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151.5話_閑話:忠告《中》

※今回は、少し短いです。

 呼吸をすることすら躊躇するような緊迫感。

 それなのに、この空気を僅かでも懐かしいと感じてしまう自分がいる。

 魔王(ライ)と共に数多の戦いを乗り越えてきた彼らだからこそ抱ける感情だ。だが、その感情は余裕から見い出されているわけでは無い。

 少なくともグレイとロットは、目の前の現実を危機的状況として捉えている。


「ねぇ、ボクに銃を向けている子は君の知り合いだよね?」


 そう問いかけた少年の視線が、側から見れば何もない虚空へと向けられる。それは、透化(クリア)によって透明化したロットがいる方向でもあった。

 グレイは、まだロットにかけた透化(クリア)を解除していない。だから少年がロットの存在に気付くことは有り得ない。

 それなのに、この少年はロットがいる位置を特定しただけでなく、彼が今どのような体勢で少年と対峙しているかまでピタリと言い当てたのだ。

 グレイの魔法など、彼の前では無力に等しいと言わんばかりに。


「もし知り合いならさ、その銃を下ろすように言ってくれないかな? それとも、その子は銃を構えないと話が出来ないのかな?」


 一見、ロットを揶揄しているような内容だが、彼にその気は一切無いのだろう。

 その証拠に、彼は心底不思議そうに首を傾げながらグレイの反応を待っている。

 いくら抵抗を見せても、この少年には何の意味も無い。

 ならば、ここは彼の言う通りにして穏便に事態を収束させる方が賢明だ。

 そう判断したグレイは、ロットに視線を向けた。


(ロット、銃を下ろして下さい)


 ロットは口を開きはしなかったが、意外にもすんなりとグレイの指示に従った。

 ロットが銃を下げると、少年は安心したように微笑む。

 ハッタリなんかでは無い。本当に彼にはロットが見えているのだと再確認した瞬間だった。


「ありがとう。君達が物分かりの良い人達で良かった」


 嫌みではなく、子ども特有の()()()()()

 グレイは心につっかえる感情に気付かない振りをして、無理やり自分を納得させた。


(貴方は何者ですか? 先ほど、俺達と話がしたいと言っていましたが……)


「ボクは、スメラギ。ただのマオ様のファンだよ」


 マオ様……って、誰だ?

 当然の疑問が、グレイとロットの中に生まれる。

 困惑したまま返す言葉も見つからない彼らに、スメラギは何かを思い出したような声を出した。


「いけない、いけない! 折角、名前を教えてもらったのに」


 反省反省と言葉を零しながら肩を竦めるスメラギ。

 先ほどまでの緊迫した空気が何だったのかと問いかけたくなるほどに日常的な世間話と化した光景に、グレイもロットも呆然とした表情で彼を見つめることしか出来ない。


「マオ様の本当の名前は、ライ。君達もよく知ってる、魔王(マオ〝ウ〟)のライだよ」


 「あ、今は違うんだっけ」とスメラギは慌てて言葉を添えたが、そんなこと2人にとってはどうでも良かった。

 それよりも何故、彼がライのことを知っているのか?

 更に何故、ライが魔王であったことを知っているのか?

 その疑問だけが、今の彼らの思考を支配していた。


(スメラギ……俺の記憶が確かなら、昔も今も聞いたことない名前だ)


 グレイは彼が名乗った名前を何度思い返すが、心当たりの人物どころか、その影すら出てこない。

 ロットもグレイ同様、スメラギという名前を手掛かりに記憶を遡ったが、同じ名前の人物には巡り会えなかった。

 当時、ライの周囲には数多の種族がいた。いくら幹部枠にいたグレイといえど、全員の名前と顔を鮮明に覚えていたわけでは無い。

 こちらが覚えていないだけで彼もまた、自分達同様、ライに仕えていた者なのか?


「君達が、ボクのことを知らないのは当然だよ。だってボクは魔王軍に入っていたわけじゃ無いからね」


 思考の末に編み出された疑問を紡ぐ前に、スメラギが答えを示した。


「さて、ボクの話は、このくらいにして……そろそろ本題に入らせてよ。ボクは君達に自己紹介をしに来たわけじゃ無いんだからさ」


 色々と言いたいことがある。色々と聞きたいことがある。なのに、言葉が出ない。

 言うといっても何から言えば良い?

 聞くといっても何から聞けば良い?

 様々な情報が、ごちゃ混ぜになり過ぎて、これまでの情報を整理するだけでも、相当な時間がかかる。


「君達にとって悪い話じゃないから安心して。それだけは、ちゃんと保証するよ」


 正直、そんな保証よりも欲しているものがあるのだがとグレイは内心で言葉を零したが、それが彼の耳まで届くことは無かった。

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