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18話_新たな始まり

「2人とも、とても似合ってるわよ!」


 そう言って親指を立てるサラに俺もアランも照れ臭そうに顔を逸らす。

 昨日、アルステッドが贈ったと言っていたプレゼントは制服だった。

 早速、身を纏ったことで漸く今日から魔法学校に通うのだと実感が湧いてきた。

 アランと俺が着ている制服は別物で、俺は白を基調としたシックなイメージを醸し出させる洒落(しゃれ)たデザインなのに対し、アランの制服は黒を基調とされており、しかも勇者を目指す者達が通うというだけあって制服らしさは残っているものの俺のとは違い、伸縮性などデザインよりも服の機能性を重視された物だった。


「写真も撮れたし、これはマリアに送っておくわね」


 カメラを片手にニコリと笑っていたサラだったが、すぐに少しだけ落ち込んだ表情を見せた。


「入学式に行けないのは、すごく残念だわ。写真撮りまくって、マリアにもライ君の晴れ姿を見せたかったのに……」


 不満そうに唇を尖らせたサラに、思わず苦笑した。

 俺も先ほど知ったが、どうやら魔法学校と勇者学校の入学式は、生徒と教師以外は会場に足を踏み入れる事が出来ないらしい。


「元からそういう決まりだったみたいだけど、あんな事があった後だし尚更、警戒しているのかもね」


 仕方ないと肩を下ろすサラが、時計に目をやった。


「ほら、2人とも。そろそろ時間よ。行ってらっしゃい」


「はい」


「行ってきます」


 手を振って俺達を見送るサラの横で、スカーレットも彼女の真似をするように触手を伸ばして左右に振っていた。


 ◇


 まるで互いの権威を主張し合うかのように並び建つ、立派という言葉でも足りないほどに立派な建物。

 魔法学校と勇者学校である。

 王都には立派な建物が数多く存在するが、中でも、この2つは規格外だ。

 内装もさぞかし、立派な事だろう。


「じゃあ、僕はこっちだから。お互い、頑張ろうね!」


「あぁ」


 アランとは、ここでお別れだ。

 アランは勇者学校へ、そして俺は魔法学校へと入っていった。

 魔法学校の中へ入って他の生徒達について行くように歩いて一つ気になる事が。

 いや、本当は少し前から気になっていた。

 右を見て、左を見て、後ろを見ても、やはり気のせいではない。


(……俺以外、女しかいない)


 この学校は男子禁制だったのだろうかと疑問が浮かんだが、それなら俺は入学すら出来ていないはず。


(そもそもアルステッドから来いと言われたんだから、まさか、そんな……)


 悶々としている間も、女生徒達からの視線が痛い。

 まだ入学式が始まってすらいないが帰りたい。


「なぁ」


 不安に押しつぶされそうになった時、後ろから誰かに声をかけられた。

 振り返ると、俺と同じくらいの背丈の金髪で、どこかチャラそうな雰囲気を醸し出している()がいた。


「アンタも、もしかして魔法学校の新入生?」


「あぁ、そうだが」


 良かった、俺以外にも男がいた……っ!

 心の中では喜びに浸りながらも、表では冷静に返す。


「うわーっ、良かったぁー! 全然、男と会わないから、オレ1人だけかと思った」


 心底安心したような表情でそう言った彼も、俺と同じ気持ちだったようだ。


「オレは、リュウ。よろしくな!」


「ライだ。よろしく」


 〝数少ない男魔法使い同士、仲良くしようぜ〟と握手を求めてきた彼の手を取った。

 希少な男同士、一緒に入学式の会場へと向かった。

 隣にリュウがいるお蔭か、先ほどよりも女子の視線が気にならない。やはり、仲間がいるって素晴らしい。


 会場へと辿り着いた俺達は、なんと偶然にも隣同士の席だった。

 互いに顔を見合わせると、リュウが嬉しそうに歯を見せながらニッと笑った。そんな彼の表情に釣られるように俺も思わず口元を緩ませてしまった。


「これより、入学式を開会します」


 入学式の始まりを告げたアナウンスの声に、緩ませた口元を引き締めた。

 顔は前を見つめたまま、視線だけを周囲に向けると、見事に女ばかりだった。


(まさかとは思うが……新入生で男は、俺達しかいない?)


