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338話_欠陥品の独唱曲〈アリエッタ〉《下》

 グレイは開いた口が塞がらなかった。

 彼らが貴族だということは知っていたが、魔族だとは知らなかったからだ。

 しかも人間と魔族の混血持ち(ハーフ)ときた。


(……もしかして、今回も?)


「まぁな。ただ前と違って俺は……俺達は生まれた時から孤児院にいた。だから親の顔すら知らねぇよ」


 親に不幸があったか、それとも早い段階で混血持ち(ハーフ)であると分かって捨てられたか。

 自分を産んだ親よりも魔王を探し出すことを優先した彼らにとっては、どうでも良い話だ。


(貴方が人と魔族の混血持ち(ハーフ)であることは分かりましたが……その、結局、本当の父親は分からず終いだったんですか?)


「いや、実はあの人に付いて行って魔王軍に入った後で会えた。というか、向こうから来た」


(は?)


「さっき話したろ。俺を祓うために呼ばれた祓魔師(エクソシスト)がいたって。ソイツが父親」


(はぁ……って、はぁ?!)


 まさかの急展開にグレイは目を見張った。


(ちょ、ちょっと待って下さい! 意味が分かりません。何故、祓魔師(エクソシスト)の彼が父親になるんですか?!)


祓魔師(エクソシスト)だったってこと自体、真っ赤な嘘だったんだよ。アイツは俺が悪魔だって噂を何処かで聞いて、本当かどうか確かめに来たんだ」


(で、ですが、もし本当に父親なら会った時に貴方の母親が気付くのでは?)


「そんなの変装魔法で姿を変えちまえば済む話だろ」


(そ、それはそうかも知れませんが……小説でも見たことありませんよ、こんな無茶苦茶な伏線回収……いや、そもそも、これを伏線と言って良いのか?)


 〝事実は小説よりも奇なり〟とは、よく言ったものだとグレイは半ば感心するような気持ちで頷いた。


「ちなみに母親は何も悪くない。寧ろ、被害者だ」


(それは、どういう……)


「ソイツ、夢魔だったんだよ」


 夢魔とは、対象者の夢の中に現れて生気を喰らう悪魔のことである。

 インキュバスやサキュバスが一般的に知られている代表例だ。


(魔族は魔族でも上位格とされる悪魔で、しかも夢魔ですか……それは何と言うか、運が悪かったとしか言えませんね)


 夢魔の()()()()は、他の生物で言うところの生命の営み。故に、稀に身籠ってしまうことがある。

 その点で言えば彼らは幸運だったとも言える。父親にとって心当たりのない妊娠ではなかったのだから。


(メラニーが言っていました。昔、貴方が自分のことを〝欠陥品〟だと言っていた事があったと。それは人でも悪魔でもない混血持ち(ハーフ)だからですか?)


 グレイが問いかけると、ギルは「あの蜘蛛女は、また余計なことを」と文句を零しながら頭を掻いた。


「……それだけじゃねぇよ。俺もギィルも存在が中途半端だ。本来なら独占できる肉体を俺達は二人で共有してる。その時点で他の奴らとは違う。ギィルは性格のお蔭で、まだ何とか受け入れられてたが、俺は違う。皆、俺だって分かると顔が引き攣ってた。言われなくても表情で分かるんだ。お前は違う、お前は要らないって。俺もギィルも同じなのに」


(…………)


「でも、あの人だけは……魔王様だけは違った。最初は興味本位だったかも知れねぇ、気紛れだったかも知れねぇ。けど、あの人だけだったんだ。()の目を見て、名前を呼んでくれたのは」


 ギルの存在を受け入れてくれた初めての存在。

 例え、それが世界の悪とされる魔王であっても自分は最後まで彼に付いていこう。魔王の手を取ったあの日、あの瞬間からギルは心の中で強く誓ったのだ。


『ならば僕も共に誓いましょう。僕等は生まれた時から死ぬまで二人で一人ですから』


 文字通り、ギルとギィルは一心同体。

 一人では不完全な欠陥品、だけど二人なら完全無欠。そう教えてくれたのも魔王だ。


(……ギル、一つ教えて下さい。何故、この話を他の仲間ではなく俺に?)


 少なくとも嫌っている相手にするような話ではない。

 何故、今まで誰にも明かさなかった過去を自分に話すのか。グレイは、その理由が知りたかった。


「ギィルを任せられるのは、お前しかいないと思ったからだ」


(は? あの、俺の質問、ちゃんと聞いてました?)


「聞いてたから答えてんだろ」


(いや、あれで分かるわけないでしょ。結局、理由は何なんですか?)


「何だ、今ので分からねぇのか。テメェも案外、鈍いな」


 最近メラニーにも言われた言葉だと思わずグレイは眉を寄せた。

 そんなグレイをギルは鼻で笑った。それなのに不思議と馬鹿にされたようには感覚はなかった。

 らしくもない気弱な笑みを見てしまったからだろうか。


「〝あとは任せた〟って言ってんだよ。ここ最近、ずっと出っ放しだったからな。さすがに疲れた。俺は暫く、眠る。だからギィルのこと頼んだぜ」


 ──あら、分からない? ワタシよりも心配しなきゃいけない子がいるじゃない。


 あの時、メラニーが言っていた意味をグレイは漸く理解した。


(そのまま消えていなくなるのだけは止めて下さいよ)


 ギルが目を見開く。

 あからさまに図星を突かれたような表情に今度はグレイがギルを鼻で笑った。


「ったく……鈍いのか鋭いのか、はっきりしやがれ」


 目を糸のように細めて笑いながらギルは眠りについた。

 いつ目覚めるか分からない、長い長い眠りに。


(おはようございます、ギィル。それとも、お久し振りと言った方が良いでしょうか)


 優雅な手つきでかき上げられたのは、目にかかる程度に伸びたミルクティーベージュ色の前髪。


「僕は何方でも構いませんよ。だけど、挨拶の前に先ずは謝罪と御礼を言わせて下さい」


 向けられた微笑に雲間から顔を出した太陽のような優しい温かみを感じながらグレイはそっと目を閉じた。

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