123.5話_閑話:奪還までのカウントダウン
「……っ、やってやったわよ。このド畜生が」
弱肉強食の森から帰ってきたキャンディの両目は不吉な赤い月のように真っ赤に染まっていた。
ツインテールに束ねれていた髪は解け、愛らしいフリルと、他の色とは相入れない黒を基調とした所謂、ロリータファッションの服は所々、破けている。
しかし、最早、そんなものは気にならないとばかりに彼女は勝ち誇った顔で、久々にロゼッタとギルの前に現れたのだ。
満身創痍である彼女が、ここまで堂々とした立ち振る舞いを見せる理由……要は、成功したのだ。
生きる厄災を使役する事に。
「遅ぇよ、ポンコツ」
死闘に近い戦いを強いられたのであろう彼女の姿を見ても尚、ギルの口から漏れたのは労いでも称賛でもなく、シンプルな文句だった。
「ちょ、ちょっと、ギル! いくら何でも、その言い方は……」
「あー、いいのいいの。ある意味、予想通りの反応だったし。それに、心配されたり褒められたりした方が、逆に気持ち悪いっていうかぁー」
ロゼッタが仲裁に入る前に、手をヒラヒラと振って軽く流したキャンディは、どこから取り出したのか分からない棒付きキャンディを咥えた。
「あぁ〜、やっぱ労働の後の〝飴ちゃん〟は格別だよねぇ〜」
「何、やり切った顔してんだ。寧ろ、これからだろうが」
そう。これは彼らにとって、あくまで下準備に過ぎない。
本来なら、もっと戦力を増やしていきたいところだが、彼らには、その時間も手段も無い。だから、自分達の力で出来る範囲で用意を進めるしか無いのだ。
「でも、キャンディ……アンタ、大丈夫なの? その目……」
「あぁ、うん。大丈夫。ちょっと無理しただけだから……すぐ治る。それに見た目ほど痛くは無いし」
嘘。本当は、目を開けても閉じても痛くて辛い。
少しでも気を緩めば、眼球が破裂してしまうのではと思うほどにピリピリと内側からの刺激に襲われ、目の奥の何かが常にピンと張っているような状態。
だが、キャンディは弱音を吐かない。
この痛みに耐えることで、あの人に会えるならば……この程度、いくらでも耐えられる。
「おい」
ぶっきらぼうの声が聞こえたかと思うと、視界が闇に包まれる。
ギルの手がキャンディの両目を覆ったのだ。
「有限治療」
無愛想な詠唱が聞こえたと思うと、次第に……目から痛みが引いていく。
そしてギルの手が離れた時には、キャンディはベビーピンクの瞳を取り戻していた。
まるで初めて遭遇した生き物でも見るかのように自分を見つめる2人の視線に、ギルは舌打ちをした。
今のは、爆破魔法を得意とするギルが唯一使える治癒魔法。今となっては遠い昔……魔王から教わった、彼にとっては非常に思い出深い魔法なのだ。
「……その魔法の効果は一時的なものだ。魔法が解ければ、また痛みが戻る。だから魔法が解ける前に、とっとと終わらせるぞ」
準備は整った。
後は、実行に移すタイミング。
前回は失敗した。だからこそ、今回は慎重にならなければならない。
天は自分達に味方をしているのか、最近、王都から感じる結界の魔力が日に日に弱まっている。
これは罠なのか、あるいは……
(罠だろうが何だろうが、どうだって良い。あの人が取り戻せれば……それで良い)
彼らが魔王奪還作戦を決行するまで、あと────
18話から今回の閑話まで……
作者が想定していたよりも膨大な話数でお送りした第2章ですが、次回のお話で最後となります。
ここまで来れたのは読者様方のお蔭です。本当に、ありがとうございます。
次回の話が終わりましたら、次は第3章へ……
物語としては、一つの大きな佳境を迎える大事な章へと突入することになります。
引き続き、ライ達の行く末を共に見守って頂けると幸いです。
それでは、最後まで張り切って参りましょう。
次回、《飛び級試験 編》突入。




