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39.5話_閑話:とある少年の独白

※今回は、リュウ視点で進みます。

 妖精(フェアリー)族の中のピクシーとして生まれたオレは、幼い頃から異性と関わる事が多かった。妖精(フェアリー)族は、他の種族と比べて何故か女が多い。だから、幼少期の記憶には、ほとんど男がいない。

 ()()()()()や人形ごっこなんて、日常茶飯事。そう言えば、無理やり女装させられた事も……っと、これは余談だった。

 一応、同性との付き合いもあるにはあったが、読書をしたり、ボードゲームをしたりと、室内で行えるものしかしてこなかった。オレの周囲の男友達には控えめな奴しかいなかったのだ。

 容赦のないボールの蹴り合い、多くの友人達に囲まれながらの電子ゲーム対戦。時には拳と拳を交えて喧嘩して、最後は肩を組んで笑い合いながら仲直り。

 そんな他の種族の交流を遠くから見つめていたオレは、いつしか、あの中に入りたいと思った。

 しかし、オレが背負っている現実は、そんな単純な願いさえ叶えさせてくれなかった。

 ピクシーは妖精(フェアリー)族の中でも身体が小さく、人間の手のサイズ程の大きさしかない。中には、それより小さい奴もいる。

 そんなオレ(ピクシー)が、普通の人間並みに大きい彼らと交流どころか遊ぶなんて事が出来るだろうか?

 自分よりも大きなボールを蹴り合い、自分と同じくらいの大きさの電子ゲームを扱い、自分の何十倍もある相手と拳を交えて喧嘩をする……そんな事が、果たして可能だろうか?

 いや、不可能だ。少なくとも、オレには出来なかったし、そもそも自信すら無かったが、どうしても諦めきれなかった。

 愛読していた魔法書を使って独学で勉強し、自分の姿を完全に偽る事に成功した。

 妖精(フェアリー)特有の耳も、羽根も無く、背丈も平均的な人間の子どもと同じくらい……どこからどう見ても、人間の子どもだった。

 偏った種族よりも人間に変化した方が色々と好都合だし、この姿なら、あの中に入っていける。

 色んな種族の子ども達が集まる公園へと足を運び、勇気を出して声をかけた。


「い、一緒に、遊ぼう……!」


 キョトンと丸い目を向けられた。中々返ってこない返事にバクバクと心臓を高鳴らせたが、目の前の子ども達は、そんなオレの不安をかき消すように歯を見せながらニッと笑った。


「いいよ! 一緒に遊ぼう!」


 それからは、毎日が楽しかった。

 異性とか種族とか小難しい事は考えずに、ただ遊びたい奴と遊ぶ。

 そんなシンプルな思考しか持ち得なかったオレ達は、日が暮れるまで遊び尽くした。

 1週間、1ヶ月、1年と時が過ぎていき、オレ達は身体も考えも少しずつ大人になっていった。

 それは各々の親にとっては喜ばしい事だっただろうが、オレとしては出来れば、あのまま時が止まってしまえば良かったのにと、無情にも進み続ける時の流れに恨みさえ抱いていた。

