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162話_詰み、そして幾許かの前進

 アリナとグレイも揃ったところで早速、俺達は飛び級試験へ向けての準備を始めた。

 俺とカリンが決めた今後の方針を彼らに話し、同意を得るところまでは何とか進めることが出来た……のだが、問題は、この後だ。

 互いの得意な魔法をぶつけ合う、所謂、ゴリ押し戦法での魔力融合(マジック・ユニゾン)。アリナやグレイでさえも聞いたことが無いという方法。

 不安要素しか無いが、他に良い案は無いため、これに掛けるしか無い。


「私が得意とするのは炎属性魔法です。だから試験での魔力融合(マジック・ユニゾン)も出来れば、炎属性魔法で挑戦したいのですが……」


 構いませんかと同意を求めるような視線から一変して、矢尻のように鋭い視線が俺を射抜く。


「彼は、特に苦手な魔法は無いらしいので、私の魔法と相性の良さそうな属性魔法で適当に合わせてくれるらしいです」


 言ってない、言ってない。全く記憶にございません。

 得意な魔法が分からないとは言ったが、苦手な魔法は無いとか適当に合わせるとか、そんな事は一度も言ってない。

 カリンに視線を向けるが、彼女は少しも俺を見ようとしない。


「そうか、それなら色々と試してみるとしよう」


 アリナ……何も言わない俺も悪いが、少しは疑ってくれ。

 俺の時は、あんなに疑っていたじゃないか。

 日頃の行いの差なのか、それとも異性であるが故の宿命なのか。

 いや、ここは、あえて前向きに、それだけ俺の能力を評価してくれていると取るべきか……

 まぁ、何にせよ、彼女は俺への確認もなく、カリンの言葉を信じてしまったらしい。


(あぁ、そういえば……過去に彼女の勧誘を断った事もあったな)


 最後の最後で悪い思考に引き摺り込まれたが、これ以上は考えてもキリが無いため、とりあえず思考を一時中断した。

 それに俺としては彼女よりも、先ほどから視界の端で肩を震わせているグレイの方が気になる。


(……グレイ)


(いや、違いますよ、魔王様。この震えは一時的な発作によるもので、決して笑っているわけでは……ぶふっ、)


 此奴、他人事だと思って、この状況を楽しんでやがるな。

 こういう事は、例え〝仮〟でも言わない方が良いのだろうが……もし仮に、この試験に落ちたら全部グレイのせいにしてやる。


「一般的には魔力融合(マジック・ユニゾン)において炎属性魔法と相性が良い魔法として、氷や水といった類の属性が挙げられるが……これは、あくまでも私個人としての意見だが、これらの魔法は避けておいた方が良いだろう」


(俺も、アリナさんと同意見です)


 カリンはアリナの言葉に、俺は彼女の意見に賛同するグレイに向かって首を傾げる。


「どうしてですか?」


 率直な疑問に、アリナとグレイは互いに顔を見合わせて困ったように眉を下げた。


「どうして……か。いや、何と説明したら良いものか……」


(遠回しに言ったところで伝わるとは思えません。ここは彼らの為にも、はっきりと言っておきましょう)


 ……何だ、この妙な緊迫感は?

 グレイが意を決したような表情で、俺とカリンを見つめる。


(今回の試験を貴方方が、どのような心構えで受けようとしているのかは分かりませんが、これだけは言っておきます。今回の試験を、これまで受けてきた試験と同じものだと思わないで下さい。この試験では〝()(きた)り〟な考えは通用しません。明らかに何らかの文献等を参考にして得たような結果を披露すれば、即不合格です)


「…………」


「…………」


 えっと……それは、つまり?

 視線の問いかけに答えたのは、アリナだった。


「自分で考え、自分で試し、自分で得たもの……君達の課題に沿って言うならば、これまで()()()()()組み合わせでの魔力融合(マジック・ユニゾン)を試験当日までに完成させない限り、君達に合格という未来は無いという事だ」


「…………」


「…………」


 先ほどから、俺もカリンも言葉が出ない。出てくる筈が無い。

 2人がサポート役で無かったならば。2人が先輩で無かったならば。

 きっと俺達は声を揃えて、こう叫んでいた事だろう。


(そういう大事な事は、もっと早く言え!!)


(そういう大事な事は、もっと早く言いなさいよっ!!)


 明らかに、今言う助言じゃないよな?

 そういうのは、試験の内容が言い渡された日にでも言うべきだったよな?

 おい、お前に言ってるんだぞ、グレイ。

 こっちを見ろ。俺と目を合わせてみろ。


「大事な試験を目前に控えている時に、リンさんやアザミさんの件に君達を巻き込んだ私の責任だ……っ、本当に、すまない!」


 謝って済むなら、この世界に聖騎士(パラディン)は存在しない……なんて言えれば、どれほど良いか。

 結局、アリナの提案に乗ったのは俺自身。

 その時点で、俺に彼女を責める資格など無い。

 正直、この選択を取ったことに後悔は無い。

 この村に来れたからこそ、知れたことがある。救えたものがある。それは確かだから。

 それに、ここで揉めていたって時間が過ぎるだけで何も解決しない。

 今は、この状況を打破する策を考えることが先決だ。


(何か……何か無いのか?)


 カリンが得意とする炎の魔法、そして、俺の魔法。

 在り来りは通じない。だから、これまで誰も試したことの無い組み合わせで魔力融合(マジック・ユニゾン)を完成させる必要がある。

 誰も、試したことが無い……って、待てよ。

 先ほどのアリナの発言を思い出す。


 ──一般的には魔力融合(マジック・ユニゾン)において炎属性魔法と相性が良い魔法として、氷や水といった類の属性が挙げられるが……


 彼女は知っていた、在り来りな組み合わせを。

 ならば……その()は?


「アリナ先輩、聞きたい事があるのですが」


 顔を上げたアリナの顔は、申し訳なさと不安で塗り潰されていた。

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