119.5話_閑話:小さな勇気、大きな一歩
※今回は、アレクシス視点で進みます。
※いつもより短めです。
手渡した植木鉢を大事そうに抱えたライさんを見て、〝この人に渡して良かった〟と心から思った。
先日のお詫びとはいえ、男が男に薔薇を渡すのは、いかがなものかと考えもしたが、僕に出来る事なんて、謝るか薔薇の世話くらいだ。
僕は感情が豊かで、世渡り上手な兄とは違う。
そう思ってきた。そう言われてきた。
だけど……
──アレクシス王子とアンドレアス王子は、とても似ていますね。
確かに彼は、言った。
──見た目もそうですが……俺が似ていると言ったのは〝性格〟のことですよ。
これまで誰も……父上や長年、城に仕えている使用人達でさえ、口にしなかった言葉を。
…………嬉しかった。
兄だけでなく、こんな自分も見てくれている人がいると知って。
そんな彼だからこそ、自分も気付かなかった兄との共通点を見つけだすことが出来たのだろう。
本当は、期待しながらも疑っていた。〝どうせ、言葉だけなのだろう〟と。
似ているなんて言っておいて、具体的にどこがと問われたら、言葉を詰まらせるのだろうと、そう思っていたのに。彼は、考える素振りすら見せずに、即答した。
不審者と間違えられた彼がレオンさんに襲われた時。余裕があったわけでは無かっただろうに、薔薇を潰さないようにと結界を張った彼。
母が大好きだった薔薇を守りながら戦った優しい彼を疑ってしまった自分が恥ずかしい。
彼が2階の廊下から飛び降りようとした時だって、手に持っていた愛らしい花冠を、そっと包み込むように持ち替えていた姿を見ていたというのに。
……この人の言葉なら、少しだけ〝勇気〟が持てるような気がする。兄と向き合うための〝勇気〟が。
「ライさん、僕……」
つい先程まで土しか見えていなかった植木鉢を見つめる。
きっと、大丈夫。ライさんの言葉通りなら、兄もまた、自分と同じような悩みを抱えている筈だから。
ここは僕が、前へと踏み出さなければ。
「兄に…… 兄に……兄さんに、今日、この薔薇を渡すよ。ライさんの〝優しい魔法〟が込められた、この薔薇を」
僕の言葉に、ライさんは嬉しそうに笑った。
「絶対に喜びますよ。それこそ喜び過ぎて……泣いてしまうかも知れません」
何かを思い出しているのか遠い目をした彼に、大袈裟なと軽く笑った。
近い未来で、彼の未来予想が的中するとも知らずに。




