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かつて世界の破滅を願った魔王は転生世界で何を願う?  作者: 零珠音
特別クエスト『熱血王子を護衛せよ』 編
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100話_這い寄りし蜘蛛、過去への執着

 鬼笛によってレイメイと何故か人間の姿をしたメラニーが召喚されてから、10分という時間が過ぎた。

 短いようで意外と長い時間の中で、俺は既に、心身共に困憊(こんぱい)していた。

 色々と気を遣い過ぎて疲れた。

 特に、そもそもの原因であるアザミに対しての気遣いに疲れた。

 ……俺、一応、魔王だったんだけどな。

 今となっては、遠い遠い過去の記憶を引っ張り出すまでに、俺の心は、砂の城のように儚く崩れ落ちていた。

 だが、まぁ……それも、レイメイ(ソウリュウ族)アザミ(セイリュウ族)が向かい合う姿を見たら、自然と持ち直した。


「レイメイ、久しぶりだねぇ……と言っても、唯一、会ったのはアンタがまだ小さい時だったから、アタシのことを覚えていないだろうがね」


「……確かに拙者の記憶の中に貴女は、いません。ですが、アザミ・セイリュウの名は、よく父から聞いていました。父だけではありません。村に住んでいた者達は皆、貴女の名を口にしては懐かしむように顔を綻ばせておりました」


 レイメイの言葉に、アザミは複雑そうに眉を下げた。


「住んでいた、か……本当に全部、無くなっちまったんだね。村も、思い出も……」


 アザミの言葉に、全てを知った俺も、思わず悲痛な表情を浮かべた。

 だが、レイメイは、彼女の言葉に小さく首を横に振った。


「全部……では、無いです。今とは違う場所にあるし、村人も少ないですが、ソウリュウの村は無くなってはいません。それに……」


 途中で言葉を切ったレイメイは、胸元から取り出した物を、彼女に差し出した。

 彼がアザミに差し出したのは、名前の分からない小ぶりな花の〝(しおり)〟だった。


「これは……押し花の栞かい?」


「はい。昔、貴女に押し花や花(かんむり)の作り方を教わったという者から頂いた物です。この栞を作った者は、今も新たなソウリュウの村で、子どもと一緒に暮らしています」


 その言葉を聞いた瞬間、アザミの持つ栞に、雫がポタリと落ちた。


「そうかい……っ、そうかい……」


 同じ言葉を何度も繰り返しながら、アザミは抱きしめるように栞を両手で包み込んだ。


 ◇


 少ししんみりとした、だが、僅かながらに希望の光が差し始めたような清々しい空気に、皆が穏やかな笑みを浮かべ始めた頃。

 俺には、どうしても無視できないものがあった。

 それは、メラニーだ。

 正確に言うと、メラニーが身につけている服……いや、()だ。


「あら、なぁに? ワタシを、そんなに熱い視線で見つめて……もしかして、やっとワタシの魅力に気付いたのかしらぁ?」


 何を勘違いしているのか、そんな事を言いながらジリジリと俺に詰め寄ってくる彼女は、巣の罠に嵌った餌を前にした蜘蛛そのものだ。

 詰め寄ってくる度に、無駄に強調された彼女の胸が服から零れ落ちそうで、ある意味、ヒヤリとした。


「……その服は、どこで調達した? それに、その姿は……」


 服という表現が合っているのか怪しいが、とりあえず服という扱いにして、彼女に問いかけた。

 俺の問いかけに彼女は〝あぁ〟と、何か思い出したように声を漏らした。


「ワタシも最初は驚いたけれど、人間に変化出来るようになったのは恐らく、誓約(プレッジ)のせいじゃないかしらぁ? 人間に近いけどツノは健在みたいだし、これじゃあ、どちらかというと鬼人(オーガ)ね。服は、ヒメカと……そこの朴念仁に〝何か着ろ〟って言われたから仕方なく適当な布で、それらしく作ったのよ。蜘蛛の時だって裸だったのに、人間に変わった途端、これだもの。本当、人間って不便ね」


 なるほど、この布……いや、服は、彼女の手で作られた物だったのか。

 通りで……ぜ、前衛的なデザインだと思った。

 必死にフォローの言葉を入れようとしたが、これが俺の限界だった。

 彼女お手製の服は、一見、ダンスパーティーなどの華美な場に相応しいドレスのような服。

 しかも、使われた生地は、真っ白な生地の上に、数多の真っ黒な蝶の刺繍が施された、いかにも高価そうで上品な物だった。

 大人な女性の雰囲気を漂わせて彼女には、とても似合っていると思う。

 思うのだが……ただ1点だけ。

 この服には、着る者の人間性を思わず疑ってしまうような致命的な欠点があった。


「ねぇねぇ、ライ様。似合うかしらぁ?」


 そう言って彼女は、その場でクルリと一回転した。

 フルリと揺れる胸、風に(なび)いたカーテンのようにフワリと上がるドレスの(すそ)

