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228話_縋った先は吉か凶か

 カグヤからの懇願を受けて率直に頭に浮かんだのは、いくら何でも頼る相手を間違えているのではないかという客観的な疑問だった。

 彼女ほどの立場ならアルステッド達を頼ることだって出来たはずだ。

 にも関わらず、彼女は彼らではなく俺を頼ろうとしている。

 この世界で約200年も生きている者の判断とは到底思えない。


「何故、俺なんですか? 貴女ほどの方なら、こういった場面で頼りになる方々など、いくらでも……」


「ライ、大人というのはな子どもより単純で厄介な思考を持った生き物なのじゃ。自分にとって損となるか得となるか。自分にとって有害か無害かばかり考えて付き合う相手を選び、普段は素っ気ない癖に都合の良い時ばかり気味の悪い甘ったるい声で囁いてくるような連中ばかりじゃ。特に儂のような、ちぃとばかし特殊な立場の者の周りには、そういう輩が多くてな。振り払っても振り払っても周囲を飛び回り続ける虫並みに鬱陶しいのじゃ」


 あえて深くは触れないが、何だかカグヤの心の闇を覗いてしまった気分だ。

 彼女の言い分は分からなくもない。

 実際、昔の世界にも居た。そういう輩は。

 ただ相手にはしなかった。俺が出ずとも自然と衰退していく。それが彼らに与えられた末路だ。

 彼女も、そういう者達を見てきたのだろう。

 200年も同じ世界に居座っているのだ。誰よりも、この世界の実情に詳しい存在とも言える彼女が、こう言っているのだから間違いないのだろう。

 つまる所、彼女は身近に信用できる大人がいないから無害だと判断した俺を頼ろうと思ったのだろう。

 蘇生魔法を使えると分かったことで普通の子どもという枠組みからすらも外されてしまった俺を。


「貴女の言う〝大人〟には、理事長達も含まれているんですか?」


「いいや。頼れないという点では同じじゃが、彼奴等の場合は理由が違う」


「理由、ですか?」


「そうじゃ。彼奴等は……まぁ、気に喰わん奴もおるにはおるが根は皆、良い奴ばかりじゃ。これまで何度も儂を支えてくれた。じゃが、流石に今回ばかりは協力を得るのは難しい。何しろ、この件には国が絡んでおる。国の中心である国王には誰も逆らえん。逆らったところで王を守る聖騎士(パラディン)に取り押さえられ、肉体的或いは社会的に殺されてしまうのが目に見えておるからな」


 アルステッド達でさえどうにも出来ない相手を前に、俺にどうしろと言うんだ?

 まさか彼らの前で死者(デッド)蘇生(・リヴァイヴァル)でも披露しろというのか?


(いや、アルステッド達にあの魔法の存在を言わなかった時点で、それは無いか)


 そもそも蘇生魔法を披露するってのは、どう考えても変だろ。

 かと言って、誰かが大怪我をしたわけでも無いのだから瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)を披露することも出来ない。

 ……いやいや、そもそも魔法を披露すれば良いって話でも無いだろ?!

 段々と収集がつかなくなってきた思考を落ち着かせる為に、一度大きく深呼吸をする。

 頭の中で渋滞した思考を一気に吐き出すように息を吐き、外からの新しい空気を取り込んだことで少しだけ落ち着いた気がする。

 さて少しは落ち着いたところで、この後どうするかだ。

 城に忍び込んでカリン達を救出。言葉にするのは容易いが実行しようとなれば、そう簡単にはいかないだろう。

 せめて一人でも協力者が居てくれたら。


「あ、あの、僕に考えがあるんですけど良かったら聞いてもらえませんか?」


 そう言って控えめに手を挙げたのはハヤトだった。


「良いぞ、隼人。申してみよ」


「……実は、僕もアルステッドさん達と同じように王様から呼ばれてるみたいなんです」


「な、何じゃと?!」


 ここにきて予想外の事実に、カグヤも俺も驚きを隠せない。

 招集命令を受けていたにしては、アルステッド達の彼に彼に対する反応が皆無だった気がするが。


「じゃが、アルステッド達は御主のことなど一言も……」


「はい。これは僕の予想なんですけどアルステッドさん達も僕が呼ばれていることをまだ知らないんだと思います。様子を見た限りアルステッドさん達は今日から来るように言われていたようですが、僕は明日来るようにと言われているので。もしかしたらアルステッドさん達には今日知らされるのかも知れません」


「何じゃ、それは。何故、御主だけ明日なのじゃ?」


「わ、分かりません。でも僕の同行人として彼を連れて行けば城の中には簡単に潜り込めるんじゃないかなーなんて、そ、そう上手くはいきませんよね?! すみません、やっぱり今のは忘れ……」


「いや。その作戦、意外と有りかも知れぬ。恐らく部外者を入城させるほど警備は甘くないじゃろうから付き人として入ることは難しいやも知れぬが……ライ、御主は自分の身体を透明にすることは可能か?」


 どうやらカグヤも俺と同じことを考えているらしい。

 いざとなったら警備や城内に張られているであろう結界を思慮に入れながら慎重に忍び込むつもりだったが、そんな苦労をしなくて済みそうだ。


「出来ることは出来ますが、王都の入り口の門での検問のように城の入り口に魔力感知等が施されていないかが気掛かりで」


「ふむ。まぁ、問題ないとは思うが、念のため何か対策は考えておいた方が良さそうじゃな……む、そうじゃ! 隼人よ、御主の結界魔法を使えば何とか上手く掻い潜れるやも知れん!」


 名案だとばかりに声を上げたカグヤに対し、ハヤトは何処か夢見心地な声を漏らした。

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