27話_別行動
※後半は、グレイ視点で進みます。
依頼人と少しだけ心の距離を縮める事が出来た(……と思う)俺達は、二手に分かれて行動する事になった。
アランとグレイはツードラゴ村へ、俺とスカーレットはミーナと行動を共にする。
そうなった発端は、アランの何気無い一言だった。
「ミーナちゃんのお父さんとお母さんは、どこにいるの?」
アランがそう尋ねた瞬間、ミーナから笑顔が消え、顔を俯かせた。
そんな彼女の反応を見て、今のは触れてはいけない話題なのだと察した。
アランもこのままではマズいと思ったようで、すぐに別の話題に切り替えようと口を開こうとしたが、その前にミーナがポツリと呟いた。
「……いないの」
「え?」
「私のパパとママ……もう、いないの」
その言葉が何を意味しているのか、分からないほど鈍くは無かった。
アランも俺もグレイも、どう返せば良いか分からなくて口を閉ざした。
「でも……」
しかし、ミーナだけは口を閉ざさなかった。
「パパとママが、この村まで来れば大丈夫だって言ってくれたから、ここまで来た。なのに、村のみんなは私を村に入れてくれなかった」
「どうして……」
ミーナの話に信じられないとばかりに声をもらしたが、ミーナは当たり前のようにアランの声に応えた。
「私が、2人を連れて来ちゃったから」
「2人?」
そう言うと、ミーナは突然立ち上がり、家の外へと出た。
ミーナを追って、俺達も外へ出た。
「……あそこの湖」
外に出たミーナが、森の木々がまるでそこだけ避けるようにして作られた道の方を指さし、そう言った。
道の先を目線で追うと、確かに、緑や土色で埋め尽くされた景色の中に、宝石が散りばめられているかのような輝きを放つ澄んだ海のような色が見えた。
森だけが広がる景色では、絶対に見られない色だ。
「あの湖に、ソフィアとルイーズが眠っているの」
「ソフィアとルイーズ?」
「私の友達。ここまで連れて来てくれた」
ミーナの話を聞いて、俺はグレイへ視線を向けた。グレイもまた、俺を見ていた。
(なぁ、グレイ)
『はい、何でしょう?』
アランとミーナには聞こえないように、テレパシーで会話を始める。
(ミーナの話を聞いて、結構経ったと思うんだが……正直、話が見えてこない。と言うより、彼女の今の状況が上手く掴めないんだが俺だけか?)
『俺もです。何しろ彼女について分からない事が多過ぎる。まずは彼女の事を知らないと』
グレイの言葉に、俺は同意の頷きを見せる。
『ミーナさんのことは勿論なのですが、俺としては彼女が追い返されたというツードラゴ村のことも気になります。何故、彼女は村に受け入れてもらえなかったのか、そこも調べないと』
(任せても良いか?)
『お任せ下さい。魔王軍だった時も、似たような仕事ばかりしていたので』
俺とグレイが互いに頷くと、アランを呼んだ。
「どうしたの?」
そう言って駆け寄って来たアランに、俺達はある提案を申し出た。
そして、冒頭に戻る。
「気を付けろよ」
「ライは心配性だな。大丈夫だよ」
普通の村に送り出すなら、こんな事は言わないが、今回行く村はミーナのような幼い少女を容赦なく追い出すような村だ。
用心するに越した事は無い。
『行ってきます』
「頼んだ」
こうして、2人はツードラゴ村へ出発した2人を俺とスカーレット、そしてミーナの3人で見送った。
ツードラゴ村へ行くと聞いたからか、ミーナが2人を見送る表情は複雑そうに歪んでいた。
◇
「…………」
『…………』
やはり、この組み合わせは失敗だったと、歩いて5分も経たぬうちに痛感した。
自分が行くよりは愛想の良いアランを同行させた方が相手も話し易いだろうと、恐らく自分を想っての魔王様の提案だったのだろうが、彼はある意味、村人よりも自分には荷が重過ぎる相手だった。
昔のように交渉相手なら良い。
だが、今回は違う。
(まさか前世の宿敵が同行者になるとは……)
自分が心から尊敬し、一生ついていくと決めていた魔王を殺した勇者。
その名前を聞いた時、まさかとは思ったがフルネームを聞いて、疑惑は確信に変わった。
しかも彼の容姿は、前世の魔王様の容姿と瓜二つときた。
神様もまた何とも悪趣味な悪戯をなさったものだ。
魔王様は……あの方は彼が自分を殺した勇者だと気付いていて尚、幼馴染を名乗り、今もこうして彼と共にクエストを受けている。
あの方の精神の強靭さには脱帽だ。
前世のこととはいえ自分を殺した相手に何事も無かったかのように振る舞うなんて、自分には出来ないだろうから。
実際、今だって魔王を殺した張本人という事実が胸の中に邪な暗雲を運んできている。
「グレイさん」
唐突に呼ばれた自分の名前に思わず身体がビクリと反応してしまった。
『どうしましたか?』
「あ、いや、大した事では無いんですけど」
頬をかきながら気まずそうに話す彼の姿を見て、彼も彼なりにこの気まずい空気を何とかしようと気を遣ってくれているのが嫌でも伝わってくる。
「あの、ライとは、どういう関係なんですか?」
(これはまた……答えに困る質問ですね)
前髪のお蔭で、その表情は分かりづらいが、どう答えようかと考えた。
『ライさんとは、同じクラスなんですよ』
「え、そうなんですか」
意外そうに目を丸くはしたものの、怪しまれているわけで無さそうだ。
魔王様の幼馴染である彼に前世からの友人などと言ったら、絶対にややこしい事になる。
だから、この答えが最も無難だろう。
「グレイさん、あれ……」
空を見ながら言った彼に、俺も空を見た。
雲1つない青空に引かれた黒い線が空へと翔け上がる竜のように不規則に緩やかなカーブを描きながら、空高く上っていた。
恐らく、家の煙突から出た煙だろう。村まで、そう遠くはない。
「行きましょう、グレイさん!」
『はい』
煙の上っている方向を目印を見つめながら俺達は駆け出した。




