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20話_初めての授業

 予想外な歓迎ムードで迎えられた俺とカリンは、言わずもがな、あっという間にクラスの中に溶け込んでいた。

 十数人と最も少ない人数のクラスだからこそ、妙に強い絆が生まれるのかも知れない。


「はーい、皆。可愛い後輩が来てくれて嬉しいのは分かるけど、そろそろ授業を始めても良いかしら?」


 苦笑しながら女性教師が、そう言うと全員が素直に着席した。


「さて、改めて本人達に自己紹介してもらいましょうか。あ、その前に私の事を教えなきゃね。私はビィザァー()、このクラスの担任よ。よろしくね」


「よろしくお願いしま……す?」


 最近、ものすごく似た名前を聞いたような気がする。


「あ、もしかして気付いちゃった? 私、ビィザァーナの双子の妹なの」


「え、双子?」


 まさかの事実に、俺は開いた口が塞がらなかった。


「……全然、気付かなかった」


「うふふ、よく言われるわ。双子と言っても私達、全く似てないし」


 呆然した表情で呟いたカリンに、ビィザァーヌはオホホと態とらしく上品に笑った。


「私の事はこのくらいにして。今度は2人の番よ」


 そう言って、ビィザァーヌが俺とカリンの背中を押す。

 十数人の生徒達と向かい合った俺は一人一人の顔を確認するように見渡した後、口を開いた。


「ライ・サナタスです。よろしくお願いします」


「カリン・ヴィギナーです。よろしくお願いします」


 頭を下げると、パチパチと拍手が聞こえた。

 横ではビィザァーヌがウンウンと満足そうに頷いているのが見える。


「はい、よく出来ました! えーと、2人の席は……」


 ビィザァーヌが席を見渡すと、()()の手が上がった。


「先生、私の隣の席が空いてます」


 上げられた一本目の手はアリナだ。

 そして、もう1本の手は1番後ろの席にいる男子生徒のものだった。


「……グレイ君?」


 意外そうに目を丸くした彼女の視線の先には、灰色の前髪で顔がほとんど隠れ、口元もマスクで隠し、腕や首など身体の所々に包帯を巻いた……失礼を承知で言わせてもらうと、不審な奴がいた。


「グレイ君の隣、座っても良いの?」


 ビィザァーヌの問いに前髪包帯(今、考えた)がコクリと頷く。

 彼の反応を見た生徒達から何やらヒソヒソと囁き合うような声が聞こえ始めた。


「じゃあ、グレイ君の隣の席はライ君。アリナちゃんの隣はカリンちゃんね」


 色々と聞きたい事はあるが、とりあえず今は保留だ。

 俺はグレイと呼ばれた生徒の隣の席まで来た。


「よろしくお願いします」


 何も言わないのは失礼だと思い、軽く会釈をしながら座ったが、彼は声をかけるわけでも頭を下げるわけでもなく、ただジッと俺を見つめている。


(……なんか気味が悪いな)


 彼の視線から逃げるように俺はビィザァーヌの方へ視線を向けた。


「それじゃあ、今日は新入生もいるから軽く〝ギルド〟について話をしてから、解散としましょうか」


(ギルド? ギルドって、あのギルドだよな?)


 魔王だった俺が直接的な関わりを持つことは無かったが、名前と存在だけは把握していた。


「クラス分けが決まったら、この〝ギルド登録書〟を書く事になっているの。勿論、他のみんなにも書いてもらったし、きっと他の新入生も同じ物を貰っている筈よ。2人にも、その登録書を渡すから明日までにこれを書きあげる事。私からの宿題よ」


 パチンとウインクをする仕草が、何となくビィザァーナの姿と重なる。


(確かに容姿は全く違うが、よく見たら仕草や雰囲気はビィザァーナに似てるな)


 そんな感想を抱いていると、いつの間にか机の上に先ほど言っていたギルド登録書が置かれていた。

 名前、年齢などの個人情報を書く欄がいくつかあり、後は、この登録書の3分の1ほどの欄で設けられている()()()()()という欄があるくらいの、思ったよりも簡易的なものだった。


「先生、この〝称号や成果〟という欄には何を書くんですか?」


 カリンがすかさず手を挙げて、質問を投げかけた。


「良い質問ね。この欄には、貴方達がこれまで達成させたクエストや持っている称号などを書くの。この学校では授業の一環としてクエストや称号取得試験を受けてもらう事があるの。それを無事にクリアすれば、その欄が埋まっていく仕組みになっているの。だから、そこにはまだ何も書かないでね」


