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170話_安らぎの時間

 マナとマヤ、そしてマリアとの再会。

 いつかは……そう思いながら望んでいた再会が思わぬ形で叶った。

 その喜びに頬を緩ませる中、サラだけは不満そうに頬を膨らませていた。


「ライ君の驚く顔が見れると思って楽しみにしてたのに……まさか貴方、ライ君にマリア達が来てたこと教えてたんじゃないでしょうね」


 ジトリと責めるようなサラの視線がレオンへと向けられる。

 無実の罪に問われたレオンは、彼女の言葉を否定するように首を横に振った。


「いや、言ってない。……君に〝絶対に言うな〟と言われていたからな」


「そう、よねぇ……貴方は約束を破るような人じゃないし……はっ! まさか魔法で既に、マリア達が来ている事を予知してたとか?!」


 閃いたとばかりに声を上げた彼女を、今度は俺が否定した。


「違いますよ、サラさん。俺も母さん達に会いたいと、ずっと思っていたので……会えたことに対する喜びが驚きよりも大きかった。それだけの事ですよ」


 だから、魔法は関係ないです。

 そう言うとマナとマヤは俺の両隣にピッタリとくっ付くように寄り添い、マリアは頬に手を添えて微笑んだ。


「私達も、ずっとライに会いたかった」


「だから嬉しい。……ライも同じ気持ちだったんだって分かって、嬉しい」


 彼女達の飾り気のない真っ直ぐな言葉が嬉しくて、だけど恥ずかしくて、どう反応したら良いのか分からない。


「ねぇ見て、私の子ども達……可愛いでしょ?」


「本当、可愛いわぁ! あの双子ちゃん達の天使の微笑みと言い、ライ君の戸惑いながらも満更でもなさそうな表情と言い……こう、グッとくるものがあるわね! でも、この中にアランが加われば、もっと……」


 マリアとサラが互いにコソコソと何か耳打ちをしているが……恐らく俺が聞いても楽しい話では無いだろうから、無視しておこう。


「僕が、何だって?」


 そんな彼女達の背後からヒョコリと顔を出したのは、不思議そうな表情を浮かべたアランだった。

 アランの突然の登場にビクリと肩を上下させたマリア達だったが、話の内容が聞かれていないと分かったからなのか即座に動揺を笑みで隠した。


「な、何でも無いのよ、アラン君」


「そう、そう! それより、ほら! ライ君も来たわよ。貴方も、会うのは久し振りなんでしょ?」


 ほらほらと、アランの背中を押すサラ。

 彼女の行動に違和感を覚えるアランだったが、俺の姿を目に捉えた途端、破顔して俺の元へと駆け寄って来た。


「ライ、久し振りだね! 会うのは、()()()()()()以来かな」


 例のクエストと聞いて思い出すのは、アンドレアス王子からの特別クエスト。

 あの王子には、前世も今世も含めて本当に色々と振り回された。

 出来れば、もう関わり合いたくは無いが……きっと、また何処かで会う事になるだろうと俺の勘が告げている。

 こういう勘に限って、見事に的中してしまうから困る。


「そういえばアラン。自分で作るって張り切ってた料理は、もう出来たの?」


「いや、まだなんだけど……」


 サラの問いかけに、アランが困ったように顔を歪める。


「どうしたの? ……っ、もしかして指を切っちゃったとか?!」


「え、ち、違う、違うよ! 料理に必要なトマトが見当たらなくて……母さんに、トマトが置いてある場所を教えてもらおうと思って……」


「あぁ、トマトね。トマトなら…………」


 重要である先の言葉が、いくら待っても出てこない。

 まさかとサラの顔を見ると、ダラダラと焦りの汗を流していた。

 アランも彼女の反応を見て何か察したのか、表情を強張らせ始めた。


「母さん……まさか……」


「……ごめん、アラン。昨日、貴方から買うように頼まれたトマト……買い忘れちゃってたみたい」


 ペロッと舌を出しながら謝る彼女に反省の色は見られない。

 彼女の反応にアランは、溜め息を零すだけ。

 このような遣り取りは、彼らにとっては日常茶飯事なのかも知れない。


「忘れちゃったものは仕方ないよ。僕、買ってくる」


 ポケットから取り出した袋の中身を確認したアラン。

 どうやら所持金を確認しているようだ。今から買いに行くらしい。

 行ってきますと、玄関まで走るアランを止める。


「アラン、俺が買いに行くよ」


「え?! いやいや、ライは今、来たばかりなんだから、ゆっくりしててよ」


「トマトを買いに行くんだろ? なら、俺に任せてくれ。それに、お前だって、他に用意とかあるんじゃないか?」


 何たって、スカーレットへの御褒美や機嫌取り用に、これまで何度も王都の市場に通い、トマトを買ってきたのだ。

 どこの店が安いのか、新鮮なのか、美味いのか、全て把握している。


(それに……早速、スカーレットの機嫌取り用のトマトも買わないといけないしな)


