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222話_異例〈イレギュラー〉の宿命

 カリンとアルステッドが手を組んで俺を陥れようとしている。それが事実だと言われても難なく受け入れてしまうだろう。

 そう思ってしまうほどに、悪い意味でタイミングが合っていた。

 寧ろ、偶然であってほしく無かった。この、あまりにも不都合過ぎる展開が偶然から生まれとなれば俺は相当、運が悪い。

 偶然、俺達が話をしているところに。偶然、アルステッドが現れて。よりにもよって偶然、俺が瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)を使ったという話を聞いてしまったことになるのだから。


「カリン君、先ほど瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)と聞こえた気がしたんだが……私の聞き間違いだったかね?」


「いいえ、聞き間違いではありません。彼は、学校でも緊急時以外の使用はしないようにと言われていた瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)を発動させたんです」


「ほぉ?」


 アルステッドの鋭い視線が俺を捉える。

 ここで下手に反論すれば墓穴を掘るだけだ。俺が瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)を使ったのは紛れもない事実なのだから。


「にも関わらず、彼の身体に何の影響も無いところを見ると魔法は無事に発動されたということだね」


「はい」


 俺に視線を向けながら、あえてカリンから情報を収集するアルステッド。

 大方、基本となる情報は彼女から集め、最後の最後で俺に答え合わせを求める戦法だろう。

 ……初めから俺に直接、聞いてくれば良いものを。やることが大人気ない。というよりも、卑劣だ。

 

「ライ君、今の話は本当かね?」


 やはり、俺の考えは正しかった。最早、予想通り過ぎて笑いたくなるほどだ。

 ここで否定したところで無意味だ。何たって、目撃者(カリン)がいるのだから。

 だから、ここは素直に肯定の意を込めて頷く。


「……あの時は、少なくとも俺の中では緊急時でした」


「だから魔法を使った、と? 聡明な君のことだ。万が一、失敗した時の代償を知らないわけでは無かっただろう?」


 そこを突かれるであろうことも想定はしていたが、まだ彼を納得させられるような言い訳を思いついていない。


「勿論、理解はしていました。それでも、少しでも可能性があるのなら賭けてみたかったんです。相手も、その魔法の危険性を承知した上で俺が魔法を使うことを許可してくれました」


 本当は俺が許可を貰うどころか、アザミの方から頼んできたことなのだが。


「そうか。まぁ、君が魔法を使った経緯は大した問題ではない。例え、それが禁断(プロイビート)魔法(・マジック)であったとしても。あくまでも魔法によって生じた損害は魔法を発動させた本人が償うものだからね。ただ、これだけははっきりさせなければならない……ライ君、君が瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)を発動させることが出来たのは()()かね?」


 そんなの偶然に決まっている。

 頭の中で既にアルステッドの問いに向けての答えは出来上がっていたが、それを口に出すことは出来なかった。

 理由は、アルステッドから感じる魔力。

 彼は今、何かしらの魔法を使っている。

 その魔力を感知した結果……対象者の言葉が嘘か真かを見抜く真偽魔法(ウアタイル)であることが判明した。

 この魔法を無効化すること自体は難しくはない。

 だか、魔法を無効化すると発動したはずの魔法が何の反応も示さなくなってしまうから必然的に相手に悟られてしまう。

 かと言って、このまま黙っていたら余計に分が悪くなる。

 こうなったら横暴ではあるが、屁理屈を並べるだけ並べて少しずつ話題を逸らしていくしかない。


「偶然であっても、そうでなかったとしても、それも大した問題では無いでしょう。魔法は発動した。この結論だけで俺は充分だと思いますが?」


「私と君が今話しているのは、そういう主観的なものでは無いのだよ。君は、勇者と魔法使いが対立関係にある理由を知っているかね?」


「長い歴史の中で生まれた価値観の違い。授業では、そう習いました」


「随分と意味深な言い方をするね。まるで君の見解は違うと言わんばかりだ」


「…………」


 物理的な〝力〟を主体とする勇者と、魔力のない者にとっては観念的である〝魔法〟を主体とする魔法使い。

 両者の共通の敵がいたならば、このような世界にはなっていなかっただろう。

 互いの利点を探り、代えのきかない戦力として認め合うことで両者の間に芽生えるのは結束力。

 しかし、この世界には彼らの共通の敵となるような脅威は存在しない。

 態々、戦力のバランスや相性等を考慮する必要は無いのだから、(つる)むのは気の合う連中か自分と似たような境遇を持つ連中だけで充分だと感じてしまう。

 そうなれば勇者は勇者、魔法使いは魔法使いと、同じ者達で大きくグループ化される。

 後は切っ掛けさえあれば対立という関係は、あっという間に成立する。

 少しでも亀裂が入り、そこを突かれてしまえば簡単に崩れ落ちてしまう。

 互いに信頼も尊敬もない薄っぺらい関係など所詮、その程度だ。


「この現状について君が何を思っているのかは聞かないでおくが、これだけは言わせてもらいたい。もし君が勇者と魔法使いの今の関係を良しとしていないのならば、それは大きな勘違いだ」


