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13話_過去を見通す者、未来を見通す者

 空から落ちてきた二人の少女に、何故か抱擁(拘束と言っても良いかも知れない)されている。

 幸か不幸か、周囲に誰もいないため騒ぎにはならなかったが、これでは助け誰かに助けを求めることが出来ない。


「どうしたの、魔王様?」


「どこか、痛いの?」


 ペタペタと俺の身体に触れながら、心配そうに問いかける少女達……って、ちょっと待て。

 さっきもそうだが、何故、彼女達は俺を〝魔王様〟と呼んでいるんだ?


(まさか……前世の俺を知っている?)


 突発的に生まれた考えを、そんなまさかと、すぐに否定した。

 彼女達が自分のことを〝魔王様〟と呼んだのは空耳か……それか、アレだ。

 〝魔王様〟と呼ばせている悪趣味野郎な誰かと間違われているだけ……それはそれで、腹が立つな。


「あの、先ほどから僕の事を〝魔王様〟と呼んでいますが、どなたかと人違いでも……」


「「気持ち悪い」」


 少女達から放たれた一言は、俺の心の臓を貫いた。


「魔王様、そんな話し方じゃない」


「魔王様じゃないみたい。変」


 散々な言われようだが、この反応は本当に、彼女達は前世の俺を知っているというのか?


「……お前達は何者だ?」


 試しに素の口調で答えると、少女達の周囲に花が咲いていくのが見えた。


「魔王様!」


「魔王様だ!」


(ダメだな、これは……)


 キラキラと目を輝かせる彼女達に、俺は警戒する間も与えられず、既に疲れ始めていた。


「もう一度聞く、お前達は何者だ?」


 今度は俺の質問が届いたのか彼女達はハッとした表情で俺から離れたかと思うと、ピンと背筋を伸ばした。


「私は、マナ」


「私は、マヤ」


 少女達の名前は、マナとマヤというらしい。姿もそうだが、名前まで似ていて紛らわしい事、この上ない。


「ずっと前に、魔王様に助けてもらった」


「……ずっと前?」


「始まりの村……って言ったら、分かる?」


 始まりの村。

 その言葉を聞いた瞬間、ドクンと命を刻む鼓動が、激しく波打った。ドクンドクンと、身体全体が心臓になったかのように鼓動の音が木霊する。

 分からない筈が無い。憶えていない筈が無い。何故なら、その村は……俺が魔王になって、初めて壊滅させた村だった。


 ◇


 辺りは炎が燃え盛り、少し離れた所からは村人達の悲鳴が聞こえる。しかし、見るからに幼い2人の少女だけは、その場で蹲って動かない。

 俺は、興味本位で彼女達に近付いた。


「……逃げないのか?」


 そう問うと、2人の少女が顔を上げた。目元は綺麗な布で覆われており、辺りをキョロキョロと見渡していた。そんな少女達の反応に、俺はすぐに悟った。


「お前達、目が見えないのか」


 彼女達はそれぞれ違う方向、しかも誰もいない方向を向いて、コクリと頷いた。


「私達の、目は、不吉だからって……」


「村の、みんなが……」


「もういい」


 そう言って、俺は無理やり言葉を遮った。


「……少し、大人しくしていろ」


 俺は、彼女達の目を覆うように手を当てた。


復活(リジェネレーション)


 俺の手を光が包み込み、暫くすると光は音も無く消えた。

 少女達は自分の身にあった事がすぐに分かったようだった。俺が手を離した瞬間、覆われていた布を無造作に取り、恐る恐る目を開けた。


「うそ……」


「見える……」


 紫の瞳を忙しく動かしながら、彼女は同じ顔で驚いていた。


(何だ、不吉と言うから、どんな目をしているのかと思えば……)


「綺麗な目じゃないか」


 俺の独り言が聞こえたらしく、少女達は先ほどと同じ驚いた表情を俺に向けたが、その間にも辺りは業火に包まれており、肌にその熱が伝わってくる。今の彼女達にも、その光景がしっかりと見えている筈だった。だが、彼女達は辺りの惨状には目もくれず、真っ直ぐに俺を見て……