 注意を促すビィザァーヌに、俺とカリンは素直に頷く。

 それから間もなく、カーンと鐘の音が聞こえた。授業の終わりを告げる鐘の音だ。


「はぁーい。それじゃ、この後は各々のやるべき事をやるように。ライ君とカリンちゃんは、もう少しだけ私に付き合ってもらうわね」


 そう言うと俺とカリン以外の生徒は席を立ち、教室を出た。

 教室を出るまでグレイという奴からは何処か気にかけられているような視線を向けられたが、彼の真意が読めないことに変わりはないため気付かない振りをするしか無かった。


 ◇


 俺とカリン、ビィザァーヌの3人だけになった教室で、初めに口を開いたのはビィザァーヌだった。


「このクラスについて説明する前に、よく誤解される事だから2人にも前もって言っておくわね。ここは学校だから座学や実技といった校内での授業を中心としていると思っているかも知れないけれど基本的には、そういった授業は取り扱っていないわ」


「え、そうなんですか?」


 意外な事実に、俺もカリンも目を丸くする。

 学校と呼ばれる場所だから、そういったものが主流だと思っていたが……


「この学校は少し特殊でね。校内での授業もあるにはあるんだけどギルドに行ってクエストを受けたり、称号取得試験を受けたりするのが主なの。あ、でもライ君とカリンちゃんは、まだ入学して間もないから校内での授業が他の人よりは多くなるんだけどね」


 ビィザァーヌの説明に、俺とカリンは時々頷きながら耳を傾ける。


「このクラスは比較的に優秀な子達が集まっているから後は、その子達が自分の力量と相談しながら力を高めたりクエストを受けて実戦経験を積んだり……自分達のやりたいようにさせているから他のクラスと比べると、かなり自由奔放なクラスなのよ」


「でも、それって学校に通っている意味あるんですか?」


 カリンのストレート過ぎる質問に、俺は思わず彼女の方を見た。

 確かに、わざわざ学校に通うより、そのままギルドへ行った方が早いような気はするが……

 ビィザァーヌはカリンの質問に、チッチッチッと人差し指を左右に振っている。


「2人は今、ギルドに登録している勇者や魔法使いがどれくらいいるか、知ってる?」


「えーと…沢山?」


 アバウトだが、俺も似たような意見だ。

 この世界にどれ程の勇者や魔法使い達が存在するのかは分からないが、その数は相当だと思う。


「そうね、間違いではないわ。現在、ギルドに登録している勇者と魔法使いだけでも最低でも10万人以上はいると言われているの。でも、それはギルドに登録している人数であって、それを抜きにすれば、もっといるでしょうね」


 俺が魔王だった時も、それ程いたのだろうか?

そんな数が一斉に攻撃なんてしてきたら、俺は一溜まりも無かっただろう。

 何故か、奴らは律儀に少人数の集団(パーティー)で来てくれたから、なんとか俺1人でも立ち回れたが……


「それだけ沢山いる勇者や魔法使い達の中で、貴方達は何を基準にして仲間を集める?」


「そりゃあ過去の成果だったり持ってる称号とか、ですかね?」


「初心者より、それなりに実戦経験がある人を選びますね」


 そこまで言って、俺はハッとした。


「そうでしょう。この学校を通う最大のメリットは、そういった成果や称号を手に入れるためのチャンスの場が普通の人よりも多い事なの。授業の一環としてギルドの正式なクエストを取り入れているし、それに学校の試験には少し難易度の高いクエストや称号取得試験を取り入れているから上手くいけば、あっという間に経歴や称号、成果が埋まっていくわよ」


 ビィザァーヌの言葉に、俺は早速、やる気が出てきていた。


(要は実力主義の世界というわけか。面白い)


「私の話はこれでおしまい。また、何か質問があったら受け付けるから気軽に聞いて。それじゃあ2人とも、明日から頑張ってね」


 そう言って、ビィザァーヌは教室を出て行った。

 これ以上、この場に長居する必要はない。立ち上がり、扉へと向かう。


 ────ダダダダダダッ!!!


 その瞬間、突然、背後から聞こえた喧しい足音に、思わず扉へと伸ばしていた手を止めて後ろを振り返ると……


「がっ?!!」


 容赦なく突進してきた小さな身体が、俺を突き飛ばした。

 俺が床に尻餅をついている間に、突き飛ばした張本人は俺を睨みつけながら、ドアノブを握っていた。


「アンタには、絶対負けないから!」


 そう言い捨てて、カリンは教室を後にした。


「だから……俺が、一体何をしたって言うんだよ」


 吐き出された俺の声は、誰もいない空間に響き渡った。

[新たな登場人物]


◎ビィザァーヌ

・ビィザァーナの双子の妹。

ドラゴンクラスの担当教師。

・容姿は全く似てないが、性格はどことなくビィザァーナに似ている。


◎グレイ・キーラン

・寡黙で内気そうな少年。

・普段は猫背のため分かりにくいが、結構、背が高い。

・前髪のみ灰色で、後は全て黒髪。

・目が前髪で完全に隠れている。

・初対面の筈のライを何故か、気にしている…?

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