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141.5話_閑話:過去に囚われし者達《下》

 現時点で話せるものは全て話した。だが、それが彼の求めていた答えだったかまではグレイの判断だけで分かるものでは無い。

 事実、グレイが語った話には彼自身も知らない空白の時間がある。

 そもそもロットがグレイに尋ねたのは魔王亡き後の彼の選択だ。逃亡か降伏か。それとも、それ以外か。

 しかし今のグレイの話だけでは彼が、どの選択を取り、結果的に捕らえられてしまったのか、その流れまでは分からない。

 結局、彼が最も聞きたい答えは聞けていない。故にロットは話し終えたグレイに再度、問いかける。

 一度は流したが、やはり納得できない。大体、思い出せないだの記憶が無いだの、そのような言い訳で通せる筈が無い。


「お前が、どんな最期を迎えたかは分かった。だけど僕の質問の答えにはなってない。結局、お前は魔王様を見捨てたのか?」


 これで何も答えない、若しくは先ほどと同じ回答だったならば、もう問わない。そのつもりで放った最後の問いかけ。

 その問いかけに対するグレイの回答は意外なものだった。


(申し訳ありませんが、その問いの答えに関しては先ほどと変わりません。思い出そうと、これまで何度も記憶を探った事はあるのですが、どうしても思い出せないんです。ただ貴方に話したことで思い出せた事があります)


「思い出せた事?」


(はい。勇者に殺される前の……あの人との会話です)


 グレイがライと交わした最後の言葉。

 純粋に気になったロットは、次のグレイの言葉を待った。


(あの勇者を前にした時、俺は底知れない不安に襲われました。もしかしたら、あの時から魔王様の未来を察していたのかも知れません。そこで俺は魔王様に提案をしたんです。〝もしもの時は、俺を盾にして逃げて下さい〟と。不死身の身体を手に入れた俺なら、致命傷を負ったところで死にはしない。それに戦闘要員としては力不足な俺でも、それくらいなら役に立てるだろうと……そんな俺の提案に、あの人は何と答えたと思います?)


「…………」


 勿体ぶらずにさっさと言えと言わんばかりにロットは口を閉ざしたまま、グレイを見つめている。


(〝少し死から遠ざかった程度の分際で、自ら命の価値を下げるようなことをするな〟……そう叱責されました)


 当時のことを懐古しているのか、そう語るグレイの目は閉じられている。

 いくら不死身とはいえ、痛みや苦しみは感じるのだろう?

 死への恐怖が無くなったわけでは無いのだろう?

 それがお前にとって俺への忠誠か何なのかは知らんが、そんな自己犠牲で成り立った意志など、今すぐ捨ててしまえ。

 無慈悲で残虐と言われていた男の言葉とは思えないほどに優しい言葉。

 良い意味でも悪い意味でも彼は他人に甘過ぎた。本来ならば手下の1人や2人、捨て駒として切り捨てるくらいあっても良かったのに。


(俺から話せるのは以上です。まだ、貴方の問いへの答えとしては不十分ですか?)


 グレイの問いかけにロットは複雑そうに眉を顰めながら、小さく首を左右に振った。


「いや……もう良い」


 今の回答で満足したわけじゃないが、とりあえずは納得しておいてやる。そう言わんばかりの反応に、グレイは安堵の息を漏らす。


「良い話じゃなぁい。本当、泣けちゃうわぁ。さすが、ワタシのライ様♡」


 グレイでもロットでも無い。それでも、何処かで聞いたことがあるような女性の声に即座に反応したのはロットだった。

 いつの間に手に取ったのか、銃を構えて部屋の出入り口である扉の方へと銃口を向けている。

 グレイは衝撃のあまり扉に立つ見知らぬ女性を見つめる事しか出来なかった。何故なら、この空間は今、グレイの結界によって守られている。話を聞く事は愚か、中に入る事だって容易では無い。ライなら兎も角、会ったことの無い女性に、音も気配もなく忍び込まれるなんて……


「あらあら。ワタシは貴方を心配して来てあげたって言うのに、その態度は無いんじゃないかしらぁ?」


「頼んでない」


「ワタシだって好きで来てるんじゃないわよ。あの朴念仁が無理やり付き合わせるから、ついでよ、ついで」


 女性の視線がロットからグレイへと向けられる。


「それにしても、また懐かしい顔を見ちゃったわぁ。久しぶりねぇ、グレイ。ワタシのこと憶えてるかしらぁ?」


 憶えてない。そう即答すべきなのに、何かが引っかかる。

 何故か彼女の姿というよりも、声に懐かしさを感じる。


(……どちら様ですか?)


 本人に尋ねるのは何となく気が引けて、隣にいるロットに尋ねる。


「魔王様に、ご執心だった鬼蜘蛛(オグル・スパイダー)……これで分かるだろ」


 分かるどころの話では無い。

 答えに限りなく近いヒントで、グレイは目の前の女性が誰なのか分かってしまった。


(……随分と人間らしい姿になりましたね、メラニー)


 呆れたように呟けば目の前の女性──メラニーは〝憶えていてくれて嬉しいわぁ〟と微笑んだが、明らかに棒読みだし、目は笑ってないしで、既にグレイに対しての敵意を剥き出しにしている。


 こうして、突然のメラニーの登場で、グレイとロットの過去話は強制的に幕引きとなった。

次話から通常通り、主人公視点に戻ります。

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