「「神様、ありがとう」」


 俺にお礼を言ったのだ。村をこの有様にした、この俺に。


「……俺は、神様なんかじゃない」


 純真無垢な彼女達の瞳から逃れるように俺は首を振って、そう言った。


「じゃあ、誰なの…?」


 少女の問いに、これは参ったと思わず笑みがこぼれた。あえて隠す事はせず、これから歩む道への覚悟を胸に、堂々と言い放った。


「俺は……」


 ────この世界を壊しにきた、魔王だ。


 ◇


 全てを思い出した俺は、2人の少女を先ほどまでの他人を見るような目では見ていなかった。


「お前達は、あの時の……」


 その一言で全てを察したのか、マナとマヤは俺に笑顔を見せると、勢いよく抱きついた。


「魔王様……っ!」


「ずっと、会いたかった……!」


 胸に顔を埋める二人の頭を、優しく撫でた。

 それから間も無く、いつの間にか空が闇に包まれていた事に気付いた俺は、ひっつき虫のようにくっ付いて離れようとしない二人を抱えたまま、家まで辿り着くしかなかった。


「まぁ、ライったら……また可愛いお友達が出来たのね」


 そんな俺の姿を見て、マリアが言い放った一言が、これだ。

 スカーレットの件でもそうだったが、何故、彼女は、こんなにも順応性が高いのだろう?


「マナちゃんとマヤちゃんっていうのね。私はマリア、よろしくね」


「「……よろしく」」


 俺の後ろに隠れながら、そう言った二人に何故か彼女は膝から崩れ落ちていった。


「か、可愛すぎる……っ!!」


「……時々、こうなるんだ」


 何故か、今回はスカーレット(前回)よりも酷いが……とりあえず気にしないでくれと言うと二人は揃って頷いた。


 じーーーーーーっ。


 じーーーーーーっ。


 双子の次の視線の的になっているのは、トマトを美味しそうに平らげているスカーレットだった。


「……スライム」


「……プニプニ」


 しゃがみ込んで、マナはスカーレットをツンツンとつつき、マヤは興味深そうにジーッと見つめていた。


「眼福ねぇ……」


 頬に手を添えてマリアは、フフッと笑った。

 スカーレットを紹介した辺りから、彼女の様子がおかしい。いや、本当に。

 彼女はハッと何かを思い出したような表情を浮かべると、俺の方へと向き直った。


「ライ、そろそろ双子ちゃん達を家に送っていかないと、きっと彼女達の両親が心配しているわ」


 彼女の言葉に、真っ先に反応したのは双子達だった。


「……お母さん、お父さん、いない」


「私達、ずっと二人」


 それを聞いた瞬間、彼女は人間とは思えない速さで双子を抱き寄せた。


「それじゃあ二人とも、ウチの子になっちゃいなさいっ!! ね?!」


 マリアは、幼い双子に容赦なく詰め寄った。

 双子が引いてしまっているのではと、つい双子を見てしまったが、その心配は不要だった。


「マリアの子……それって、つまり……」


「魔王様と……家族っ!!」


 皆様、突然ですが朗報です。

 俺に妹が2人もできました……って、俺も冗談に乗っている場合ではない。


「母さん。いくらなんでも、それは……」


「あら、良いじゃない。実は私、女の子も欲しかったの」


 上機嫌な彼女を止める術を、少なくとも今の俺は知らない。


「魔王様の妹、嬉しい」


「その魔王様っていうの、止めてくれませんか」


「それなら魔王様も……その変な話し方、止めて」


 変な話し方も何も、これが俺の基本スタイルだ。そう言っても納得しなさそうな双子に降参だと両手を挙げた。


「……分かった。その代わり、魔王様って呼ぶのは止めてくれよ」


「じゃあ、なんて呼べば良いの?」


「ライで良い」


「ライ……お兄ちゃん?」


「……〝お兄ちゃん〟は、いらない」


 お兄ちゃんと呼ばれるのは、なんだか、むず痒い。


「「ライ……ライ……」」


 言葉を覚えたばかりの子どものように、双子は何度も俺の名を呼ぶ。


「「ライお兄ちゃん」」


「だから、〝お兄ちゃん〟は止めろ」


「「ふふっ……はーい!」」


 打ち合わせ無しに見事なシンクロを見せた双子に素直に感心していると、そんな俺達を見ていたマリアは異常なまでに身体を震わせていた。


「ウチの子達が……可愛すぎるっ!!」


(……もう、何も言うまい)


