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169話_懐かしい温もり

 寮を出た俺は、学校の門の近くまで来て辺りを見渡す……必要も無かった。

 そもそも門から距離が離れている食堂から話題になっていたのだ。

 遠目からでも〝彼〟だと分かる。明らかに纏っている風格が1人だけ違う。

 近寄り(がた)いというか、どこか気安く話しかけてはいけない圧力(プレッシャー)を感じるというか。

 彼の前を通過する数人の通行人が、さり気なく彼を避けるように歩き、視線はチラチラと向けるものの呼吸すらも躊躇っているかのように口を固く結んでいる。

 門の壁に(もた)れ掛かっていた彼の瞳が俺の姿を捉えた瞬間、挨拶をするように軽く片手を上げた。

 彼の挨拶に会釈で応えた後、彼の元へと駆け寄る。

 その道中で門の近くで警備をしている者が、俺に声をかけた。


「あぁ、ライ・サナタス君。今日は、もう寮には戻らないんだろ? 外泊許可の手続きも既に終えているから安心すると良い」


「え、外泊?」


「俺が申請した」


 何の話だと首を傾げた俺の問いに答えたのは、警備の者ではなくレオンだった。その答えで更に混乱する。

 彼が自分に会いに来た理由すらも分かっていないのに前もって外泊許可の申請手続きまでしたレオン。

 彼の行動の意図が全く読めない。


「君の混乱は尤もだ。だが、君に事前に伝える手段が無かった」


「俺に何か用事があるんですよね。寮母さんから、そう聞きました……何か、あったんですか?」


 今、最も知りたいことを尋ねる。

 こんな遠回りな手段を選んでまで騎士団長が直々に、王様でも王子でもない普通の子ども()に会いに来たのだ。

 それなりの理由がある事は、まず間違いない。

 理由の内容に関しては最早、想像することも出来ない。だからこそ、真っ先に聞きたかったのだ。

 レオンは俺の問いかけに何かを考えるような仕草を見せた後、何も言わずに背を向けた。


「付いて来てほしい。君が求める答えも、そこにある」


 この場では言えないような〝理由〟なのか?

 確かに此処は人目があるし、何より彼は色々な意味で目立ち過ぎる。

 先ほどから自分や彼に向けられる視線が鬱陶しくて仕方がない。

 先を歩く彼の大きな背中を追うように、俺も前へと足を進めた。


(結局、リュウにもスカーレットにも何も話せないまま行くことになったな……)


 俺が言わなくても誰かが彼らには伝えてくれるだろうが、これはまた後が面倒そうだな。

 

(今のうちに言い訳でも考えておくか)


 レオンを追いながら、俺は出来るだけ穏便に事が進むような言い訳を考えていた。


 ◇


 ギルドの前を通り、市場を通り過ぎる。その間、俺とレオンとの間に言葉は無い。

 城へ向かうのかと思いきや、城から段々と離れて人通りの少ない通りを進む。

 店も何も無い、ただ王都で生活をしている人々が拠点としている家々が並んでいる通り。

 この通りを歩くのは、これが初めてではない。

 少し前……正確に言うならば、魔法学校に入学する前。

 アランの母親であるサラの家を訪れた時、そして彼女の家から学校へと向かう時に歩いた道。

 その道を今、俺は歩いている。


(まさかサラの家に? ……いや、まさかな)


 その〝まさか〟が、現実となったのは数分後の事だった。

 レオンの足が、サラの家の前で止まったのだ。

 初めて振り返った彼は〝先に入れ〟と視線で俺に訴えかけてきた。

 彼が何故、俺に会いに来たのか。

 何故、俺をサラの家まで連れて来たのか。

 その答えが、この先にあるらしい。

 コンコンと数回、扉をノックすると奥からパタパタと忙しない足音が聞こえてきた。

 しかも1人ではない。最初に聞こえた足音よりも軽く、しかも2人分ほど聞こえてくる。


(アランもいるのか? いや、それにしては足音が……)


 俺の思考は、勢いよく開かれた扉から飛び出してきた衝撃によって一瞬にして吹っ飛ばされた。


「ライ!!」


「ライだっ!!」


 それは、久しく聞いていなかった声。

 それでも、その声の主が誰なのか、すぐに分かった。

 最後に会った時よりも明らかに大きくなった身体を抱きしめながら、俺は()()()の名を呼んだ。


「マナ……マヤ……」


 驚きよりも思いがけない彼女達との再会を果たせた事への喜びが大き過ぎて思わず抱き締め返してしまったが、彼女達が嬉しそうなので、とりあえず、このまま抱き締める。

 彼女達が、此処にいるという事は……その先の言葉を言う前に、懐かしい温もりに包まれる。

 やはりマリアもいたのか。

 頬に添えられた柔らかな手。顔を上げれば、そこには花が綻ぶような笑みを浮かべた彼女の姿があった。


「暫く見ない間に大きくなったわね、ライ」


 ずっと待ち望んでいた再会への嬉しさに動かされ、俺も反射的に微笑んだ。

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