 そんな疑問を抱いている間にも、入学式は順調に進んでいった。

 理事長であるアルステッドが挨拶を終え、次のプログラムへ移った。


「歓迎の言葉。在校生代表、アリナ・フェルムンド」


「はい」


 名前を呼ばれた女子生徒は凛とした声で返事をし立ち上がった。高い位置でくくられた髪を左右に揺らしながらステージへと上がり、ステージの中央にある演台で立ち止まった。


「新入生の皆さん、この度は入学おめでとう。私は、この学校の生徒会長、アリナ・フェルムンドと申します」


 話し方からして、とても真面目そうだ。まさに、生徒会長と呼ばれるに相応しい立ち振る舞いである。


「本日、皆さんとこうして同じ場所に立てた事を誇りに思います。これから、共に立派な魔法使いを目指して精進していきましょう」


 そう言って、一礼した生徒会長に無数の拍手が送られた。


「続きまして……新入生代表召喚」


(新入生代表()()?)


「召喚? 挨拶じゃなくて?」


 疑問を持ったのは、俺だけではなかったらしい。周囲の生徒達が戸惑ったようにボソボソと疑問を口にしていた。


「新入生代表、ライ・サナタス」


「あ、はい」


 家で名前を呼ばれた時のような、そんな軽いノリで返事をしてしまった。

 周囲から冷ややかな視線を感じる。


「ライ・サナタス君、前へ」


 先ほど降りた筈のアルステッドが、いつの間にか、またステージの上にいた。

 しかも、わざわざ名指しで俺に前に来いと言っている。


(この人、何を企んでいるんだ?)


 その場に留まっているわけにもいかず、俺はステージの方へと歩き出した。ステージへ上がり、アルステッドと向き合う形で止まった。


「これは、どういう事ですか?」


「まぁまぁ、ライ君、落ち着いて。黙っていたのは悪かった。しかし、君が適任だと思ってね」


 アルステッドにしか聞こえないように問うと、反省の色も無いどころか寧ろ開き直ったような答えが返ってきた。


「ところで、あの封筒は持ってきているかな?」


「……はい」


 何を言っても駄目だと諦めた俺はポケットに入れていた封筒を取り出し、アルステッドに渡した。

 アルステッドは封筒から白紙を取り出すと、白紙にフッと軽く息を吹きかけた。


 ────コォォォオオオ!


 すると、俺の後ろに魔法陣が現れた。

 ステージから見守っていた生徒達は、驚きの声をあげている。


「ライ君、あの魔法陣を使って召喚魔法を」


「え?」


「早く」


 有無を言わさないアルステッドの言葉に、俺は魔法陣に向き直った。


召喚(サモン)


 ──グォォォォォォォォオオオオオオ!!!!!


 魔法陣から現れた(ドラゴン)に俺は言葉を失った。

 確かに、召喚魔法の詠唱はしたが、(ドラゴン)を喚んだつもりは毛頭ない。

 他の新入生達からは突然の(ドラゴン)の出現に腰を抜かす者や逃げ出す者の姿が。


『新入生諸君、怖がる必要は無い。これは、()()()()()()


 アルステッドの言葉通り、(ドラゴン)はすぐに姿を消した。


『驚かせて済まない。これが我が校の伝統である新入生代表召喚だ。と言っても、本当に召喚したわけではないから安心してくれたまえ』


 愉快そうに笑うアルステッドに新入生達は、様々な反応を見せていた。


『これは召喚された対象を実物ではなくホログラムとして出現させる。まぁ、簡単に言うと召喚魔法()()()という奴だ。新入生諸君も、明日のクラス分けで同じことをするから、楽しみにしておくように』


