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26話_依頼人の少女

 すぐにでも出発する予定だったが、ある事を思い出した俺は少しだけ時間を貰い、ある物……いや、ある()を連れて戻って来た。

 俺の後ろをポヨンポヨンと気の抜ける音を出しながら付いて来る()()を見た瞬間、アランが表情を明るくさせた。


「スカーレット!!」


 アランが呼ぶと、スカーレットは俺を追い越し、アランの方へと飛びついた。

 一人と一匹の感動の再会を微笑ましく見ている俺の横でグレイは〝あれは何だ〟と、ボードを見せるわけでもテレパシーで伝えるわけでもなく、表情で訴えてきた。


「俺の相棒モンスター(ペット)だ」


『……あのスライムがですか?』


「そうだが?」


 何か問題でも?そう心の中で付け足しながら、俺は問いに返す。

 グレイは明らかに何か言いたそうな表情だったが、俺はあえて気付かない振りをする。

 王都から、かなり離れた場所にツードラゴ村という村がある。本来なら山をいくつも越え、洞窟を通り、森を抜け……と、兎に角、長い道のりを行かなけれらならないのだが、有り難い事にギルドには〝転送装置〟という物があるらしい。

 この転送装置を使えば足を踏み入れた事の無い場所でも瞬間移動(テレポーテーション)で行く事が出来るんだとか。正に、瞬間移動(テレポーテーション)の完全究極版と言えるだろう。

 転送装置の中心と呼ばれる位置に立った俺達を確認したギルドの職員の1人が機械のスイッチを押した。すると、機械が音を立て、所々に電気が走り出した。それは壊れるのでは無いかと心配になるくらい勢いを増していく。


(……これ、本当に大丈夫なのか?)


 心配のあまり、思わずスイッチを押した職員を見るとニコリと笑ってこちらに手を振っていた。

 どうやら、これが通常運転らしい。諦めにも似た気持ちで俺は機械に身を任せる事にした。


「行ってらっしゃい」


 職員の声が聞こえたと同時に俺達は目を開けるのも辛い程に眩しい光に包まれる。

 次に目を開けた時、そこはもうギルドではなかった。少し肌寒い風に草木が揺れ、村という割には殺風景な景色が広がっていた。


(これでは村というよりも……)


「まるで森みたいだね」


 アランと同じ感想だった。

 村と言うよりも広大な森の中にある少しだけ(ひら)けた場所と言った方がしっくりくる。


『恐らく、村は別の場所にあるのでしょう』


 ボードに書かれたグレイの言葉に、俺は思わず尋ねた。


「どういう事だ?」


『ギルドにある転送装置は、そのクエストを出した人の()()の近くに転送するようにプログラムされています。依頼を出したのはツードラゴ村の者なのでしょうが、その者は村ではなく、この森に住んでいるのかも知れません』


「こんな森にか?」


『俺に言われましても、流石に理由は本人に確認しないのとには……』


 尤もな返答に、俺は〝そうだよな〟と返すしかなかった。

 俺達がそんなやり取りをしていると、ずっと何かを見つめていたアランが口を開く。


「もし、グレイさんの言う事が本当なら……」


 そう言ってアランは、見つめている方向を指さした。


「あの、今にも崩れそうな家が、その人の住み処って事?」


 アランの指の先を辿るように顔を動かしていくと、家としての機能をほとんど果たせていないであろう物体が辛うじて建っているのが見えた。

 遠目で見てもボロいのが、よく分かる。寧ろ、よく今日まで、その状態を保っていられたなと感心してしまう程だ。


「……入ってみる?」


 アランの言葉に俺とグレイは頷き、今にも崩れそうな家へと近付く。


「……ボロいね」


「……ボロいな」


『……ボロいですね』


 遠くで見ても、そのボロさは分かっていたつもりだったが、やはり近くから見るとボロさの迫力が違う。


(……ボロさの迫力って何だ?)


 自分でも言っている事が分からない程に、とりあえず家はボロかった。


「人の気配がする」


『そうですね』


 このボロい家に、誰かがいる事は確かだ。


「入るぞ」


「うん」


『はい』


 俺の声に2人が応えると、扉が外れかかっている入り口らしき穴へと入っていった。

 中に入ると、家の内装を確認するよりも先に、横たわっている小さな少女が目に入った。

 急いで少女の元へと駆け寄ると、すぅすぅと寝息を立てて眠っていた。


「なんだ、眠っているだけか」


「でも、どうして、こんな所に?」


 服や顔に泥のような汚れが見え、身体の所々に見える傷が目立つが、少女が普通に眠っているだけのようで、ホッとした。

 しかし、グレイだけは意外そうに目を丸くして少女を見ていた。


『どうやら彼女みたいですね。この依頼を出したのは』


「どうして分かるんだ?」


『この依頼書です』


 そう言ってグレイは手に持っていた依頼書を見せた。

 見ると、依頼書が淡く色白く光っている。


『依頼主に会うと発光する仕組みになっているんです』


 そんなピラピラの紙に、そんな仕組みが…先ほどの転送装置の事といい、グレイに言われなければ分からなかっただろう仕組みを聞きながら、グレイを連れて来た良かったと心から思った。


