203話_不本意な会合
あれから間もなくして、俺は強制的に寮の自室まで送り返された。ご丁寧に、これまで聞いた話は他言するなと釘まで刺されて。
当然の対応だろう。俺が彼らの立場でも同じことをする。
突然現れた俺にリュウとスカーレットは驚いている様子だったが、今回ばかりは構っていられなかった。
窓から外の様子を見ても、いつもと変わりない日常の景色が流れてくるだけで先ほどまでの緊迫した空気は微塵も感じない。
深い緑色で無駄に背の高い生垣が並ぶだけの景色。今朝も同じものを見た筈なのに、妙な懐かしさが胸の奥から染み渡る。
それでも焦燥と不安に駆り立てられるのは、未だにアランとヒューマの行方も安否も分かっていないからだ。
こうしている間も彼らは危険に晒されているかも知れないというのに、何も出来ない。
本音を言えば今すぐにでも探しに行きたいが、何しろ情報が無い。当ても無いまま捜索に出たところで時間の無駄だ。
この際、些細なものでも良い。何とかして、アラン達に関する情報を……
「おい、ライ! ライってば!!」
肩を掴まれ無理やり方向転換させられたことによって不満顔のリュウと顔を合わせることになった。
スカーレットも自分に気付けとばかりに足元で跳ねている。
正直、今は話をしている場合では無いのだが、このまま無視を続けた方が返って面倒なことになりそうだと俺は一度、思考を止めた。
「何だ?」
「〝何だ〟じゃないだろ。さっきから、ずーっと声かけてんのに無視しやがって……あ、もしかして何か知ってんの?」
「知ってるって、何を?」
「何をって……この状況の事だよ。急に全生徒に自室待機命令なんて変だろ、どう考えても」
自室待機命令?
何だそれはと首を傾げれば、リュウも不思議そうに首を傾げる。
「え、それで慌てて帰って来たんじゃないの?」
「いや……」
何と説明すれば良いのか分からず言葉が喉に詰まる。
試験のことを素直に話すわけにもいかないし、口止めされた以上は生きる厄災のことも黙っていなければならない。
こんなことなら適当に知った振りでもしてリュウの話に合わせておけば良かったと、今更な後悔が押し寄せる。
唯一の救いは、リュウが何も言えなくなった俺を問い詰めないことだ。
訝しげな表情は浮かべているものの、俺の顔を凝視するだけ。沈黙は気不味いが返答を急かされるよりはマシだ。
「なぁ、もしオレの勘違いだったら正直に言ってほしいんだけどさ……何か、あった?」
「え」
疑っているというより純粋に心配しているだけのように受け取れる声色に思わず声が漏れる。
「何かさっきから、ずっと難しい顔してるからさ。俺の声も聞こえてなかったみたいだし。もしかして何かあったのかなーって思ったんだけど」
違った?
何かあったどころでは無い。アランとヒューマが何者かに攫われたかも知れない上に、王都に神話上の生物が向かって来ている。
そう素直に答えられたら、どれほど良かっただろう。
そこまで考えた時、ふと思考が立ち止まった。
(そもそも律儀に従う必要あるか?)
口止めと大層に言っても、結局は魔法によるものでも法律等といった正式な制約による縛りも無い。単なる口約束だ。
破ったところで代償なんて高が知れている。
何か行動を起こすならば、アルステッド達が生きる厄災を気にかけている今こそが絶好の機会なのでは?
「……なぁ、リュウ」
「ん?」
まだ何も知らない彼が好奇心溢れる顔で俺を見つめてくる。今から、その表情を崩すことになるのかと思うと心苦しい。
「実は、」
────コン、コン、コン。
何の前触れもなく絶妙なタイミングで聞こえたノック音に、俺とリュウは同時に音のした方へと顔を向ける。
その音は確かに、俺達の部屋の扉から発せられたものだった。
リュウが言っていた自室待機命令が出されている現状では、あり得ないことだ。
「え、今って生徒は皆、自室待機中じゃ……じゃあ、今の何?! え、誰?! 怖っ! 誰?!」
「うるさい」
狼狽えるリュウを一蹴し、自身の両目に透視魔法をかけて扉の奥にいるであろう人物を見抜いた。
「グレイ?!」
「へ?」
予想外の来訪者に俺は扉まで駆け寄り、迷いなく開けた。
(先ほど振りですね、魔王様)
悠長に挨拶するグレイを慌てて部屋の奥へと連れ込む。
こんなところを誰かに見られたら、何を言われるか分かったもんじゃない。
「……何しに来た?」
(暇だったので、世間話でもと思って)
「御託は良い。用件は何だ?」
何の為にグレイが態々、命令違反をしてまで俺の部屋に来たのか概ね見当は付いている。
それを踏まえた上で本題を急かす俺に〝つれないですね〟と肩を落とす素振りを見せた直後、グレイの表情が真剣なものへと変わった。
(あの爆発の件です。カリンさんから貴方がアルステッド理事長と共に爆発が起こった現場に向かったと聞きました。何があったんですか? 爆発の原因は? 一体、誰が……)
「ま、待て待て! そんな一気に質問されたら答えられるものも答えられないだろ」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に待ったをかけると、今度は別方向からの攻撃だ。
「え、爆発?! ねぇ、爆発って何のこと?! オレ達、死ぬの?! 殺される?!」
「死なないし殺されないから、お前も落ち着け」
俺が分かる範囲で一から説明するから2人とも今は大人しくしてくれと言えば、リュウとグレイは同時に頷いた。
説明するとは言ったものの、一体どこから話せば良いのやら。とりあえず爆発が起こった場所とアランとヒューマのことを先に話して、それから……と頭の中で情報を纏めている最中のことだった。
ガラッと無遠慮に開かれた窓から、ひょっこりと梅重色の頭が顔を出した。続いて、獣のようは耳が生えた頭も。
「あ、やっぱり帰って来てたわね」
「お邪魔しますニェー」
「……は?」
予想もしていなかった人物の登場に硬直する中、その原因である彼女達は何食わぬ顔で部屋の中へと入って来た。
頼むから、これ以上、俺を混乱させないでくれ。
「じゃ早速、話を……って何、この状況? 今、自室待機命令が出てるのに何でグレイ先輩がアンタの部屋に居るのよ」
正論だが、少なくとも今のカリンに、それを指摘する資格は無い。寧ろ、女子生徒が立ち入ってはいけない男子寮に忍び込んでいる彼女の方が重罪だ。
彼女が来た理由も大体、察しがつく。恐らくグレイと同じだ。
カツェは、単にカリンの付き添いで来た言ったところだろうが。
下手に追い出して騒ぎになっても面倒だ。こうなったら全員まとめて面倒を見るしかない。
「……とりあえず全員、適当に座れ。話は、それからだ」
重い溜め息混じりで促せば、全員その場に腰を下ろした。




