怠らなければ数百年は保つはすだ」
王都のように国を囲う壁を作ることも考えたが、それこそ何年かかるか分からない。全てを魔法で行えば一瞬で終わることだが、出来るだけ森や生き物達の生態や環境に影響を及ぼさない範囲で進めたい。
(となると次なる問題は道の整備と人が生活できる環境作りですかね。此処には水も電気もありませんから)
こんな時に建築等の知識や技術に長けたドワーフなんかがいると良かったのだが、無い物ねだりしても仕方がない。
「水なら森の中を流れる川を利用すれば何とかなるだろう。電気も暫くは魔法石で補う。ただ水や電気が通っても建築物が城一つだけってのはなぁ」
王都のような街並みにするには家だけでなく店や施設も必要になる。
「そういえば以前、レイメイさん達が暮らす村の家屋は元々別の村のドワーフやエルフに依頼して建てられたと聞きましたが」
「っ、それは本当か?!」
もし本当なら話が早い。レイメイ達に紹介してもらって直接依頼をすれば良いのだから。
(レイメイさんなら快く力を貸してくれるでしょうが……そう簡単に上手くいくでしょうか)
「どういう意味だ?」
(ドワーフ族は気難しい性格の方が多いと聞きます。それに一度認めた相手としか取引をしないとか。況してやドワーフはエルフと同様に他種族から迫害されていたという歴史もありますから)
認めてもらうだけでも相当な根気と時間が必要というわけか。
(とりあえずレイメイの所に行ってみるか)
一筋縄ではいかない相手だとしても僅かでも希望があるのなら今は縋り付きたい。
掃除をしたいと有り難い申し出をしてくれたロットとキャンディ、ロゼッタ、ギィルを城に残し、俺達はソウリュウ族の村へと向かった。
レイメイは今やソウリュウ族の頭領だ。彼が常に多忙な立場であることなど言うまでもない。
にも関わらず、俺が「話がある」と言うと彼は二つ返事で貴重な時間を割いてくれた。
ヒメカも同席し、事情を説明するとレイメイは「ライ殿の為なら喜んで力になりたいが……」と何か言いにくそうに目を伏せた。
「レイメイさん、無理なら無理と言ってくれて構いませんよ」
「あぁ、いや、すまない。そういうことではないんだ。ただ直接ガーシャ殿に頼んだのは拙者ではなくアザミ殿で……」
「ガーシャ?」
「この村の家や畑を作るのを手伝ってくれたドワーフのことです。ちなみに私が今着ている服は彼の奥様でありエルフのラツェッタさんが作ってくれたんです」
そう言いながら立ち上がったヒメカは、その場で回ってみせた。裾にレースがあしらわれたスカートが彼女の動きに合わせてヒラリと舞う。
服自体は王都でも見慣れたデザインだ。つまり、そのラツェッタというエルフは王都にいても見劣りしない服を作れるだけの感性と技術力を兼ね備えているという事だ。
「ラツェッタさんは温厚で優しい方なのですが、ガーシャさんの方は、その……良くも悪くも職人らしいと言いますか」
職人らしい……要は、気難しい奴だと言いたいのだろうか?
「確かにガーシャ殿は寡黙な方だ。しかし、職人としての彼は素人目から見ても秀でている。ガーシャ殿ならばライ殿の期待に応えてくれるだろう。だが、拙者が懸念しているのは彼が力を貸してくれるかどうかだ。アザミ殿曰く、彼は彼自身が気に入った相手にしか、その技術を振る舞わないと言う。拙者達に力を貸してくれたのもアザミ殿の助力があったからこそ」
「それでも結構揉めちゃって大変でしたけどね……」
当時のことを思い出したのかヒメカが苦笑する。
なるほど。これは思っていたよりも厄介な相手らしい。
(だとしても、やるしかないでしょう)
「……そうだな」
「いざとなったら俺が魔法で脅してでもやらせる」
(それだけは絶対に何があっても止めて下さい)
こればかりはグレイに全力で同意。
そんなことをすれば交渉どころか二度とセイリュウ族の村に立ち入ることすら出来なくなるかも知れない。
「分かりました。そういうことならアザミさんの所に行ってみようと思います」
「ならば拙者も一緒に行こう」
「え、でも」
「同行するからといって何か力になれるわけではないが……せめて、これくらいの事はさせてくれ」
こちらが申し訳ないと感じてしまうほどの恐縮した物言いに折角の好意を無碍にも出来ないと俺はレイメイの提案を受け入れることにした。