 そこから見えるスラリと細い足。

 そして()()から見える日焼けという概念を知らないほどに真っ白な素肌。

 そう……実は、この服。

 前後には、それなりの防御()が施されているが、大胆にも、左右(側面)は大きく露出しているのだ。

 つまり、横から見れば、彼女の身体のほとんどが丸見え状態。

 痴女とも取れる彼女を前に、アランは慌てて両手で完全に目を隠し、リュウは目線を逸らしながらも、時々、チラリと彼女の姿を見ている。

 ローウェンは自ら目を瞑りながら、アンドレアスの両目を塞ぎ、ヒューマに至っては、感嘆の声を漏らしながらメラニーを無遠慮に見つめていた。

 ちなみにドモンの目は、アザミの大きな手で、しっかりと隠されていた。

 ロットは幼いが故なのか、不思議そうに彼女を見つめるだけ。

 ……どうか、そのまま大きくなってくれ。

 ちなみのちなみに、何故、側面がそんなにも露出しているのかと尋ねると……


「アタシも、まさか、こんな風になるなんて想像もしてなかったのよ? この布をくれた人だって、〝これで作れるから〟って……でも、布が足りなかったみたい」


(原因は、明らかに胸についている脂ぼ……)


 この時、何故か、〝それ以上は言ってはいけません〟というグレイの声が聞こえ、俺は思わず言葉を止めた。

 このままでは、まともに話も出来ないと、俺は制服の上着を脱いで彼女に差し出した。


「とりあえず、これでも羽織っておけ」


 身長差も体格差もある今では、全てを覆い隠すことは出来ないだろうが、肩にかけるだけでも少しはマシになるだろう。

 俺の差し出した上着を見てキョトリと目を丸くした彼女だったが、事態を飲み込むと、即座に上着を受け取った。

 上着を広げ、袖を通すかと思いきや。


 ──すぅぅぅぅぅぅう!


 あろう事か、上着に顔を(うず)めて、思いきり息を吸い始めた。

 まるで、俺の制服の匂いでも嗅いでいるかのように。


「…………、はぁ……っ! あぁ、間違いない。ワタシの大好きな匂い♡ あぁ、ライ様……♡」


 恍惚とした表情で、今度は上着に頬擦りし始めた。

 ……上着、貸さない方が良かっただろうか?


「……なぁ、ライ。お前、今すぐに逃げた方が良いぞ」


「そうですね……彼女の場合、例え逃げても地獄の底まで追いかけて来そうですが」


 ヒューマとローウェンの手が、俺の肩に置かれた。

 彼女の異常性に気付いたからこその反応だ。


「うふふ、流石は王子様に仕える執事さん。察しが良いわね」


「……どうも」


 当然だが、完全に警戒されている。


(ん? 何故、ローウェンがアンドレアス(王子)に仕えている執事だと、知っている……?)

 

 服装から判断したのか?

 いや……服だけでは、執事、しかも王族に仕えている身分だと分かりはしないだろう。

 それならば、一体、どうやって……


「あらあら? 何か言いたそうな表情(かお)ね、ライ様。ワタシ、何か不思議なことでも喋っちゃったかしらぁ?」


 彼女の目には、俺の全てが透けて見えているのではないかと思うほどにタイミング良く、そして的確に、俺の心を突いてきた。


「お前……いつから知っていた?」


 隅へ追い詰めるのように問いかけると、彼女はフフッとあくまで余裕そうに笑った。

 

()()()()、よ。……まだ、お気付きにならない?」


 揶揄うかのようにクスクスと笑う彼女のペースに乗せられまいと、睨むように彼女を見つめた。


「……何の事だ?」


「ワタシの可愛い小蜘蛛(こぐも)ちゃんの事よ。ずっと、貴方の側にいたのよ? ほら今も……貴方の右肩に」


 本当か嘘か判別し難い彼女の言葉に、俺は半信半疑で自分の右肩へと視線を向けた。

 ……いた。

 小さいため、よく目を凝らさなければ、はっきりと、その存在を見ることは出来ないが。

 彼女の本来の姿と瓜二つの小さな蜘蛛が、小馬鹿にしたように、器用に前足を振っていた。


「はぁい。ワタシの可愛い可愛い子蜘蛛ちゃん。こっちへ、いらっしゃい」


 メラニーが右手を俺の肩に近付けると、小さな蜘蛛はピョンと彼女の手に飛び移った。


「どう? ワタシ、まだまだ、役に立ちそうでしょう? だから……もし、貴方が()()()()って言う時は、いつでも言って頂戴♡」


 彼女の言葉に皆が首を傾げる中、今の言葉の真意が分かってしまった俺は嫌な汗を流した。

この度、今作は100話を迎える事が出来ました。

これも、今日まで、この作品に目を通して下さった読者様のお蔭です。

ありがとうございます!

これまでブクマに評価、そして感想にレビューをして下さった方も、本当にありがとうございます!

冷めやすい自分が、ここまで書き続けられたのは、最早、奇跡です。


当然ですが、この物語は、まだまだ続きます。

ここまできたら、彼らをエンディングまで導いてあげたい……っ!

未熟な作者ではありますが、どうか、これからも応援よろしくお願いします。

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