 俺の言葉に迷いに迷ったアランは、申し訳なさそうに眉を下げた。


「うぅ……えと、それじゃあ任せても良いかな?」


「あぁ」


 ごめんと謝るアランに気にするなと返しながら、玄関のドアノブへと手を伸ばす。


「サラ。俺も、そろそろ行く」


「あ、ごめんなさいね。お仕事中だったのに。ライ君を連れて来てくれて、ありがとう。それで、あの……今日は、大丈夫そう?」


 不安そうに問いかけるサラに、レオンは小さく頷く。


「あぁ、少し遅くなるかも知れないが……必ず帰る。今日は〝特別な日〟だからな」


 レオンの言葉に、サラは目を細めて微笑む。

 彼の言う〝特別な日〟というのは分からないが、今日は彼らにとって何か大事な日らしい。


「ライ、私も一緒に行く」


「私も」


 王都の案内が目的ならば2人を連れて行くことに問題は無いが、今回は、そうはいかない。

 あくまでも〝お使い〟だ。目的を済ませたら、寄り道はせずに真っ直ぐ家に戻る。

 それだけの為に彼女達を付き合わせるのは、少し心苦しい。


「ライ、連れて行ってあげたら? この子達、ずっと貴方に会いたがってたの。だから、少しでも貴方の近くにいたいのよ」


 マリアの言葉に同意するように、双子はコクコクと頷く。

 お願い、お願い。ねぇ、良いでしょ?

 潤ませた瞳を通して、彼女達の心の声が聞こえたような気がした。


「……分かった」


 俺が折れた瞬間、マナとマヤはハイタッチを交わした。

 暫く見ない間に、色々と要らぬ知恵を付けたようだ。


 ◇


 一緒に外へ出たレオンと市場の入り口で別れた後、俺達は早速、目当ての物を買いに歩き出した。

 マナとマヤは興味深そうに辺りを見渡しながらも俺の後を、しっかりと付いて来ている。

 今日も相変わらず、市場は人通りが多い。

 後ろを歩く彼女達を気に掛けながら進むこと数分、無事に行きつけの店へと辿り着いた。


「よぉ、ライ! 待ってたぜ」


 店の前に来た瞬間、店主の男が俺に手を振る。


「どうも」


「今日も、()()()()()だろ?」


 いつもの奴と言うのは言わずもがな、トマトのことだ。

 トマトを袋に詰めながら、店主はマナとマヤに視線を向ける。


「お? 今日は、可愛い女の子を連れてるじゃねぇか。しかも2人」


「妹です」


「……妹ぉ?」


 訝しげな表情を浮かべながら、店主は俺とマヤ達を交互に見る。


「うーん、何つーか、あれだな……似てねぇな」


 ……まぁ、兄妹と言っても血は繋がってないしな。

 心の中で、そんな言葉を零しながら店主に金を渡し、トマトが詰められた袋を受け取る。


「まいどありー。あ、そうだ。嬢ちゃん達に、これやるよ」


 そう言って店主がマナとマヤに手渡したのは、愛らしい桃色の丸い実だった。

 初めて見る食べ物に、俺も彼女達も食い入るように実を見つめる。


「それは〝ルカン〟っていう、最近、女や子どもに人気のある果物だ。正直、俺みたいな(じじい)にとっちゃ、ただの甘ったるいもんにしか思えねぇんだけどよ。きっと、嬢ちゃん達の口には合うと思うぜ。良かったら持って行きな」


「良いんですか? お金は……」


 追加の金を取り出そうと袋に手を入れると、店主は〝いらんいらん〟と手を振った。


「俺からの少しばかりのサービスだ。お前は、ウチの御得意様だからな。……今でも思い出すぜ、お前が箱一杯のトマトを買った時の事をよぉ。お蔭で今じゃトマトを仕入れる度に、お前の顔を思い浮かべるようになっちまった。これからも買い物は、ウチで頼むぜ。お前と、こうやって何も考えずに話せる時間、意外と気に入ってんだからさ」


「……はい、また来ます」


 店主と別れを告げ、トマトを片手に来た道を戻る。

 マナとマヤは店主から貰ったルカンの実を早速、一口齧り、それからは無我夢中で頬張っている。


「美味いか?」


「うん、美味しい!」


「ライも食べてみる?」


 マヤが、食べかけのルカンを差し出す。

 味は気になっていたので、言葉に甘えて一口だけ貰うことにした。

 ルカンに齧り付こうと背を曲げた瞬間、誰かと軽くぶつかってしまった。


「っ、すみません」


 今のは、完全に前を見ていなかった俺が悪い。

 面倒事になるまえに謝ると、相手も慌てた様子で頭を下げた。

 フードを深く被っていて顔は見えないが背丈は、あまり俺と変わらない。


「ぼ、僕の方こそ、すみませ……って、ライさん?!」


 自分の名を呼ぶ声に聞き覚えはあったが、誰なのかは分からなかった……が、相手がフードを少し上げて顔を見せた事で、その答えは、すぐに分かった。


「アレクシス王子……?!」

 

 あくまでも小声で驚きの言葉を口にすると、アレクシスはニコリと笑った。


「ど、どうして、此処に……?」


 この場所は、明らかに王子が気軽に、しかも1人で来て良い場所では無い。


「えっと……グリシャさんの付き添い、かな?」


「え……」


 それって……


「おや、ライさんではありませんか」


 言葉にする前に、本人の登場である。

 彼もまた、金糸雀(かなりあ)色の髪を隠すように被っていたフードを少しだけ上げながら、俺を見下ろしている。


「ライ?」


「知ってる人?」


 知ってるも何も……少なくとも、このような場所ではお会い出来ない正真正銘の王子と、その王子の世話役だ。

 まぁ、俺自身、彼らの存在を知ったのは最近の話だが……


(これは……もしかしたら、すぐに帰るのは無理かも知れない)


 袋に入ったトマトを一瞥した後、届くはずの無いアランへの謝罪を、心の中で呟いた。

次回は、アレクシス視点の閑話になります。

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