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189話_ 後顧の憂い

 料理によって呼び起こされた記憶は、良いものばかりでは無い。


 ──もし、サラに……サラとアランに、何かしらの危機が迫った時…………俺の代わりに、彼女達を守ってほしい。


 あの時のレオンの言葉も。


 ────王都内の何処かで爆発。


 ────謎の怪物による王都への侵襲。


 あの時、マナとマヤによって知らされた未来も。

 料理を噛み砕く度に、当時の記憶が鮮明になっていく。


(前者の方は、その時になってみないと対処のしようがないから保留にしておくとして……)


 問題は、後者だ。

 そう遠くではないであろう未来で起こる出来事。

 発生場所は両方とも王都だと予想できるが、肝心の日時や順番は分からない。


(爆発した後に怪物が出るのか、それとも怪物が出たことによって爆発が起こるのか……)


 爆発が怪物によってもたらされるものならば、怪物は王都内の何処かに存在することになる。

 いや、それとも王都内に侵入した怪物が爆発を……?

 そもそも、この2つの未来に関連性はあるのか?

 これらの未来が同日に起こるものであるという可能性はゼロではないが、確実にそうだとも言えない。


(例え、誰かが意図的か無意識か爆発させたものとして俺の未来に大きく関わるとは……)


 思えない? ……本当に?

 情報が少な過ぎる。これでは仮説ばかりが増えて、重要なことは何も見えない。


「ライ? さっきから、どうした。そんな気難しい顔して」


 不思議そうに俺を見つめるリュウに〝何でもない〟と返す。

 その反応に彼は一瞬だけ訝しげな表情を浮かべたが、すぐに興味を失ったような声を漏らしてベッドに横になった。


(あれこれ考えても仕方ない。それよりも今は、試験だ)


 試験さえ終われば、今よりは自由になれる。

 また、その時に考えていけば良い。


(とはいえ、念には念を入れた方が良いよな)


 頭に手を伸ばし、1本の髪の毛を摘んで思いきり引き抜く。

 地味な痛みに思わず顔が歪んだが、これが一番()()()()()()()方法だから我慢する。


(人前で血を流すわけにはいかないからな)


 抜き取った髪の毛を持って、少し開いた窓まで歩く。

 手の平に置いた髪の毛に向かって、息を吹きかける。


(────天眼通(セカンド・アイ)

 

 心の中で詠唱した瞬間、風に乗って宙を舞う髪の毛は小さな鳥に変化して無限に広がる青空へと羽ばたいた。

 この魔法は所謂、監視眼(モニター・アイ)の強化版のようなものだ。

 広範囲で且つ不特定多数の対象を監視するのには、最適な魔法だと言えるだろう。

 ただ、少しばかり厄介なことに〝特殊な条件〟で発動させる必要がある。

 その特殊な条件というのは、相応の魔力と同時に()()()()()()()()を媒体として捧げることだ。

 そうすることで発動を続ける限り常時、魔力が消費されるという魔法の欠点(デメリット)を打ち消すことが出来るのだ。

 身体の一部といっても量としては僅かなもので、血でも皮膚でも爪でも髪の毛1本でも、何でも良い。

 大事な試験を目前に控えている身としては、出来るだけ万全な状態で臨みたい。

 況してや当日は魔力融合(マジック・ユニゾン)を発動させなければならない為、尚のこと魔力の消費は避けたい。


 早速、天眼通(セカンド・アイ)が得た情報が、少しずつ脳内に入ってくる。

 王都を行き交う人々から動物まで。ギルド内からサラ達の家周辺や地下水路まで、可能な範囲を、隅々まで監視していく。

 商人あたりを中心に頭に帽子やフード等の被り物をしている者が多いせいか、市場に関する情報の伝達速度が他の場所に比べて遅い。

 だが、この一見、万能そうな魔法にも弱点はある。

 それは、結界の貼られた領域は監視可能範囲に入らないということだ。

 監視者が結界内にいる場合を除いて、結界を通り抜けての監視は決して不可能ではないが、リスクが高いため易々と手が出せない。

 つまり、王都内にある全てを監視できているわけでは無いのだ。


(予想はしていたが……城と勇者学校に関する情報は入ってこない、か)


 よりにもよって、どちらも簡単に足を運ぶことが出来ない場所が監視対象外。

 ある意味、注意深く調べておきたい場所だっただけに気落ちする。

 先ほども言った通り、結界内の監視も出来ないことは無いが、その際は結界との衝撃に対する対策やら魔力の痕跡やら色々と考慮しなければならないことが増えて正直、面倒なのだ。


(とりあえず、今は様子見だな)


 少なくとも試験が終わるまでは目立つような行動は出来ない。

 本格的な調査は試験が終わってからになりそうだ。


「それまで、何も起こらなければ良いが……」


「何か言ったか、ライ?」


 リュウの言葉に、思考から漏れた声を慌てて飲み込む。


「さっきから、ずっと空ばっか見てるけど……何かあるのか?」


 リュウの言葉に少し考える素振りを見せた後、緩く首を左右に振った。


「いや、何も無いよ……()()


 そう言って見上げた先に広がる透き通るような青みを帯びた空では、一羽の鳥が自分の身体よりも大きい羽を広げて王都を見下ろしながら旋回していた。

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