表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/542

28話_ツードラゴ村

※今回は、第三者視点で話が進みます。

(主人公は登場しません)

 ゼェゼェ、と息を切らしながら地面を見つめる。

 何とか森を抜ける事は出来たが、その道のりは自分の予想以上に長く、険しいものだった。


「だ、大丈夫ですか?」


 隣で声をかけるアランは息切れどころか呼吸の乱れすら感じない。

 これが勇者と魔法使いの差なのか、それとも彼か自分のどちらかの体力が異常なのか。

 答えの出ない議題に、無駄に頭を抱える。


『結構走ったと思うんですが、アランさんは平気なんですか?』


 息を整えながら書いたボードを見せるとアランはキョトンとした表情でボードを見つめ、何かを思い出した表情で口を開いた。


「よく森の中を走り回っていたせいか、僕、体力には自信があるんです!」


『……活発な子ども時代を送っていたんですね』


 褒めたつもりは全く無かったのに、アランは照れたように笑った。


「ライと、よく森で遊んでいたんです。釣りに行ったり森のモンスター達と遊んだり。ライが負けず嫌いのせいで、いつも遊びが遊びの枠を超えちゃってたんですけど」


 懐かしむように話すアランだが、グレイは話の内容に絶句していた。


(森で遊ぶ? あの魔王様が?)


 あり得ない。


(釣り? 森のモンスター達と戯れる?)


 信じられない。

 そうは思いながらも、ホワンホワンと力の抜ける効果音と共に急遽、グレイの脳内で妄想ショーが開催された。


 グレイは〝森で遊ぶ魔王〟を想像する。


「アラン〜、待てよ〜!!」


「あはは! ライ〜、僕はこっちだよ〜。早く捕まえてごら〜ん」


 次は〝森で釣りをする魔王〟を。


「よ〜し、今度こそ大物を釣ってやるぞ!」


「僕も負けないからね、ライ!」


 今度は〝森のモンスターと戯れる魔王〟。


「ははっ、可愛い奴め〜」


「あはっ、くすぐったいよ〜」


 最後は、〝森で楽しく遊ぶ魔王〟……。


「「あははははははっ!!」」


(……駄目だ、全然想像できない!)


 森で楽しそうに遊ぶ姿が想像出来なさ過ぎて、グレイの脳内に現れたライの人格は本来のものとは全くの別物になってしまった。


「グ、グレイさん? 大丈夫ですか? もしかして、どこか体調が悪いとか」


 アランに言葉をかけられて我に返る

 阿呆らしい妄想だったが、皮肉にもそのショーのお蔭で乱れていた呼吸は、いつの間にか落ち着きを取り戻していた。


(え、えぇ、大丈夫です。少し考え事をしていただけなので)


 遠い目をしたグレイに、アランが声をかけた。


「目の前に見えるのがツードラゴ村ですよね? 早速、行ってみましょう」


『……そうですね』


 まだ何もしていないのにグレイは既に疲労感を背負っていた。


(……っと、いけないいけない)


 いつも持ち歩いているマスクを着用し、グレイは先行くアランの後を追う。

 村に入ると畑を耕していた村人が2人に気付き、声をかけてきた。


「おや、こんな所に珍しい。アンタら旅人かい?」


「と、突然すみません。僕達、王都から来たのですが、此処はツードラゴ村で合ってますか?」


 アランがそう言うと、村人は意外そうに目を丸くした。


「あぁ。確かに此処はツードラゴ村だが……王都から態々、こんな辺鄙(へんぴ)な村に一体何の御用で?」


「あ、えと……」


 言い淀むアランを見かねて、すかさずグレイが間に立った。


「少し、お尋ねしたい事があって来ました」


 アランは、グレイを驚いた表情で見つめた。

 今までボードを見せて意思疎通を図っていた彼の身体から聞いたことの無い声が聞こえたからだ。

 まるで彼自身の口から話しているかのように感じるが、肝心の口元はマスクで隠れていて真実は分からない。


「……何だ?」


 グレイの言葉に、村人は訝しげな表情を見せる。


「この村の近くの村にいる女の子について知っている事があれば教えて頂けませんか? 私達は王都のギルドで彼女から……」


「王都のギルド?! アンタ達、もしかしてあの子を助けに来てくれたのか?!」


 グレイが言い切る前に村人はグレイの両肩を掴み、詰め寄った。

 突然の事にグレイもアランも、何も反応する事が出来なかった。


「早く、あの子を助けてやってくれ!! 俺には……俺達には、もうどうする事も……っ!!」


「落ち着いて下さい。まずは何があったのか話してくれませんか?」


 グレイの言葉に村人はハッと我に返り、掴んでいた両肩から手を離して自分を落ち着かせるように軽く息を吐いた。


「ここでは話せない……私の家まで来てくれないか?」


 こうして村人の家へと招かれたグレイ達は早速、村人から話を聞いた。


 数ヶ月前、突然この村に2頭の(ドラゴン)がやって来た。

 村人達が驚く中、2頭の(ドラゴン)は村の広場に降り立ったらしい。

 1頭が頭を地面に付けたかと思うと、(ドラゴン)の背中に乗っていたらしい少女が現れた。

 その少女が身につけている服はボロボロで髪も乱れており、見るからに尋常ではない様子。

 少女が自分達に何かを言おうとした時、(ドラゴン)に殺される事を恐れた数人の村人が、持っていた農具を少女に投げつけてしまった。

 それが少女に当たる事は無かったが、その行為が(ドラゴン)は村人達を敵だと認識させたのか、長い尻尾で村人達を薙ぎ払った。

 そして村に向かって火を吐き、全焼とまではいかなかったが、ほとんどの家や畑が燃やされたらしい。

 怪我人は数名出たらしいが、死人が出なかったのは不幸中の幸い。

 恐らく、この話に出てくる2頭の(ドラゴン)とはミーナの言っていたソフィアとルイーズで、少女とは言わずもがなミーナの事だろう。

 しかしミーナは2()と言っていたが、どういう事なのだろうか?