 その日は、何の音もなく、突然やって来た。

 いつものように公園で遊んでいると、小さなスライムが茂みから現れた。

 スライムの存在に気付いた俺達は、遊びを中断してスライムの方へと駆け寄った。逃げ出そうとしたスライムを1人が捕まえて興味深そうな表情で、その感触を楽しんでいた。


「おい、これスライムだぜ」


「プニプニしてる……」


 初めての出会いに思わず、言葉にならない興奮が身体の内側から湧き出てきた。

 その興奮は子どもながらの純粋な好奇心へと姿を変えた。

 初めは、単純にスライムの感触を楽しむだけだった。指でつついたり、少しだけ伸ばしてみたり……そんなものだった。

 そうして触れていくうちに、純粋な好奇心は、純粋が行き過ぎた故の残酷で狂気的なモノへと変わってしまった。


「スライムって、どこまで伸びるのかな?」


「スライムって、泳げるのかな?」


「スライムって、燃やすとどうなるのかな?」


 無限大に広がる好奇心を抑える方法を知らなかった彼らは、捕まえたスライムに様々な事をさせた。

 二人がかりで限界まで引っ張ってみたり、水を多く入れた水槽にスライムを入れ込んでみたり、ガスコンロを使ってスライムを燃やしてみたり。

 そんな事を繰り返して1週間も経たぬうちに、そのスライムは死んだ。

 出会ったばかりの頃のような艶は無く、感触の良かった身体も、いつの間にか傷や火傷が目立ちボロボロになっていた。


「死んじゃったね」


「うん……でも、仕方ないよ。だって、スライムは()()から」


 オレに向けられたわけでもないのに何故か、この言葉が俺の胸に突き刺さり、抜けずに残ったままだった。


 ◇


 気がつけば異性の事を、ほんの少しだけ意識し始める年頃まで時が進んでいた。

 その頃には、家の近くにある小さな学校に通っていた。

 そこで、残酷な現実を知った。


妖精(フェアリー)族は、様々な種族の中でも圧倒的下位にある」


 どういう経緯から、その一言が発せられたのかまでは憶えていないが、偉そうな外部講師の男は確かにそう言っていた。

 その一言は端的ながらも、子ども達の興味を惹くには充分だった。


「どうしてですか?」


「理由は単純だ、少年。……妖精(フェアリー)族は()()からだ」


 それが模範解答だと言わんばかりに男は生徒の問いに答える。

 あの時のスライムと同じだ。人間(彼ら)にとって妖精(オレ達)()()という一言で事足りる程度の存在なのだ。

 その日を境に、まるで呪いにでもかかったかのように周囲の妖精(フェアリー)族に対する当たりが強くなった。

 昨日まで一緒に遊んでいたゴブリンやピクシーといった所謂、妖精(フェアリー)族に区分けされる種族を仲間外れにする奴らが続出した。

 ピクシーである事も、この姿が魔法によって作り出された偽りの姿である事も誰にも打ち明けていなかったオレは、その対象にはならなかったが、幼い頃に一緒にいたピクシー達は容赦なく仲間から外された。

 そんな彼らを庇うことも、況してや彼らと同じように蔑む事も出来ず、オレは気付かないフリを続けた。

 そんな裏切りとも呼べる行為を続けていたオレを、神様は許す筈が無かった。


「お前、ピクシーだったんだな」


「ぇ……」


 突然という言葉が実にしっくりくる程に、それはやって来た。

 聞き間違いかと現実逃避をするも、キーンと脳内に響く耳鳴りのような音が、オレを現実へと引き戻す。


(どうして、バレた? オレの魔法はいつも通り完璧だった……まさか、他のピクシーが俺の事を……)


「進級した時に書いた……何だっけ?」


 1人の少年が首を傾げると、隣にいた少年が彼の頭を軽く叩いた。


「バカ、児童調査票だよ」


「あ、そうそう、それ。今日、職員室に行った時、お前の調査票が先生の机の上に置いてあったんだ」


 その声には、昨日まで感じていた親しみと優しさが、一切感じられなかった。

 いや、今は、それよりも……


(仲間を……疑ってしまった……)


 裏切るだけでは飽き足らず、疑念まで抱いてしまった。そんな自分に嫌気がさした。

 しかし今は、目の前で肌に直接突き刺さるような鋭い視線を向ける彼らを、なんとかしなければ……


「だ、誰かの調査票と見間違えたんじゃ……」


「いや、アレは見間違いじゃない」


 淡い期待は、あっさりと打ち砕かれた。


「アレは確かに、お前(リュウ)の名前が書かれた調査票だった。間違いない」


 その時のオレはまさに、逃げ場のない崖端(がけばた)まで追い詰められた犯人になった気分だった。

 こうしてオレは、友達を失った。

 昨日まで笑い合いながら遊んでいたとは思えない程に、呆気なく。

 所詮、彼らとの繋がりなんて、その程度のものだったのだ。

 そもそも、本当の姿を一度も見せた事がない相手を、そう呼べるのかも怪しい。

 今なら、同じ事があっても耐えられるが、当時のオレにとっては人生の終わりを迎えたかのような絶望感に蝕まれ、この先の人生に楽しい事なんて無いと、文字通り、お先真っ暗となった。

