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163話_逆転の発想

 一縷(いちる)の望みをかけて、アリナに言葉を放つ。


「先ほど、先輩は魔力融合(マジック・ユニゾン)における一般的な炎属性魔法との組み合わせを仰っていましたが……逆に、その組み合わせとしては()()()()()()魔法はご存知ですか?」


「相応しくない? ……っ、まさか!」


 彼女は、もう俺の考えが分かったらしい。

 いや、先ほどの問いが既に答えを言っているようなものか。


「正気か、君は?! 具体的なデータの無い方法で挑むだけでも充分リスクは高いのに、更に成功率を下げる不適合(アンフィット)魔法(・マジック)を選ぶつもりか?!」


 ……不適合(アンフィット)魔法(・マジック)って、何だ?


(これまでの話の流れでお察しかとは思いますが……魔法にも属性の相性が存在するように、魔力融合(マジック・ユニゾン)にも組み合わせの相性というものが存在します。それらの組み合わせの中で、相性が悪いと分類された魔法のことを、俺達は不適合(アンフィット)魔法(・マジック)と呼んでいるんです)


 脳内で生まれた疑問にグレイが答える。

 それにしても、授業では触れなかった言葉ばかり出てくるな……

 あの時、ビィザァーナが俺達が教えたのは、本当に基礎中の基礎だけだったのだろう。


(いや、基礎云々以前に、そもそも彼女と貴方では掲げている前提が違…………もう良いです)


 おい、そこで諦めるな。

 一度放った言葉には最後まで責任を持て。

 中途半端に言葉を切ったグレイを一瞬だけ睨みつけ、俺の言葉を待つアリナへと視線を向けた。


「その通りです。これまでの先輩の話を聞いて最低でも、このくらいの事はしないと試験には受からないと分かったので」


 その言葉に、アリナは納得いかないような表情で口を開く。


「確かに……それは、ある意味では妥当な判断かも知れない。だが、今日を含めて試験当日まで、あと5日しか無いという事は当然、分かっているんだろうな?」


「はい」


 アリナの表情が段々と険しくなる。

 無謀な提案だと分かっているからこその反応だ。


「……当日までに完成しない可能性もあるが?」


「同時に、完成する可能性もゼロではありません」


 考え直せとばかりの脅しにも、淡々と返す。

 少しでも悩む素振りを見せてしまえば、彼女が俺の提案を却下することは目に見えているから。

 アリナとの視線の攻防が数秒ほど続いた後、彼女は降参の白旗を掲げながら肩を竦めた。


「……分かった。そこまで言うなら、とりあえず君の提案に乗ろう。但し、明日までだ。明日までに何かしらの成果が得られなければ、この話は無かったものとする。良いな?」


 今日と明日、2日もあれば充分だ。

 アリナの条件に肯定の頷きを見せると、彼女も頷き返した。


「よし。では早速だが、先ほどの君の質問に答えよう。答えは勿論──〝知っている〟。不適合(アンフィット)魔法(・マジック)を把握していない者に魔力融合(マジック・ユニゾン)は使い(こな)せないからな」


 真面目な彼女らしい解答だ。

 予想通りの答えに、思わず口角が上がる。


「教えて下さい。炎属性魔法の不適合(アンフィット)魔法(・マジック)を」


 彼女は頷き、ゆっくりと口を開く。


「炎属性魔法の不適合(アンフィット)魔法(・マジック)とされている属性は、3つ。大地を司る〝地属性〟、風や空気を司る〝風属性〟、そして花や植物を司る〝木属性〟だ」


 地、風、木。

 つまり、この中の(いず)れかの属性魔法を選べば良い……と。


「どの属性も過去に何度か試されてはいるが、それを成果として実現させた者はいない。あのビィザァーナ先生とビィザァーヌ先生でさえも、過去に何度か不適合(アンフィット)魔法(・マジック)の組み合わせで魔力融合(マジック・ユニゾン)を発動させたらしいが完成には至らず、どれも失敗に終わったらしい」


