25話_初めての依頼〈クエスト〉
※最後は、主人公ではない別の第三者視点になります。
アリナから突然の勧誘を受けて数秒。
俺は状況把握のための無言タイムを貫いていたが、限界があった。
「何とか言いなさいよ」
カリンの鋭い目が突き刺さる。
どうやら、俺の方から口を開くしかなさそうだ。
「どうして、俺なんですか?」
やっと出た言葉が、それだった。端的でありながら俺の複雑な気持ちを見事に言い表した一言だった。
「どうしても何も初めて君に会った時から勧誘しようと決めていた」
あ、それは、アレですか?
第一印象から決めてました的なアレですか?
え、それとは、また違う? それは失礼しました。
……何も言わないで頂きたい。キャラを多少なりとも崩壊させていないと、この場を乗り切れる自信がない。
『アリナさん』
今まで黙っていたグレイが俺とアリナの間に立ってボードを見せた。
「君は、確かグレイ・キーマンだったな。珍しいな、君の方から私に話しかけるなんて」
『後ろにいる彼女達は貴女の仲間ですか?』
グレイの問いにアリナは後ろにいる女生徒達を見る。
「そうだ。みんな、私の仲間だ」
『全員、魔法使いなんですね』
グレイのボードを見て、俺は改めてアリナの後ろにいる女子生徒達を見た。全員が魔法学校の制服を着ている。
「魔法使いだけで充分だろう」
何を言っているんだと言わんばかりに首を傾げる彼女に俺達は顔を見合わせた。
(そうなのか?)
(俺に聞かないで下さい)
それにしても魔法使いへの、この絶対的信頼。まるで、それ以外の存在は必要無いと言っているようにも聞こえる。
どうやらアリナは俺とは全く違った思考を持っているようだ。
そんな彼女のグループに所属する事が本当に正しいのだろうか? そんな事、考えるまでもなかった。
「有り難いお話ですが、すみません。お断りさせて頂きます」
俺の反応が予想外だったのだろう。アリナの周囲にいた女子生徒達が動揺を露わにしていた。
「……理由を聞いてもいいか?」
彼女だけは動揺を見せる事なく俺を見据えていた。
「昔から組もうと思っていた奴がいるんです」
「それなら、その人も一緒に……」
「其奴、勇者なんです」
俺の言葉を聞いた瞬間、アリナは信じられないとばかりに目を見開いた。
理由は分からないが、彼女は魔法使い以外に対して、あまり良い感情は持っていないようだ。
「アリナ先輩とパーティを組めるのは、とても光栄な事だと思います。ですが俺は、どうしても其奴と一緒に」
「ライ?」
あれだけ順調に言葉を紡いでいた口が、金縛りにでもあったかのように動かなくなった。
「彼が、そうなのか?」
アランを見ながら尋ねたアリナに、俺は頷いた。
俺とアランを交互に見つめると、アリナは複雑そうな表情を見せた。
「……そうか」
それだけ言うと、女子生徒達とカリンを引き連れて、ギルドを後にした。
「も、もしかして今、話しかけちゃいけなかった?」
「いや……」
相変わらずタイミングの悪い奴めとか思って、すまん。
そのタイミングの悪さのお蔭で、今回は助かった。
ホッと一息つくと、グレイがアランをジッと見つめていた。
アランも、グレイの存在に気付いたようで不思議そうに見つめ返している。
「彼はアラン、俺の幼馴染だ」
俺の言葉が届いていないのか、グレイは口を開けたままポカンとアランを見続けている。
「あ、えっと、アランです」
そう言って手を差し出したアランを見てようやく我に返ったのか、ボードを持って何やら書き始めた。
「彼は何をしているの?」
アランの問いに俺が返す前にグレイがボードを見せた。
『グレイです。よろしく』
書いてある文字を見て、全てを察したらしい。申し訳なさそうに眉を下げた。
アランの差し出した手を取ってニコリと笑う。グレイの笑顔つられるようにアランも少しだけ表情が穏やかになった。
無事にグレイとアランの初対面が終了し、俺達は掲示板の前まで来ていた。
ギルドに来たばかりの時は、掲示板の前に人が集まっていたが、今ではほとんど人の姿は見られない。
掲示板にあれだけ多く張り出されていたクエスト内容や報酬が書かれた紙が少なくなっているところを見ると、それぞれ掲示板に貼られていたクエストをこなしに既に出発したのだろう。
「ライも依頼を受けるのは初めてなんだよね?」
「あぁ」
「それじゃ僕と一緒に行こうよ」
それが当然の流れだと言わんばかりにアランは言い切った。
「そうだな」
俺も何の迷いも無く、アランの誘いを受け入れる。
「グレイも一緒にいいか?」
「え、グレイさんも一緒に来てくれるんですか?」
キラキラと目を輝かせながらアランはグレイを見つめる。
純粋な瞳というのは、どうしてこうも直視するのが憚られるのだろう?
