37話_依頼を経て……
今回は、いつもより短めです。
次回から、本格的に話に入っていきます。
カーテンから漏れ出る光と外から聞こえてくる小鳥のさえずりで意識が現実へと引き戻される。
頬にくる軽い衝撃に目を開けると、やけにリアルな手の形に形成されたスカーレットの身体の一部が起きろと俺の頬を軽く叩いていた。
いつもは細長い触手で叩いていたのに。
(……コイツ、いつの間にこんなにリアルな手を形成出来るようになったんだ?)
まだ覚醒しきっていない意識で考えたところで答えが出るはずもなく上半身だけ起こして伸びをした。
少し離れた所にある、もう一つのベッドには大きな山が出来ていて微かに上下している。
どうやらリュウは、まだ夢の中にいるようだ。
(結局……あれから、ずっと眠っていたのか)
昨日、寝たのは何時頃だったのだろう?
まだ明るかった気もするし、そうでも無かった気もするが、久しぶりにぐっすりと眠れたせいか疲れはだいぶ取れた。
なるべく音を立てないようにベッドから立ち上がり、洗面台へとゆっくり足を進めた。洗面台の鏡に映った自分の姿を見て、思わず苦笑した。
「……また、か」
角のように上を向いて跳ねた寝癖を手で数秒押さえる。
離すと、ピョコッと再び角が生えた。
自分が魔王だった時も、こんな感じの角を生やしていたなと懐かしい気持ちになりながら俺は慣れた手つきで寝癖を直し始めた。
日常が戻ってきても、深緑と桃色の二色が互いに寄り添うように交差したシンプルな模様が、手首を拘束するように一周している。まるでツードラゴ村であった出来事を忘れるなと言われているようだ。
(当然と言えば当然なんだが……夢じゃ無いんだよな)
寧ろ、そうだったら、どれほど良かったか。
寝癖を直し終わり、制服に着替え終えた頃にリュウは起きた。
既に制服を着ていた俺を見て寝坊したのかと慌てふためいていたが、壁に掛けられた時計に目をやるとホッと一息ついていた。
「人間ってヤバいって心の底から思った時によくサーッと血の気が引いていく……なんて表現を使うけど、あれ……本当だったんだな」
今初めて、その発言をしたかのように振舞っているが、俺がこの言葉を耳にしたのは本日で三回目だ。
彼の言葉を軽く聞き流しながら俺達は教室へと続く廊下を歩いていた。
今日はクラス合同の授業の日。今朝、担任のビィザァーヌから寮にあるパソコンに届いたメールを見て初めて知った。
メールが送られたのは昨日だったようだが、昨日はほとんど寝ていたためメールの存在に気付かなかったのだ。
指定された教室の扉を開けると入学式で見覚えのあるいくつかの顔(なお全員、女)があった。
「……入学式の時も思ったけど、本当にこの学校って女率高いよな」
いくら女の子好きでも限度ってものがと意味の分からない事を言い始めたリュウを置いといて俺は空いている席を見つけると足早にそこへと向かった。
後ろの方から何やら慌てた声が近づいてくるが知った事ではない。
座ろうとした椅子に手をかけると、逆側から椅子の背もたれに触れる手が見えた。顔を上げると、そこには……
「げ……」
あからさまに表情を歪ませたカリンが俺を見つめていた。