 幼い頃に負った心の傷は、そう簡単には治らない。それは、この身を以て知っている。

 ある程度の事に見限りを付けられるようになった今でも、見事に残っているのだから。


 ライ……お前は、知らないだろう。

 新入生代表に選ばれるようなお前がスライムと(たわむ)れている姿を見た時、オレがどれほどの衝撃を受けたか。

 今も、迷いなく模擬決闘(モックデュエル)に、このスライム参加させると言った、この瞬間だって、そうだ。

 彼の言葉は、側から見ればトチ狂った奴の狂言だ。

 自分より弱い立場の者とは決して相容れない環境で育ったオレにとって、この光景は夢物語と言っても過言ではない。

 そんな光景を、いとも簡単に目の前で繰り広げ続けるお前に、どんな感情を抱いたかなんて知らないだろう。

 この御時世、スライムを引き連れている奴なんて、よほどのスライムマニアか変人か、わざと自分より下位の存在を身近に置く事で自分の地位に酔いしれる変態くらいだろう。

 だが、彼はどれにも当てはまらない。

 スライム好きというわけでもなさそうだし、自分の能力を誇示する様子も見せない。

 それどころか……オレが妖精(フェアリー)だと知って尚、彼は、野次馬に紛れる事なく助けてくれた。昔のオレには出来なかった事を、お前は難なくやり遂げた。

 単純だ、チョロ過ぎると言われても構わない。なんならオレ自身、そう思う。

 模擬決闘(今回)の件でオレを勝手に除外しようとしていた事にはムッときたが、それは役立たずとかそういう理由では無く、配慮だと分かった時には、もうそんな気持ちも薄れていた。

 改めて言おう。

 オレは自分が思っていた以上に単純でチョロいようだ。

 ほんの少し前まで、〝天才様〟と嫌味を含めて呼んでいたのが嘘のようだ。

 オレが、こんな事を思っているとは(つゆ)知らず、目の前でじゃれ合う2人(正しくは、1人と1匹)に絆されていく自分に、思わず溜息を吐いた。

 しかも、それが不思議と嫌に感じないから、尚更、タチが悪い。


(ライになら、()()()姿()を、見せても良いかも……なんて)


 とうとう思考が末期の域に達したらしい。

 思わず出てしまった心の声を誤魔化すように、2人を見つめながら軽い笑い声を立てた。


 ◇


(……チョロいのは、お互い様のようですけどね)


 ここまでの独り言を、会って間もない奴に全て聞かれていたなんて……それは最早、彼の(あずか)り知るところではない。

※妖精族:物語に登場するような、小さくて羽根を生やした者から人間に近い姿をした者まで、容姿は様々。また、性格や寿命も異なっており、各々が様々な場所で発展している。エルフやドワーフ、ゴブリン、ピクシーなどが該当する。


※ピクシー:数ある妖精族の中でも、身体が小さく、背中に綺麗な羽根を生やしている。好奇心旺盛、悪戯好きといった子どもらしい性格を持つ者が多い(勿論、例外もいる)。力は無いが魔法……特に他人を補助する〝補助魔法〟に長けており、パーティに加える冒険者や勇者は少なくない。



今回は特別枠として、幼少期を交えながらのリュウの長い独り言編でした←

そして早くも、1人目攻略なるか?!(※友情的な意味で)

今まで育ってきた環境が環境なだけに、ほんの少しでも優しくされるとすぐに絆され……あれ?これ、なんてチョロイン?

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