159話_ようやく本題へ
今日は、2話分投稿します。
次話の投稿は、20時頃(予定)です。
護衛は(一応)もう必要ないと分かった。アザミの右腕も元通りになった。
つまり俺達が、この村にいる理由が無くなった事を意味していた。
お世話になりましたと、アザミ達を別れを告げて王都へ。そう思っていた。
それが、まぁ、どうした事だろう? 俺達は、今も村に留まっている。
もっと正確な場所を言うならば、出来れば今回は来たくなかった例の花畑にいる。
約1時間前。
朝食を終えて食器を運んでいた俺に、カリンが声をかけたのが始まりである。
「ねぇ、試験の事なんだけど……」
もう試験の事だけを考えれば良い。恐らく、そんな気の緩みが原因だろう。
アザミ達がいる前で、ポロッと試験の話題を出してしまった。
当然、彼女達は問い詰める。〝試験って、何のことだい?〟と。
しっかりと〝試験〟と聞き取られている時点で下手な誤魔化しは効かない。
それに彼女達に話したところで、試験には何の影響も無い(……多分)。
以上の理由により、アザミ達に飛び級試験のことを話した。勿論、渋々ではあったがアリナから許可を貰った上で、だ。
その結果……
「じゃあ試験まで、まだ時間はあるんだね? それなら、この村の周辺に広がる森を利用すると良いさ」
この村を囲んでいる広大な森ならば、それなりに規模の大きい魔法の発動が可能。
王都にいても、空間魔法を用いれば解決する問題ではあるが、少しでも、かかる手間は少ない方が良い。
「ですが、彼らが発動させる魔法は少し特殊なもので、失敗すれば大なり小なりの爆発が起こる可能性がある。出来るだけ離れた場所で行うし、村の周辺には結界を張るから直接的な被害は出ないと思うが……」
え、待って。魔力融合って失敗したら爆発するの?
聞き流せない初耳情報に、アリナと共に顔を蒼ざめる。
「問題ないよ。爆発音くらいでビビるような連中じゃないさ。でも、流石に知らせておいた方が良さそうだねぇ。どれ、右腕の復活報告ついでに、アタシも家々を訪ねるとしようかね」
別の脅威に怯えている真っ最中の彼らに、爆発音くらいでビビるような連中じゃないと言われても説得力が無いと感じるのは俺だけだろうか?
今の彼女は、色々と大事なことが見えてないように思える。
理由は、彼女の締まりのない表情から何となく察しがつく。
あの時、既に出掛けていたドモンは、まだアザミの右腕が元に戻ったことを知らない。彼女は、早く彼に伝えたくて仕方がないのだ。
だから判断基準が、とてつもなく甘くなっている。
「リン。アンタ、態々、仕事を休んで来てくれたんだろう? そろそろ戻った方が良いんじゃないかい?」
「そ、そうだけど……」
言葉を詰まらせたリンが、チラリと俺達を見る。
そういえば、彼女を此処に連れて来たのはアリナだった。
少なくとも俺が見た限りでは、リンは手ぶらで俺達と共に来た。恐らく、此処から王都まで戻るまでの交通費等も今の彼女は持ち合わせていないだろう。
「リンさん、ご安心を。行き同様、帰りも私が貴女を一瞬で王都まで連れて行く」
アリナがすかさず提案する。ある意味、予想通りだ。
彼女が明らかに困っているのを見て、アリナが助けないわけが無い。
2人の関係性は未だに分からないが、少なくともアリナがリンへと向けている感情は理解した。
「ライ・サナタス、カリン。私は今からリンさんを送ってくる。その間、2人は先に森へ行って、練習に適した場所を探しておいてほしい……グレイ・キーラン、君には引き続き、彼らのサポートを頼みたい。あまり時間は残されていないからな」
(はい)
すぐ戻る。
その言葉を最後にアリナは、リンと共に王都へと戻った。
「ライ、カリン。これを持っていきな」
そう言ってアザミが差し出したのは、大きな葉に包まれた何か。
「……これは?」
「アンタらの昼食だよ。と言っても、握り飯くらいしか包んでないけどねぇ」
これは所謂、お弁当という奴だ。
「ありがとうございます」
「……ありがとう、ございます」
御礼を言いながら、カリンは物珍しそうに、葉で包まれた弁当を見つめている。
「難しい試験なんだろ? 本当なら、その試験のための対策とかを考えるための貴重な時間だったろうに、アタシ達の都合に使わせちまった。だから、これくらいの事は、させておくれ」
これくらいの事だなんて……充分だ。充分過ぎる。
「あ、あの、ライさん……僕も応援してます……っ!」
両手で拳を作ったロットが、力強い言葉を向ける。
「もし拙者に何か手伝えることがあったら、何でも言ってくれ」
「ワタシも、ライ様の力になれるなら、喜んで何でもするわよぉ♡」
レイメイとメラニーも本来なら、自分の村へ帰っても良い筈なのに。
俺達の力になりたいからと残ってくれたのだ。
参った。本当に参った。
元から手を抜くつもりは無かったが、こんなにも心温まる応援を受けてしまったら、もう〝合格〟という未来以外は望めない。
カリンも俺と似たようなことを思っているのだろう。
その証拠に、彼女の目の中には闘志の炎が燃えている。
「……行きましょう」
そう言った彼女の視線は既に、森へと向けられていた。
……以上が、この花畑に辿り着くまでの経緯である。
家を出る直前、何故かグレイだけがメラニーとロットに呼び止めらてしまい、結局は俺とカリンの2人で森へとやって来たわけだが……宛てもなく彷徨い続けた結果、この花畑に辿り着いてしまったのだ。
風に吹かれて揺れる花々を見つめながら、これからの事を考える。
昨日のカリンとの話し合いで得たのは、心の繋がり云々を無視した魔力融合の方法のみ。
その方法が見い出せた時は、少しは段階が進んだように思えたが、冷静に考えれば全く進んでいなかった。
何故なら、俺達はまだ互いに、どの魔法を融合させるのかも決めていない。
(…………当日までに間に合う、か?)
早くも不安の雨雲が、俺の心を包み始めていた。




