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145話_進展の兆し

 昼食を終え、アリナ、メラニー、レイメイの3人は早速、護衛活動として村と周辺の森の巡回を始めた。

 見送る側の俺達は玄関で彼らを見送り、時間が来るまで俺とカリンは試験の話し合い、グレイとロットは家事を含めたアザミのサポートをする事になった。


「それじゃ、ライ様。行ってくるわね♡」


 チュッと音を立てて頬から離れる柔らかな温もり。だが、その温もりは一瞬にして布による摩擦の熱で上書きされた。


(馬鹿なことやってないで、早く行きなさい)


「ライさん、あの変態への発砲許可を。一撃で仕留めますから」


 最早、言葉も出ない。

 レイメイはメラニーの頭に鉄槌という名の容赦ない拳骨を落とし、アリナは厄介なものを背負ってしまったとばかりに頭を抱えている。

 カリンは、俺とメラニーを交互に見ながら絶句している。そんな彼女の頬は若干……いや、かなり赤い。

 アリナとレイメイ、そして引き摺られていくメラニーを見送った俺達は、それぞれの仕事に取り掛かった。


 作戦会議を行なっていた客室を再び借り、俺とカリンと漸く、飛び級試験に向けての話し合いための時間を設けることが出来た、のだが……


「……で、どうする?」


 土台も何も、まだ何一つ決めていないため、話し合いは、そこから始まる。


「ここは一度、授業の復習も兼ねて魔力融合(マジック・ユニゾン)というものを改めて確認してみないか? そこから何かヒントが得られるかも知れない」


 ありがたい事に、魔力融合(マジック・ユニゾン)に関しては既に授業で習っている。だから、授業で習った事を思い出せば良い話だ。


「そうね。他に何も思いつかないし……やってみましょう」


 その言葉を合図に、ビィザァーナの授業で得た魔力融合(マジック・ユニゾン)に関する知識が互いの口から飛び交う。

 魔力融合(マジック・ユニゾン)の発動条件、融合させる魔力の相性に、専用の呪文など。試験に役立ちそうなものは全て頭から(ひね)り出した。

 その結果……


「……何か、思い付いた?」


 ヒントどころか、案らしきものすら1つも出てこなかった。正直、予想していなかったわけではないが、こうも現実として叩きつけられると辛いものがある。況してや、残されている時間も多くはないから、焦りも出てくる。

 正に、今の俺達は負の螺旋(スパイラル)の入り口に差し掛かろうとしている。そこに囚われてしまえば最後、下手をすれば二度と出てこられない。

 考えろ、考えるんだ。こういう時こそ、思考を止めてはいけない。そうと分かってはいても、こういう時に限って何も良い案が思いつかない。

 何なら、この際、愚案でも良い。そこから何か別の案が生まれるかも知れないから。貴重な時間だ。僅かでも良いから今の段階から一歩でも進みたい。


「……ねぇ、」


 カリンの声が聞こえ、思考を一時中断する。


「ビィザァーナ先生、言ってたわよね。〝魔力融合(マジック・ユニゾン)は心が通じ合った者同士での発動が最も成功率が高い〟って」


「……あぁ」


 それは先ほど2人で飛び交わした情報の中にも登場したものだ。だが、今の俺達にとって、その情報は何の価値も無い。寧ろ、現段階では友と呼べるかも怪しい微妙な関係で繋がれた俺達には無謀だという現実を突きつけるものだ。

 早くも行き詰まった、この状況で自暴自棄にでもなったかと、彼女を訝しむように見つめる。


「実は、その話を聞いた時から少し違和感を感じていたのよ。その時は、その違和感の正体までは分からなかった。だけど今、アンタと魔力融合(マジック・ユニゾン)に関する知識を整理したことで、思い出せた事があるの」


「……思い出せた事?」


 カリンの言葉を繰り返すように呟くと、彼女は肯定するように頷いた。


「昔、読んだ本に書いてあったの。〝確かに魔力融合(マジック・ユニゾン)は心の繋がりに左右される部分が多い……では、心の繋がりの無い者または自信の無い者達に発動させることは不可能なのか?〟って」


 まだ肝心の、その先の言葉を聞いてないのに、自然と口元が緩む。緩みたくもなる。だって、途方もなく彷徨うことを覚悟していた迷宮の出口への手掛かりが見つかろうとしていると分かったのだから。

 俺の表情を見て何かを察したのか、彼女もまた、ニッと口角を上げる。


「その顔……もう察しがついてるみたいね。本に書かれていた、さっきの問いの答えは〝否〟。つまり、今の私達でも魔力融合(マジック・ユニゾン)を発動させられる方法は存在するって事。ビィザァーナ先生は何も言わなかったけどね。あまり知られていない方法だから先生自体も知らなかったのか、それとも態と黙っていたのか……まぁ、考えたところで意味は無いんだけど」


 確かに、何度ビィザァーナの授業を思い返しても、彼女が、それらしい言葉を言った記憶は出てこない。

 彼女が、その方法を知らなかったか否かはさておき、今は、その方法が、どういうものなのか早く知りたい。

 藁にもすがる思い……とまではいかないが、それに近い感情を込めた眼差しで彼女を見つめる。

 ただ、淡々と過ぎていく時間を眺めるだけで終わるのではないかと危惧していただけに、期待が高まっているのだ。


「……それで、その方法というのは具体的に、どんな方法なんだ?」


 湧き立つ期待を悟られないように静かに問いかけ、カリンの次の言葉を待った。

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