 各々の力量が優秀だと評されるほどの実力。

 血も繋がりも心の繋がりも強固な関係。

 こんなにも恵まれた条件にも関わらず、成功例が1つもないとは……

 それだけ難易度が高いのか。それとも、まだ何か条件を満たしていないのか。

 何にせよ、現時点で俺達の魔力融合(マジック・ユニゾン)が成功する想像(イメージ)が全く湧いてこない。

 カリンも同じなのか、表情に不安の影が差している。


「他に、何か質問はあるか?」


 アリナの問いかけに、カリンと顔を見合わせる。

 〝私は無い〟と首を小さく振るカリン。

 俺も、もう特には……あ、いや、待て。やっぱり、もう1つあった。


「あの……それじゃ最後に1つだけ」


 恐る恐る手を挙げた俺を、アリナとグレイが見つめる。


「……魔力融合(マジック・ユニゾン)に失敗した際、大なり小なりの爆発が起こるというのは本当なんですか?」


 あの時、アリナは確かに、アザミや俺達の前で言っていた。


 ──彼らが発動させる魔法は少し特殊なもので、失敗すれば大なり小なりの爆発が起こる可能性がある。出来るだけ離れた場所で行うし、村の周辺には結界を張るから直接的な被害は出ないと思うが……


 一度で成功するなんて微塵も思っていない。

 それは、俺達が今後、大なり小なりの爆発によって何らかの被害を(こうむ)る可能性は避けられないという事。

 その被害は果たして、防ごうと思えば防げるものなのか。防げかったとしても、被害の規模を抑えることは可能なのか。

 村は結界で守ると彼女は言っていたから問題は無さそうだが……俺達は?

 一度目の失敗で、魔法の発動も困難になるほどのダメージを負うことになってしまえば元も子もない。

 俺の最後の質問を聞いたカリンは思い出したように目を見開き、アリナは安心させるような微笑みを見せた。

 この時点で、既に答えが予想できる。


「その点については安心してくれ。爆発と言っても術者にまで被害が及ぶようなものでは無い。爆発の主な原因は上手く絡み合わずに我を通した末に起こる魔力の衝撃だ。術者が感じるのは肌にピリピリと来る程度の刺激で、地面が抉れたり木をなぎ倒したりするような威力は無い」


「……では、あの時言っていた〝大なり小なり〟というのは?」


「その衝撃によって生じる爆発()のことだ」


 数分前まで俺が抱いていた不安や心配を返せ。


(だが、まぁ……これで恐れるものは無くなったな)


 失敗をしたからといって自分にも周りにも何の被害も無い。

 言い換えれば、失敗を恐れずに何度も試せるということだ。

 これが分かっただけでも、大きな収穫だ。


「……分かりました。ありがとうございます」


 もう質問の時間は充分だという意味を込めて、アリナに御礼を言う。

 ここから先は、俺とカリンが互いの魔力と向き合う時間だ。


「……私達は一度、アザミさんの所へ戻る。その方が良いだろう?」


 何も言わずとも察してくれたアリナに、俺とカリンは同時に頷いた。


(一応、貴方方の動向は見守らせて頂きますので、俺達が居ないからと言って、気を緩めないで下さいよ)


(あぁ、分かってる)


 俺にしか聞こえていないことを良いことに最後まで辛辣な言葉を向けるグレイ。

 少しくらい応援してくれても良いような気もするが、これはこれで彼らしい。


(魔王様)


 ────ご武運を。


 瞬間移動(テレポーテーション)で身体が消える瞬間と同時に脳内に届いた声。

 相変わらず素直じゃない奴だと肩を竦めた……が。


「ちょっと……何、ニヤついてるのよ」


 カリンから鋭い指摘を受けた俺は、我ながら態とらしい咳払いで誤魔化した。

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