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15話_夢

※最後の方だけ、謎の第三者視点です。

 あれから、1年と半年が経った。

 俺達は毎日、日が暮れるまで遊び尽くした。東の森、その奥の洞窟、またはお互いの家、と……範囲は決して広いとは言えなかったが、それでも俺達は充実した毎日を送っていた。

 楽しい日々は無情にも、あっという間に過ぎていき……とうとう、別れの日がやって来た。


「ライ……君のお蔭で、毎日がとっても楽しかった」


「……俺もだ」


「ふはっ! やっぱり、その話し方……慣れないな」


 時の流れとは恐ろしく、この1年半で俺は敬語ではなく、素の口調で接するようになっていた……だが、サラのような大人は対象外だ。

 俺が素の口調に戻った最大の原因は、マナとマヤだ。

 2人にだけ敬語で話さない俺をアラン達が疑問に思わないわけが無く、結局、アラン達にも素の口調で話すようになった。

 元々、前世の俺と少しでも違う自分でいるために記憶を思い出す前から(恐らく、無意識で)敬語を使い続けていたから、記憶を思い出した後もそのままの流れで、敬語を使い続けていただけだ。

 簡単な話、この違和感たっぷりな口調の止め時が分からなかった。

 スカーレットが触手を伸ばし、アランの肩をトントンと叩いた。スカーレットの方に向き直ったアランは伸ばされた触手に優しく触れた。


「……スカーレットも、ありがとう」


 礼を述べると、スカーレットは今の心情を表すように触手をユラユラと揺らし始めた。


「サラ、元気でね」


「ええ、貴女もね……マリア」


 そう言って涙ぐみながら、互いを抱きしめ合う2人を見て本当に、俺達は明日から会えないのだと嫌でも実感してしまう。


「アラン」


「どうしたの?」


 マナに呼び止められ、アランは彼女の視点に合わせるように中腰の姿勢になった。


「これ……」


 そう言って1枚の紙を手渡したのは、隣にいたマヤだった。


「これは……?」


「「裏返して、見て」」


 見事に声を揃えた双子にパチパチと数回瞬きをした後、アランは指示通りに紙を裏返した。


「あ……」


 その紙に描かれていたのは、中心には俺とアラン。そして俺達を囲むように描かれていたのはマリアとサラ、マナとマヤに、スカーレットだった。


「……僕に、くれるの?」


「うん」


「私達のこと……忘れないで」


「うん……忘れない。忘れないよ」


 それから間もなく、アランとサラは王都に向けて出発した。

 俺達は、2人の姿が村から完全に見えなくなるまで見送った。


 ◇


 アラン達が村を出てから2週間近く経った日、早速、王都に着いたアランから手紙が届いた。

 久し振りに見た王都は相変わらず広く、建物も更に増えているという事。来年から、勇者になるために学校に通い始めるという事。もし俺が王都に来た時は、色々な店を紹介してくれるという事。

 ご丁寧に王都のどこかで撮ったのであろう写真も添えて、近況から他愛もない話、そして将来に関する少し真面目な話まで……幅広く書かれていた。

 アランからの手紙を一通り読んだ後、引き出しの中に保管していたアルステッドから貰った白紙入りの封筒を取り出した。


「……俺も、そろそろ前に進まないとな」


 12歳まで、あと半年。

 アランと同じように俺もまた、未来への一歩を踏み出そうとしていた。

 俺は、マリアに話した。数年前に、王都の魔法学校の理事長であるアルステッドから、謎の封筒を貰った事。そして、12歳になった時に少しでも魔法に興味があるならば王都の魔法学校まで来いと言われた事を。