「……どういう意味ですか?」


「勇者と魔法使いは対立しているからこそ均衡が保たれているのだよ。立場のバランスに偏りが生じてしまえば、必ず独占的思考が生まれてしまう。だが、互いに警戒し、敵視し合っている間は何かを仕掛けない限りは(いず)れかが優勢に立つことも劣勢に立つことも無い。その状態を維持することで支配欲が抑制されているのだよ」


(あぁ、なるほど……そういう事か)


 今ので、あの問いの真意が見えてきた。

 要するに彼は、この対立関係が崩壊することを危惧しているのだ。

 優勢に立つということは言い換えれば、それだけの影響を及ぼすほどの力、若しくは存在を得るということだ。

 そして彼は、俺が()()()()()()()になるのではないかと恐れている。

 もし俺が禁断(プロイビート)魔法(・マジック)と定義される魔法を全て難なく使えるとしたら……それは魔法使いの存在価値を高めてしまうことになるから。


「ですが、対立している両者を互いに手を取り合う協力関係にするのが理事長達の目的では無いのですか?」


 だから実技試験の時も、あえて勇者と魔法使いを組ませて試験に挑ませようとしていたのでは無いのか?


「確かに、君の言う通り最終的な狙いはそこだ。我々の目的は勇者と魔法使いの共存。勿論、これ以外の職業も例外ではない」


「それなら何故……」


「一度固定化されてしまった人々の意識というのは、そう簡単に捻じ曲げられるものでは無いのだよ。何故、魔法使いは前線で戦う自分達の後ろで魔法を放つだけなのに、あくまでも立場は自が上だと言わんばかりに偉そうなのか? 何故、勇者は魔法のサポートに少しも有り難みを感じてくれないのか? 初めは些細な不満でも時間と共に肥大化してしまった不満は、そう簡単に取り除くことは出来ない。互いに強い矜持を持っているならば尚更」

 

 長い時間をかけて根付いてしまった意識は変えられない。正確には変えられないことは無いが、今すぐにというのは難しい。

 だから今は、何方も優勢に立たない対立関係を築かせ続けるしかない。

 今後、この関係を大きく変えるような転機が訪れる可能性に賭けるのは、あまりにも無計画過ぎる。

 だからこその現状維持。それが現段階での最善。そう判断したのだろう。


「仮に、俺が瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)を意図的に発動させられると答えた場合は……?」


「それが事実であるとするのであれば、教師としては君の優秀さに敬意を表するとも。だが同時に、君は我々の監視下に置かれることになる。君の行動一つで、魔法使い側が一気に優位に傾くことになるからね。そうなれば後は、どうなるか……これまでの話を聞いてきた君なら分かるだろう?」


 あくまでも平等な立場として辛うじて両立していたもの傾いてしまうわけだから、職業間での格差が生まれてしまう。

 今でも全く無いというわけでは無いだろうが、今よりも深く明確な溝が生まれてしまうのは確かだ。


「そんな事態になれば最早、勇者と魔法使いの関係だけの話では収まらない。この影響が他の職業間にまで及んでしまえば我々が目指すべき世界は遠のくどころか、二度と手に入らないだろう」


「なぁにが〝二度と手に入らないだろう〟じゃ。無駄に体裁よく見せおって。修羅の道であるのは初めから分かっておったことじゃ。それを分かっていて進むと決めたのは他でもない御主じゃろうに」


 その声は、先ほど俺が入っていた〝箱〟の中から聞こえた。


「ビィザァーナ達から報告を受けた時は半信半疑でしたが、本当に回復されていたんですね」


「お陰様でな。今から黄泉に行ったところで大した土産話も出来んから、もちっとだけ居座ってやろうと思ったのじゃ。残念じゃったな、アルステッド。死に損ないの老ぼれは長生きすると昔から決まっておる。儂と御主との腐りに腐った縁は、まだまだ続きそうじゃな」


「……色々と言いたいことはありますが、とりあえず心配する必要も無いほどに元気になられたことは分かったので安心しました」


 膨れていた風船の空気が抜けたような脱力感を抱えたような表情でカグヤの言葉に返すアルステッドを見て、何となく彼らの関係性が見えたような気がする。


「カグヤさん。病み上がりのところ申し訳ありませんが、お尋ねしても宜しいですか?」


「何じゃ、改まって」


「貴女が、この短時間でここまで回復できたのは……彼のお蔭ですか?」


 〝彼〟というのが俺のことを指しているということは、すぐに分かる。

 俺からは望みの答えが聞けないと思ったのか、どうら彼はカグヤを通じて答えを得ようとしているらしい。

 正直、これは不味い。非常に不味い。

 彼女には、魔法の名前を教えてしまっている。彼女が死者(デッド)蘇生(・リヴァイヴァル)の名を出してしまえば、そこで終わりだ。


 思わずゴクリと、喉が鳴る。

 万が一の時は、時を戻して無かったことにしてしまおうか。

 最早、手段が選べないところにまで考えが至った時だった。


「何を言っとるんじゃ、御主は。御主の言う〝彼〟が誰のことやら皆目検討もつかぬが、儂は自力で治した。それ以外の事実は無い」


 これに関する詮索も異議も認めない。

 そう言わんばかりに強い意志が裏打ちされた彼女の言葉が、静寂する御伽領域(フェアリーランド)に響き渡った。

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