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221話_やはり和やかには終わらない

 先ほどまで布団の上に横たわっていた老婆は幻覚の類か何かだったのだろうか?

 そう思わせるほどに、目の前の彼女は見事な大変身を遂げていた。


「ほっほっほ! 身体が軽いのぅ。やはり人間、健康が一番じゃ!」


 見た目同様、若者らしい溌溂(はつらつ)とした輝きを放つカグヤは、ある意味、今の俺よりも元気そうだ。

 彼女が元気を取り戻したことと魔法が無事に発動されたことへの安堵からか、一気に身体の力が抜ける。

 久し振りに蘇生魔法を使ったせいだろうか、軽く目眩がする。

 確かに蘇生魔法は扱いが難しいとされる上級魔法に位置されるが、昔の俺なら一度や二度でここまで魔力の消費が身体に影響することは無かった。

 それが今や、たった一度の発動でこの様だ。


(……原因があるとすれば、前回の魔力融合(マジッ ク・ユニゾン)。あの時は体調に何も変化がなかったとはいえ、消費した魔力量は予想していた何倍も多かったからな。少しは影響も出るか)


 我ながら納得できるような出来ないような言い訳だが、この辺りで完結させておくことにした。

 今更、あれこれと考えても仕方がない。

 とりあえず今は、カグヤが回復したことをビィザァーヌ達に報告しなければ。


「俺は、ビィザァーヌ先生達に報告して来ます。元気になって嬉しいのは分かりますが、まだ安静にして下さいよ」


「分かっておる」


 少しだけ不満そうに頬を膨らませる仕草を見せるカグヤが何だか子どもっぽくて、思わず笑みが零れる。


「あ! 何じゃ、その微笑ましいものを見るような笑みは?! というか御主、いつの間にか敬語に戻ってるではないか!」


「あれは、あの時だけですよ。貴女と俺の立場を考えれば、この距離感が妥当です。それにビィザァーヌ先生達の前で、あのような態度を晒すわけにはいきませんので」


「むむぅ……それは、そうかも知れぬが」


 受け答えの様子からしても本当に問題なさそうだ。

 これなら、もう彼女は完全に回復したと判断しても良いだろう。

 この空間の外に出ようとした時、カグヤに呼び止められて振り返る。


「ライ、御主が儂に使った魔法は何というのじゃ?」


「……何故、そのようなことを?」


「何故と言われても……()いて言うなら〝気になるから〟じゃな」


「…………」


 俺は内心、迷った。彼女に、この魔法を教えて良いものなのかと。

 これは俺の予想だが、彼女に使った魔法はグレイに教えてもらった禁断(プロイビート)魔法(・マジック)に分類されるものだと思う。

 発動させても罰せられることは無い。ただ危険視はされるだろう。

 相応の家系の生まれならまだしも、そうでない上に学生の身分でありながら蘇生魔法を使えるなんて知られたら色々と面倒事に巻き込まれる予感しかしない。

 ただでさえ、アルステッドからは目を付けられている節があるのだ。これ以上、変に目立つようなことは出来るだけ避けたい。


「……言えぬような魔法なのか?」


「そう、かも知れません……」


 他人の好奇心を擽るような曖昧な返事だ。

 カグヤから何かを探るような視線を向けられながらも、俺は未だに言おうか言わまいか決めかねていた。

 カグヤの立場になって考えてみれば、彼女が疑問を抱くのも当然だ。しかも、その魔法を中々教えてもらえないとなると不安にもなるだろう。

 ……彼女には、この魔法を知る権利がある。自分が、どのような魔法で救われたのかを知る権利が。


「儂としたことが不躾なことを聞いてしまったようじゃな。まさか御主を困らせる質問だったとは。外に出る機会など滅多にないから俗物のことは、さっぱりでな。どうか許し……」


死者(デッド)蘇生(・リヴァイヴァル)です」


 彼女が謝罪の言葉を言い切る前に、その魔法の名を明かした。

 彼女は目を丸くした後、数回ほど瞬きをした。


「でっと……何じゃ?」


死者(デッド)蘇生(・リヴァイヴァル)です、カグヤ様。それが貴女を救った魔法です」


「でっと……りばいばる……」


 発音が違うが、何度も復唱する彼女を見ていたらそれを指摘するのも野暮な気がして黙って見守る。

 やがて満足したのか、誇らしげな笑みを俺に向けた。


「この度は本当に世話になった。御主は儂の命の恩人じゃ」


「大袈裟ですよ。俺は、俺に出来ることをしただけです」


「御主も謙虚な奴じゃなぁ。一度死んだ人間を蘇らせておいて、その反応か。不可能を可能にすると言われている魔法とはいえ、誰にでも出来るわけでは無いのじゃろう?」


 彼女の言う通り。この魔法は、その場の乗りや気合いで発動できるほど単純なものでは無い。そんなことをすれば、発動した者自身が命を落としかねない。

 発動する為に必要な魔力の量やその他の条件等を全てを把握した者だけが成立させられる繊細な魔法なのだ。


「この恩は必ず返す。結界師としても、カグヤ・アマクサという個人としても二言はない。儂に出来る事ならば何でも申せ。御主の頼みとあらば、喜んで力を貸そう」


 結界師である彼女が味方になってくれるなら、これ以上に心強いものは無い。

 お言葉に甘えて、もしもの時は彼女を頼ることにしよう。

 ……無論、そのような事態が起こらないことが最善ではあるが。


 生き生きとした笑みのカグヤに見送られながら俺は今度こそビィザァーヌ達が待つ、この空間の外へ出た。

 彼女達に俺が魔法を使ったことは伏せた上で事情を話すと、全てを話し合える前に彼女達は競い合うようにカグヤのいる箱の中へと姿を消した。

 それまで、その場から一歩も動かなかったカリンとハヤトは彼女達の異変を不思議に思ったのか説明を求めるとばかりに俺の方へとやって来る。


「……何か、あったの?」


 あれから何度も涙を拭ったのだろう。カリンの目の周りが痛々しい赤を帯びている。


「カグヤさんの体調が回復した」


「は、?」


「俺は、それを先生達に伝えただけだ」


「は、ちょ、いや……はぁ?!」


「えっと、回復したっていうのは、その……そのままの意味で捉えれば良いのかな?」


 案の定、カリンもハヤトも程度は違うが混乱している。

 無理もない。彼らはカグヤの死を覚悟していたからこそ、あそこまで無気力になっていたのだから。


「アンタ……一体、何をしたの」


 彼女の中では既に、俺が何かをしたことを前提になっているらしい。

 俺が彼女の立場でも同じことを言っていた。状況的にも、そう考えるのが道理だ。


「特には何も」


「嘘。あの状態のカグヤさんが自力で回復するなんて不可能よ。アンタがまた何かしたんでしょ。あの時、|アンタが瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)鬼人オーガの腕を再生させたみたいに」


 そう言えば彼女は以前、俺が瞬間(アッティモ・)再生(レナトゥス)を発動させた瞬間を見ていた。

 まさか、このタイミングでその話題を出されるとは思わず、言葉が詰まる。

 このままでは、この話題の主導権をカリンに握られてしまう。

 そうなる前に何か反論しなければと、口を開いた時だった。


「何やら、興味深い話をしているね」


 その声に、言葉に、一気に逃げ場のない壁際まで追い詰められたような感覚になった。

 ()は何故、こうも間の悪い時ばかり現れるのだろう?


「我々も君達の話に加わりたいのだが……構わないかね?」


 何処から湧いて出たのかも分からない汗が、自分の頬を伝ったのが分かった。

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