グレイも俺と同様にアランから目線をそらし、〝行きます〟と書かれたボードをアランに見せていた。
「グレイさんも一緒に来てくれるなんて、とても心強いです!」
純真無垢という言葉が、これほどに似合う笑顔を俺は今まで見たことが無い。
「初めての依頼だから簡単なものが良いよね?」
簡単、と一言で言うが、既に残り少ないクエストでは、その簡単な依頼が残っている可能性は低いだろう。
俺は一枚一枚貼られた紙を見ながら、その中で気になるものを見つけた。
《私と、お友達になってください》
子供らしい誰かが書いたような字で一言、そう書かれた……依頼と呼べるかも怪しいものだった。
俺の目が、その1枚に集中していると、それに気付いたアランとグレイが両隣に立って同じものを見た。
「これは、クエストなの?」
クエストと言ったら、暴れるモンスターを退治して欲しいだの、ある場所でしか取れない薬草を取って来て欲しいだの、そんな感じのものだと思っていたのだが例外もあるようだ。
「ねぇ、ライ。この依頼を受けようよ」
(……正気か?)
確かに興味惹かれる内容ではあるが、同時になんだか面倒事が付いてくるような気がしてならない。
「詳しくは分からないけど、この人は友達を欲しがっているんだよね? だったら僕達がこの人の友達になれば良いんだよ」
嬉々とした表情で語るアランには申し訳ないが、俺にはどうしてもそんな単純な問題とは思えない。
彼には本当に申し訳ないが、ここは心を鬼にして、はっきりと言わなければ。
「ボウヤ達。もしかして、そのクエストを受けたいの?」
昼間の賑やかな雰囲気より夜の少し大人っぽい雰囲気が似合うようなグラマラスな女性が、俺達に話しかけてきた。
「あ、はい……そうなんです」
アランも彼女を直視出来ないのか少し視線を落として答えた。
「それなら、あそこの受付でクエストを受ける手続きをしないとダメよ」
彼女が指をさした方向には俺達が持っているのと同じ紙を手にした男女が、受付の職員と何やら会話をしていた。
「あ、ありがとうございます!」
「頑張ってね」
そう言って、女性は手を振りながらギルドの出入り口の方へと行ってしまった。
「それじゃあ、行こうか」
あ、結局、そのクエストを受けるのか。
最後まで俺が口を挟む間は与えられず、スムーズに手続きも完了し、俺とアランにとって初めてのクエストの場所となる、ツードラゴ村へと向かう事になった。
何も面倒な事が起こらなければ良いが。
◇
今にも崩れそうな家の中で身を丸くして過ごす生活。
こんな生活を始めて、どれほどの月日が経っただろう。
私を守ってくれた母も父も、今はもういない。
私には、ソフィアとルイーズだけ。でも2人は人前に出ちゃダメだから結局、私は一人ぼっち。
友達が欲しい。
ソフィアとルイーズとも仲良くしてくれる友達が欲しいけど。この村では、そんな友達は作れそうにない。
だから私は、偶然拾った紙に〝お願い〟を書いた。
私と、お友達になってくださいって。
「誰か……お友達になってくれるかな?」
横たわる少女の声に応えてくれる者はいなかった。
毎回、サブタイトルで無駄に悩みます。
次回、《双竜使いの少女 編》突入