 最後までアルステッドは愉快そうに言い放った。


「素晴らしい……っ!!」


 他の生徒達と一緒にステージを見ていたアリナは熱を込めた声で、そう言った。


 ◇


 ひと騒動あったが、この後もプログラム通りに行われ、入学式は終わった。

 明日から本格的に魔法学校での生活が始まる。それは同時に、俺の寮生活が始まる事も意味していた。

 昨日はサラさんの家に泊めてもらっていたが、正式に学校の生徒になった瞬間、生徒達は学校の敷地内にある寮で生活する事になっている。

 ちなみにアランも、俺と同じように勇者学校の敷地内にある寮に生活する事になっている。

 荷物は既に運ばれているらしく、入学式が終わった後、早速、俺は寮へと向かった。

 部屋は2人1部屋。

 つまり、もう1人の誰かと共同生活をするという事だ。


「面倒な奴じゃなければ良いが……」


 祈りにも近い呟きを零しながら扉を開けると、そこには既にもう1人の住人がいた。


「あ、さっき(ドラゴン)を喚んだ、ライ様だ」


「うるさい」


 ルームメイトは、リュウだった。

 今年の新入生の中で、男は俺とリュウの2人だけなのだから、予想通りと言えば予想通りだった。


「同じ部屋同士としても、これからよろしくな」


「あぁ、よろしく」


 制服の上着を脱ぎ、壁に掛けてあるハンガーを手に取ると、先ほどから、ある一点に視線を集中させているリュウを見た。

 彼の視線を辿ると、ベッドの上で楽しそうに跳ねているスカーレットがいた。


「なぁ……アレ、何?」


「俺のペットだ」


 リュウの問いに、俺は即答した。


「え、ペット?! このスライムが?!」


 目を見開いたリュウは信じられないとばかりに俺とスカーレットを交互に見た。


「何をペットにしようが、俺の勝手だろう」


「そりゃそうだけど、スライムを連れてる奴なんて初めて見たから、つい……」


 そう言ったリュウは椅子から立ち上がると、スカーレットのいるベッドまで足を進めた。


「お前も、よろしくな」


 そう言ってリュウが手を差し出すとスカーレットは飛び跳ねるのを止めてリュウではなく、何故か俺を見た。


「今日から一緒の部屋で暮らすリュウだ。仲良くしてやってくれ」


 俺がそう言うとスカーレットはコクリと頷き、触手を伸ばしてリュウの手に巻き付いた。


「うぉっ?! おい、ライ! コイツ、オレの手に巻き付いてきたんだけど?!」


「……ただの握手だよ」


 いよいよ始まる学校生活。

 部屋の窓から見える景色を見て、未だに騒ぐリュウの声を聞きながら明日は何が待っているのだろうと柄にもなく期待に胸を膨らませていた。

さり気なく、主人公のファミリーネーム初公開。


新章に突入したので、今更ながらメインキャラの2人の紹介(と言えるかも怪しい…)を簡潔に…


◎ライ・サナタス

・純黒の髪と、緑がかった根岸色の瞳が特徴。他のキャラと比べて意外とシンプルな容姿。

・見た目は普通の人間。しかし、顔が良い(ビィザァーナ談)。

・前世(魔王)の力を、今世でもそのまま受け継いでいる。

・魔王ではあったが、根からの悪ではない。


◎アラン・ボールドウィン

・深藍色の髪に、紅の瞳。

・気が優しく、純粋な心を持った少年。

・細身ではあるが、身長はライより高い。

・前世は勇者だったが、その記憶は無い。

・髪色や瞳の色など、容姿が全体的に前世のライと似ている。



[新たな登場人物]


◎リュウ・ フローレス

・ライと同じくらいの背丈の金髪少年。

・一見チャラそうだが、意外と友達想い。

・ある悩みを抱えている。


◎アリナ・フェルムンド

・ポニーテールが特徴、魔法学校の生徒会長。

・真面目な努力家で、みんなから慕われている。

・ライに一目置いている…?

・世界で一番嫌いなもの:○○

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