 ◇


 ホーホーと、フクロウの声だけが響く静かな夜。

 横に並べられた3つの布団。

 それぞれの布団にマナ、俺、マヤの順番で入っていた。

 ちなみに俺の布団には、ちゃっかりスカーレットも入っている。


「お前達には、前世の記憶があるのか?」


 俺の質問に揃って首を振る。


「記憶は無い」


「ただ()()()だけ」


「……見えた?」


 俺が首を傾げるとマヤが頷く。


「マナは過去を視る事が出来るの」


 そうなのか?とマナを見るとコクコクと何度も頷いた。


「マナが見た過去の記憶を私も視た……それだけ」


「マヤも、過去が視えるのか?」


「過去は視えない。でも、未来は視える」


「あと……お互いが視た、過去と未来が視えるの」


「つまり……マナは過去、マヤは未来が見えて、2人が見た過去や未来は互いに共有出来るって事か」


 恐らく彼女達は千里眼の持ち主なのだろう。ただマナは過去、マヤは未来……と、ベクトルが真逆なだけの話だ。


「自分の過去を視たら、ライがいて……」


「もしかしたら、この世界にいるかもって、毎日、未来を視てたら……」


「「会えた」」


 そう言った双子は俺にVサインを向けている。


(彼女達の言う事が本当なら〝偶々〟過去(前世)が見えたと言うのか? そもそも前世って、そう簡単に視れるものなのか? しかも、俺がいるかも知れないからって毎日、未来を視てたって……)


「それって、そもそも俺と会う未来が無かったら……」


「一生、会えなかった」


「でも、会えた」


「だから……これは、運命」


 双子達の言葉に、俺は電池が切れたオモチャのように、思いきり枕に顔を埋めた。


「それでも……よく、ここまで来れたな」


「双子の占い師」


「……ん?」


 突然、何の話だと首を傾げる。


「見えた未来や過去を、教えただけ」


「それを色んな場所でしていたら……」


「いつの間にか、そう呼ばれてた」


「……それと、ここまで来たのに、どういう関係が?」


「それで、少し有名になって……」


(……え、まだ続くの?)


「お客さんの一人が……これ、くれた」


 そう言って、マナが取り出したのは緑色の綺麗な石だった。その石からは、微かに魔力が感じられた。


「この石は?」


「風の魔法が使える、珍しい石って言ってた」


「だから、この石を使って……ここまで飛んで来た」


 つまり、この石のせいで俺は一生忘れられないであろう、あの強烈な初対面(ファーストコンタクト)を……


 ────ペシッ! ペシッ!


 もう寝ろと言わんばかりにスカーレットの触手が俺の頬を軽く叩いた。


「痛っ! わ、分かった分かった。騒がしくして悪かったな、スカーレット。俺も、そろそろ寝るから」


 そう言ってスカーレットを撫でると、頬を叩いていた触手がスカーレットの身体へと戻っていった。


「ライが寝るなら、私も寝る」


「私も……」


 ふぁ……と、二人で同時に欠伸をしながら布団へ身体を潜り込ませた。


「おやすみ」


「「おやすみなさい……」」


 こうして、俺の長かった一日が終わった。きっと明日は、アランやサラさんに、この二人を紹介する事になるだろう。


(あぁ……サラの場合はスカーレットも、だな)


 明日も騒がしい一日になりそうだと心の中で溜め息を吐きながらも、どこかで、そんな明日が楽しみだと思う自分がいた。


(……魔王だった時は、こんな気持ちになった事なんて一度も無かったのにな)


 多くの仲間がいても、世界を壊すという目的が少しずつ目前と近づいていたあの時も…心が満たされた事なんて一度も無かったが、今は、こんなにも毎日が楽しい。

 もしかしたら俺は魔王ではなく、普通の村人生活の方が性に合っているのかも知れない。

 改めて、この平穏な日々の有り難みを噛み締めながら、俺は眠りについた。

[ 新たな登場人物]


◎マナ

・マヤとは双子。

・白髪の長髪ストレートに、瞳はアメジストのように儚げな輝きを放つ紫色。

・見つめた相手の過去(前世)を視ることが出来る。自分の前世を視たことでライの存在を知った。

・自分が視た情報は、マヤと共有できる。


◎マヤ

・マナとは双子。

・髪と瞳の色は、マナと同じ。

・マナとは逆で、相手の未来を視ることが出来る。使い方によっては何よりも厄介な力となりそうだが、万能というわけでは無い。

・マナの過去の情報を元に、自分の未来を視続けたことで、ライと出会えることを前もって知ることが出来た。

・視た未来の情報を、マナと共有することが出来る。

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