 とりあえず疑問は置いといて話を進めよう。

 この数ヶ月で村は以前の姿を取り戻しつつあるらしいが、あの2頭の(ドラゴン)と少女が近くの森にいる事を知っている村人達にとっては心理的にも不安定な状況が続いていることに変わりはない。


「貴方は違うんですね?」


 グレイの問いに、村人は力強く頷いた。


「あの時、あの子は私達に何かを言おうとしていた。彼女の格好からして何かから逃げて来たのは明らかだった。もしかしたら私達に助けを求めようとしていたのかも知れないのに……」


 頭を抱えた村人の肩に手を置いたのは、隣に座っている村人の妻。


「私達も何度かあの子の話を聞いてあげようって声をかけたんだけど、取り合ってもらえなくてね……初めはいつ襲われるかってビビってる連中が多かったんだけど、数ヶ月経っても何の音沙汰も無いからか少しずつ変に強気になって、何かされる前にこっちから仕掛けようって奴らが出始めたのよ」


「最近、村長も変な奴と一緒にいるところをよく見るし、私達も何とかしなければと思っているのだが、年寄り2人では何の微力にもならず……」


「すみません、変な奴というのは?」


 グレイが問うと、村人は思い出すように話し始めた。


「彼が現れたのは今からほんの数日前だ。彼も突然、村に現れて〝(ドラゴン)を連れた子どもを見なかったか?〟と尋ねてきた。村の者達はすぐに、あの子どもの事を話したよ。そうしたら彼は言った。〝私が来たからには、もう怯えることは無い。その(ドラゴン)は、必ず私が殺す〟と。今では彼のことを天から舞い降りた救世主だと讃える奴等もいるよ」


「その()とは何者なんですか?」


「確か、其奴(そいつ)は自分の事を竜殺し(ドラゴン・キラー)だと言っていたな」


竜殺し(ドラゴン・キラー)?」


 初めて聞いた言葉に、アランは首を傾げた。


「言葉の通り、(ドラゴン)殺しを専門としている方の事ですよ」


 問いにグレイが答えると、アランは納得したような頷きを見せる。


「このままでは、あの子は殺されてしまう。せめて私達が若ければ少しは対抗する手段があったかも知れないが賛同してくれる仲間がいない上に、この老いてしまった身体では、あの子を守ってやるのも難しい」


 そこまで言い切ると、村人は改めてグレイとアランを見つめた。


「だから、頼む! どうか、あの子を救ってやってくれ!!」


 机に頭をぶつけてしまうのではと心配になる勢いで、村人は頭を下げた。

 隣では村人の妻も同じように頭を下げている。


「……っ、はい! 任せて下さい!」


 夫婦の言葉に力強く返したのはグレイではなく、アランだった。


「僕達が必ずミーナちゃんを守ってみせます!」


「ミーナ?」


「彼女の名前です」


 アランがそう言うと、夫婦は頬を緩ませた。


「そうか、あの子はミーナというのか」


 愛しい我が子の名を呼ぶように、村人は彼女の名前を口ずさむ。


(すぐに返事を出すつもりは無かったのだが……これも勇者の(さが)という奴か?)


 生き生きとした表情で夫婦と話すアラン見ながら、グレイは静かに溜め息を吐いた。


「お願いします」


「はい、任せて下さい!」


 夫婦に家の外まで見送られ、グレイとアランは村を後にした。

 本当なら、このまま村長の所まで行って話をするつもりだったが、もし村長自身が彼女を好ましく思わない人物であるならば下手に彼女の話をしない方が良いだろうと判断した。


「そういえばグレイさんって話せたんですね。てっきり話せないとばかり」


『話せませんよ』


 マスクを取りながら、グレイはいつも通りボードに書いた文字を見せた。


「え、でも、さっき……」


『魔法を使ったんですよ。一々、ボードに書いていたら、それだけで時間を取られて話が進まないでしょう? それに何より俺の手が過労死してしまいます』


「な、なるほど」


 右手を軽く振りながらボードを見せるとアランは戸惑いながらも納得したように頷く。

 嘘は言っていない。事実、グレイはライとの会話でも時々使用しているテレパシーを使っただけだ。

 マスクで口を隠す事で変に口パクで語る必要はないし、相手の脳が勝手に俺が直接声を出して話していると錯覚してくれる。

 種を明かしてしまえば、そんな単純なものだった。


 村の入り口付近で黒いフードを被った男とすれ違う。

 マントは素直に風に(なび)いているにも関わらず、顔全体が丁度隠れるほどに深く被られたフードだけはキッチリと持ち主の顔を隠していた。


(……あの人も村人か? それにしては、なんだか異様な雰囲気だな)


 グレイがすれ違い様にフードを被った人物をチラリと見たが、特に気にせずに通り過ぎた。

 しかしアランは見てしまった……いや、見えてしまった。

 フードからチラリと、一瞬だけ見えた口元を。

 ニィッと少しだけ歯を見せながら笑う口元の不気味さに、アランは恐怖感を覚えた。


(何だろう、今の人……何か、こう嫌な雰囲気が)


 自然と止まっていた足は、先を行くグレイに気付いて慌てて追いかける。

 気にはなったものの、このまま立ち止まっているわけにもいかず、先ほどの光景を記憶から振り払うようにしてアランは歩く速度を上げた。

なんとか今日、投稿出来た……良かった…

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