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332.5話_閑話:僕を呼ぶ聲

※アラン視点の閑話となります。

「ライ・サナタスだな」


 学内にある図書館で聞き馴染みのある名前を耳にして僕は反射的に振り向いた。

 けれど、振り返った先には見慣れない三人組が立っているだけでライの姿は見当たらない。

 だけど、何故か彼らは僕に視線を向けている。


「き、君達は……って、あ! 貴女は確か、あの時の……」


 どことなく見覚えがあると思ったら、僕がまだ勇者学校に入学して間もない頃に行われた模擬決闘(モックデュエル)の会場で会った女性だ。


「憶えていてくれたのね」


「は、はい。お久し振りです」


 彼女が嬉しそうに微笑むものだから、僕もつい嬉しくなって釣られるように笑った。

 顔見知りと再会したことで僕の警戒心が少しだけ緩む。

 そこで僕は彼女が以前、〝人を探している〟と言っていたことを思い出した。


「あれから見つかりましたか?」


「え?」


「ほら、前に言ってたでしょ。人を探してるって」


「……あぁ」


 彼女は僕の言葉に納得したように頷いた。


「えぇ、見つかったわ。貴女のお蔭でね」


 自分のお蔭というのが少し引っ掛かったが、それよりも彼女が探し人と再会できた事が嬉しかった。


「……憶えてねぇのか」


 落胆したような声が聞こえて顔を向けると、少し目付きの悪い男の人と目が合った。


(憶えてない? 憶えてないって、何を……?)


 よく意味は分からなかったけど、きっと僕には関係ない話だろう。


(さっきライの名前を言っていたし、もしかしてライの知り合い? そういえば彼女が探していたのも確かライだった。あれ、じゃあ一緒にいる二人は仲間なのかな?)


 誰を探しているのか尋ねた時、彼女は確かにライの名前を言っていた。

 それって僕が知っているライのこと? それとも同姓同名の別人?


「……アンタが憶えていようがいまいが関係ねぇ。悪いが、一緒に来てもらうぞ」


「き、来てもらうって? 君達は、ここの生徒なんだよね……?」


 服装を見れば分かることなのに急に不安になって尋ねた。


「いいや。俺達は、ここの生徒じゃない」


「え……」


 生徒じゃない? じゃあ彼らは何者なんだ?

 部外者は原則立ち入り禁止なのに、一体どうやって……


「俺達はアンタを連れ戻しに来たんだ」


「え、僕を?」


 ……ライじゃなくて? それに連れ戻すって? 何だか頭が混乱してきた。

 彼はライを探しに此処まで来たと言っていたけれど、もし僕が知っているライのことを言っているなら此処じゃなくて隣の魔法学校に行くべきだ。

 もしかして……僕、ライと勘違いされてる?


「あ、あの、僕は」


「はぁー、やーっと見つけたぜ。例の本、資料室の本棚の裏に落ちてて取るのに苦労した……って、こいつら誰?」


 間が悪いことに課題で必要な資料を探しに行っていたヒューマが戻ってきた。


「な、何で此処にまだ人が残って……ちょっとキャンディ、全員追い出したんじゃなかったの?!」


「はぁ?! ちゃんと追い出したっつーの!」


「じゃあ何で私達以外に人が居るのよ?!」


「ワタシが知るわけないじゃん!」

 

 何やら揉めているみたいだけど、今は見守っている場合じゃない。


「あ、あの」


「あー、もーっ! ワタシが何とかすれば良いんでしょ! ちょっと予定狂うけど問題ないよね、ギル」


「あぁ、()()()()連れて行く」


 どっちも……っ、まさか僕とヒューマの事?!


「お、おい。アンタら、さっきから何の話を」


「はい、ストップ。悪いけど、こんな所でお喋りしてる余裕は無いから。アンタに恨みは無いけど、ちょーっとだけ眠っといて」


 髪を二つ結びにした女の子と顔を合わせた瞬間、ヒューマがその場に倒れ込む。


「ヒューマ!」


「大丈夫、眠ってるだけよ。キャンディ、こっちもお願い」


「はいはーい」


 ヒューマに駆け寄ろうとした僕の前に立ち塞がったのは、ヒューマを眠らせた女の子。

 僕は腰に差した剣を抜いて、構える。とは言っても、本当に斬るつもりは無い。ただの脅しだ。


「君達の目的は分からないけど、こんなやり方は良くないと思うよ」


「剣を収めてくれ。俺達はアンタに危害を加えたい訳じゃねぇんだ」


「……僕達を、どうするつもり?」


「さっきも言った通りよ。連れて行きたい場所があるの。大人しくついて来てくれるなら、お友達はすぐに解放するわ」


「………………」


 彼らの目的は分からない。分からないけど、ヒューマを人質に取られてしまっては下手な挑発にするのも却って逆効果だ。

 僕は剣を鞘に収めて、もう抵抗する意思は無いことを彼らに示す。


「……ありがとう」


 彼女の笑顔に、今度は応えることが出来なかった。

 だけど、何でだろう? 誘拐まがいなことをされそうになっているのに彼らが悪い人には思えない。

 金銭を狙う盗賊とは違う。他人の命を弄ぶ殺戮者とも違う。

 一体、彼らは……


「じゃ、ちょっとだけ眠っててもらうねー」


 女の子と目が合った瞬間、突然睡魔に襲われた僕はそのまま意識を手放した。











 ────────






 ────────────────






 ────────────────────────











 …………誰かの声が聞こえる。

 そういえば僕、突然眠くなって……あれから、どのくらい眠ってしまっていたんだろう?


「此処は……」


 辺りは真っ暗で、明かり一つない。

 どこかの部屋……にしては、やけに広く感じる。

 あの三人は? ヒューマは? 皆、どこに行ったんだろう?


 ──アラン、そこにいるんだろ!


(…………誰?)


 聞き覚えはあるのに、その声が誰のものなのか思い出せない。


 ──いつまで、こんな奴に好き勝手させているつもりだ!


 こんな奴? 好き勝手? 一体、何の話をしているんだろう?


 ──それでもお前は魔王を倒した勇者か!


 勇者……あぁ、そうだ。僕は勇者だ。

 今は見習いだけど、でも、いつかは……あの絵本みたいな立派は勇者になるんだ。

 その時は彼も……ライも一緒に、


(あ……)


 思い出した。どうして今まで忘れてたんだろう?

 ライ、僕の幼馴染。大事な大事な幼馴染。

 こんな所にいる場合じゃない。早く()()()()()


 ──さっさと目覚めろ、アラン・ボールドウィン!!


 その呼びかけに応えるように目覚めた僕が最初に見たのは、剣で心臓部を貫かれた幼馴染だった。

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