「……ん」


 そんな話をしていると、少女が身じろぎをした。

 俺達は会話を止めて少女へと視線を移すと、薄く目を開けた少女がこちらを見ていた。


「……お兄ちゃんたち、だぁれ?」


 寝惚けているのか、それとも元々そのような口調なのか、思っていたよりも幼い話し方だ。

 少女は身体を起こし、目を擦りながら俺達を見ている。


「この依頼書を書いたのは君か?」


 グレイから依頼書を受け取り、少女の前に突き出した。

 少女はまだ覚醒していない表情で、ジーッと紙と睨めっこしていた。その紙を見つめていると次第に、少女はパチパチと瞬きをし始め、本来の大きな瞳を取り戻した。


「これ……私が書いた、お願い」


 どうやら、この少女が書いたもので間違いないらしい。

 その話を聞いた瞬間に生まれた疑問を、俺は少女に問いかけようと口を開いた。


「君は、どこで、この依頼書を手に入れたんだ?」


 少女は首を傾げ、記憶を探っているのか視線を上に向けながら唸っていた。


「少し前に森を歩いてたら紙が木に引っかかってたのが見えて……何だろうと思って登って取ったら、その紙だったの」


「木に登って取った?」


 俺の言葉に、少女はコクリと頷いた。

 彼女の身体にある、かすり傷は、その時に出来たものだろうか?

 ほとんどの傷は血が止まっており、カサブタが出来ていた。


「取ってもらった紙に〝お願いを書いて〟って書いてあったから、お願いを書いたの。でも、お願いを書いたら、いきなり紙が消えちゃって……だから、探してたの」


(……どういう事だ?)


 グレイを見ながら心の中で呟くと、グレイはテレパシーで俺の問いに答えた。


(依頼書は、頼みたい事などを書くと自動的にギルドへ送られる仕組みになっているんです。どういった経緯で依頼書がこんな所まで辿り着いたのかは分かりませんが、彼女が偶然拾った王都のギルドで発行されている依頼書に書いた願いが正式な依頼として受理されてしまい、依頼書は無事にギルドへ帰ってきた……大方、そんな流れで今に至ったのでしょう)


 長々と説明や考察をどうもと、グレイに心の中でお礼を述べながら改めて依頼書を見る。

 確かに、()()()()()()()()()()()()()()()と、書かれた項目があった。


(なるほど……この文字を見て、彼女は《私と、お友達になってください》と書いたのか)


「お兄ちゃん……私と友達になってくれるの?」


 俺を見ながら、少女はそう言った。

 アランとグレイを横目で見ると、2人は同時に頷いたのを確認し、再び少女を見た。


「あぁ。俺達は、君と友達になりたくて来たんだ。君の名前を教えてくれないか?」


 そう言うと、少女は初めて笑顔を見せた。

 可愛らしい少女の笑顔に、思わず彼女達(マナとマヤ)を思い出した。


「ミーナ……ミーナ・クルス」


「ミーナか、良い名前だな」


 俺がそう言うと、ミーナは嬉しそうに笑った。


「俺は、ライだ」


「僕はアランだよ」


『グレイです』


「……後ろにいる、赤いおまんじゅうさんは?」


 ミーナに問われて振り返ったが、そこにはスカーレットしかいない。


(まさか赤い饅頭って……)


 フッと思わず笑いをこぼすと、スカーレットの触手が容赦なく俺の背中を叩きやがった。

 ……地味に痛い。


「コイツは、饅頭じゃなくてスライムだ。名前は、スカーレット」


「……スカーレット」


 一通り自己紹介が終わると、ミーナは一人一人に指をさしながら名前を口ずさんだ。


「ライお兄ちゃん……アランお兄ちゃん……グレイお兄ちゃん……スカーレット……うん、おぼえた」


 嬉しそうに頬を緩ませるミーナに、俺達も思わず頬が緩んだ。


 ◇


 ボロい家には不釣り合いな穏やかな空気が流れ始めた頃、森の近くにあるツードラゴ村では……


「え、あの娘が?!」


「はい。間違いなく、あの娘は(ドラゴン)使いです」


「だから、あんな恐ろしい(ドラゴン)達が、この村に……」


「早い内に、あの娘をなんとかしなければ、この村はどうなるか……」


「それは困る! しかし(ドラゴン)が相手では我々に出来ることなど何も……」


「なぁに、(ドラゴン)を相手にする必要はありませんよ」


 そう言って男は、村長らしき男に拳銃を手渡した。


「こ、これは」


(ドラゴン)を喚び出される前に、(ドラゴン)使いの少女を殺してしまえば良いのです。万が一、(ドラゴン)が現れたその時は……私が、この手で殺します」


「た、確かに竜殺し(ドラゴン・キラー)の君がいれば心強いが……」


「年若い少女を自分の手で殺める事を躊躇っておられるのですか?貴方のお気持ちは痛い程に分かります。しかし、良いのですか?このままでは近い内に、皆さんが住む場所も……下手をすれば命をも失いかねませんよ?」


 拳銃を握っている男の手は、微かに震えている。


「貴方は何も怯える必要は無いし、罪悪感を感じる必要も無い。全ては村を守るため。貴方は犯罪者になるのでは無い──この村の英雄になるのです」


 村長らしき男の耳元で、フードを深く被った悪魔が何やら良からぬ事を囁いていた。

ここから少しずつ、シリアスが濃くなっていく予定です。

シリアスが苦手な方は、ご注意下さい。



[新たな登場人物]


◎ミーナ・クルス

・ライ達の受けたクエストの依頼主。

・ツードラゴ村の近くにある森のボロ家に住む少女。

・年齢はマヤやマナと同じくらい。

・色白い肌に、薄緑の髪色。

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