 彼女は、今まで見た事が無い真面目な表情で、話を最後まで黙って聞いてくれた。

 扉から、こちらの様子を窺っているスカーレットや双子も話に割って入る様子は無く、唯々、見守っていた。


「それで……ライは、どうしたいの?」


「俺は、魔法学校に行きたい」


 全て話し終えた後の母の第一声に、迷いなく答えた。


「どうして?」


「……え?」


「どうして、魔法学校に行きたいの?」


 予想外の母の質問に、思わず言葉を詰まらせた。そんな俺を見て、彼女は真面目な表情を少しだけ和らげた。


「少し意地悪な質問だったわね。でもね、ライ……今、貴方は焦っているんじゃないかしら? アラン君には勇者になりたいって夢がある。貴方には、そういう夢がある?」


「夢……」


 アランと何度か将来についての話をした事はあったが、改めて思い返すと今まではっきりとした答えを返した事が無かった。


「大丈夫よ、ライ」


 マリアの手が、俺の手を包み込んだ。

 同じ手なのに、体温は、こんなにも違う。


「貴方には、まだ時間がある。しっかり悩んで、自分が納得のいく答えを見つけなさい。貴方が答えが見つけたその時は……私は、貴方を心から応援するわ」


 そう言って微笑んだ彼女に、俺は何も言えないまま頷くしかなかった。

 今更ながら冷静に思い返してみれば、魔法に興味が持ったのはビィザァーナが来た時の事や、アルステッドとのやり取りがあったからだと思う。

 魔力測定であんな結果が出なければ、それこそ魔法に興味を持つこと自体、無かっただろうが、幸いにも俺には魔王(前世)の力がある。

 前世では、世界を壊すために使っていた力。罪滅ぼしというわけではないが出来ることなら、この力を今度(今世)は、誰かを助けるために使いたい。

 最近は特に心から、そう思っている。


(……これは、夢にはならないのか?)


「ライ……」


「入っても、いい?」


 キィッと軽く開かれた扉から控えめに顔を出したのらマナとマヤだった。いつもなら何も言わずに入ってくる彼女達が、俺の様子を気にしてなのか今日はわざわざ、入室許可を得てから入ろうとしている。

 こんな小さな子にまで気を使わせてしまっていたのかと思うと、ますます自分が情けなくなる。


「……いいよ」


 許可がおりると、双子は俺の元へ駆け寄った。


「ライ、大丈夫?」


「マリアに、怒られたの?」


「……違う」


 双子がいるにも関わらず、重い溜め息を吐いてしまった。そんな俺を見て、2人は互いの顔を見合わせた。


「ライなら、大丈夫」


「うん、大丈夫」


 そう言って、双子は背伸びをして俺の頭を撫でた。背伸びをしているせいか、撫でる手も身体もプルプルと震えている。


「……俺の未来を見たのか?」


 どこか確信を持って言う2人に尋ねると、同時に首を左右に振った。


「ううん、違う」


「でも、見なくても分かる」


「……何故だ?」


「「ライは、私達のお兄ちゃんだから」」


 同時に言葉を放った2人に、思わず笑みが零れる。


「フッ……何だ、それ」


 そんな遣り取りをしていたら、いつの間にかスカーレットがいて、2人の真似事なのか触手を伸ばして俺の頭を無造作に撫で始めた。


(いや、これは撫でるというよりマッサージに近いな……)


「スーちゃん、いい子いい子してる」


「スーちゃんも、ライの心配してたから」


 俺の頭をマッサ……撫でるスカーレットと、それを見つめる2人を見ながら、改めて思った。


(彼女達が……平和に暮らせる世界にしたい)


 勿論、アランもサラもマリアも、全員含めて。

 今でも充分平和だと思うし、何より一度は平和を壊してしまった俺が言える立場では無いだろう。

 だが、だからこそ彼らが平和で幸せに暮らせる世界で、これからも彼らと共に生きたい。

 そのために俺の力が少しでも役に立てる事があるならば……答えに辿り着く前に、既にマリアの元へと走っていた。


「母さん。俺、やっぱり魔法学校に行きたい。学校に行って……魔法使いになりたい!」


 その日、俺は初めて〝魔法使いになりたい〟と、心から思った。


 ◇


 しかし、この世界には、日向(ひなた)と日陰という相反する存在が同時に存在するように……希望に向かって自ら歩み出そうとする者がいると同時に、絶望の道へ自ら歩み出そうとしている者がいた。


「それで……例の準備は済んだの?」


 露出度の高い服を見事に着こなしたスレンダーな女が、子どもが好みそうなお面で顔を隠した青年に問いかけた。


「貴女が望むなら、いつでも出撃出来ますよ」


「そう……でも、今は駄目。結界が強いから、下手すると擦り傷一つ付けられないわ」


「では……どうします?」


「今は待つのよ。もう少しすれば、結界が緩む。その時が、全ての始まり……いいえ、()()()よ」


 ずっと闇の中で息を潜めていた何かが、少しずつ姿を現そうとしていた。

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