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224話_幻想文学染みた報告

 誰も口を開けない中、誰よりも早く言葉を発したのはカグヤだった。


「それは、また……(たち)の悪い冗談、じゃな」


 彼女の中で疑念と確信が戦っているのが分かる。

 目には見えない分、震える彼女の声が何よりも動揺を証明している。


「お、御主も人が悪い。こんな悪趣味な嘘を吐きおって。どうせ腹の中では儂の反応を見て楽しんでおるのだろう? なぁ、アルステッド」


 カグヤの問いかけにアルステッドが答える様子は無い。

 何も言わず、ただ同じ方向を見続けている。

 何も言わないアルステッドを不審に思ったカグヤが、もう一度だけ彼の名を呼ぶが、やはり応答は無い。


「ヴォルフ?」


 無口になってしまったアルステッドに痺れを切らしたのか彼女はヴォルフの名を口にする。

 呼ばれたヴォルフはアルステッドとカグヤを交互に見つめるように首を数回動かした後、床に視線を落とした。


「……申し訳ありませぬ、カグヤ様」


 何に対してなのか分からない彼女への謝罪の言葉を零しながら。


「ビィザァーナ、ビィザァーヌ……何故、御主等は泣きそうな顔をしておる? アルステッドの冗談が、そんなに怖かったのか? 安心せい。今から儂がアルステッドの奴に説教を……」


「カグヤさん」


 独走するカグヤの言葉を止めたのは、アルステッド。

 その声は我が儘な子どもに言い聞かせる親のような抑圧感を含んでいた。


「もう気付いていない振りをするのは止めて下さい。誰よりも長く我々を見てきた貴女なら、あの言葉が嘘か否かなど最初から見抜けていたはず。私もヴォルフも、そしてビィザァーナとビィザァーヌも、これを事実として受け入れています」


「では……今の話は(まこと)か?」


 全員の無言による肯定により、彼女は認めざるを得なかった。

 この世界には居なかったはずの〝魔王〟が現れたのだ、と。


「じゃ、じゃが何故、今になって魔王の存在が? この200年、名前を聞いたことはあるが実物が現れた等という話は聞いたことが無いぞ」


「だから我々も驚いているのですよ。正直、初めて話を聞いた時は貴女と同じ反応でした。何故なら魔王とは、この平和な世界に少しでも刺激が欲しいと願ったとある絵本作家が作り出した空想上の存在だと……子どもの頃から、そう教わってきたのですから。いきなり信じろという方が無理な話でしょう」


「その御主等が信じておるのじゃ。よほど信憑性の高い情報か何かを得たのじゃろう?」


 アルステッド達もカグヤと同じように魔王が現れたという話を信じていなかった。

 信じていな()()()が、今は信じている。それは即ち、信じていなかった彼らが信じざるを得ない情報があるということ。

 では、その情報とは一体どのような内容なのか? なんて期待したところでカグヤは兎も角、一生徒である俺が教えてもらえるわけが無い。


「昨日、二つの村が消滅しました。いや、あれは消し飛ばされたと言った方が正しいのかも知れません。これだけでも異常なことですが、この異常性にはまだ続きがあります。これは、とある観測者からの報告で得た情報なのですが……星の位置が、この一晩で大きく変わっているようなのです」


「星が……?」


 先ほどの発言は撤回しよう。

 これは意外と、すんなり教えてもらえそうだ。


「消滅した村を特定した我々は現地に調査員を送り、何が起こったのか知る為の手掛かりを集めさせました。そして調査員が持ち帰った者や情報を基に分析を重ねた結果、この世界では希少価値とされる鉱石が発見された。その鉱石の名は、空からの贈り物(ハントライネ)。伝承によれば大昔、この世界に初めて星が降った日を境に極稀ではありますが見つかるようになったとされることから、この名前が付けられたとか」


「星が降る? そんな御伽話のようなものは聞いたこと無いぞ」


「貴女が知らないのも無理はありません。この出来事が起こったのは貴女が生まれるよりも、ずっと前の大昔のことらしいですから。それに、このことが記されている史実は学校(うち)で厳重に保管されている書物の内の一冊でもあります故。知っている人も極小数と限られているでしょう」


「むぅ……どうも現実味の湧かない話ばかりで頭がどうにかなりそうじゃわい」


 俺もカグヤと同意見だ。

 村の消滅に関しては、変わり果ててしまった故郷を目の当たりにしたのだから例外として。魔王が現れただの星の位置が変わっただの(にわか)には信じ難い話の連続で、脳が消化不良を起こしそうだ。


(…………ん?)


 ここで俺は、少しずつ抱き始めていた違和感の存在に気付いた。漸く、と言っても良い。

 本当なら、もっと早い段階で気付くべきだった違和感を今更になって認識したのだから。

 〝魔王が現れた〟と、彼は確かに公言した。

 だが、この世界には本当は魔王など居るはずがなくて。前の世界では一応、魔王だった俺は今もこうして普通に学校生活を送っているわけで。

 いつから? どのタイミングで? 何を切っ掛けに?

 いや、それ以前に……誰が、魔王を名乗っている?

 続々と新たに湧いて出る疑問で脳が圧縮されたせいか、軽く目眩がした。

もう暫く、状況説明パートが続きそうです…(出来れば、次回で終わらせたい←)

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