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かつて世界の破滅を願った魔王は転生世界で何を願う?  作者: 零珠音
特別クエスト『熱血王子を護衛せよ』 編
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96話_穏やかな時間

 透き通ったカーテンが地上へ向かって伸びているような日差し。

 室内から見ても暑いと分かる、その日差しに照らされた畑は、葉や実を潤す雫が反射して、やけに輝いて見えた。


「さぁ、準備が出来たよ。みんな、椅子に座りな」


 スパイシーな香りが鼻孔を掠め、一時期静まっていた腹の虫が再び鳴いた。


 あれから、一通り自己紹介を終えた俺達は、アザミの提案により、いつもより遅い昼食を彼女達と一緒に食べる事になった。

 初めは突然訪ねて来た身で昼食まで頂くのは申し訳ないと断っていたのだが、アザミの気迫に加え、ドモンの優しげな笑みから微かに漏れ出る威圧感に負け、大人しく彼らの厚意に甘える事にした。

 食卓の上は、サラダや野菜カレーで彩られており、忘れかけていた食欲を呼び起こすには、充分なご馳走だ。

 椅子に座ろうと背もたれに手を置いた時、アンドレアスが俺の腕を掴んだ。


「なぁ、ライ殿。1つ、伺いたい事があるのだが……」


「……何でしょうか?」


 何故か耳元で囁くように言葉を紡ぐ彼に少し……いや、かなり嫌な予感を覚えたが、無下に扱うわけにもいかず、一応、話を聞く姿勢を見せた。


「あの、野菜盛られた茶色の物体は何だ? 食べ物……だよな?」


「……は?」


 こんな時に、この王子は、何の冗談を言っているのかと、思わず訝しむような表情で彼を見つめてしまった。

 しかし、彼が冗談を言っているわけでは無いと分かったのは、それから数秒後。


「スープ……では無いな。しかし、これは……む、この刺激的な香りは、香辛料か?」


「……………………」


 こんな言葉をボソボソと呟かれたら、もう冗談という域では収められない。

 王族が普段、どのようなものを口にしているかは知らないが、まさかカレーを知らなかったとは……


「あれは、カレーという名前の(れっき)とした食べ物ですよ」


「か……れぇ?」


 言葉を発せられるようになったばかりの幼子のような発音が気になるが、間違ってはいないため肯定するように頷いた。


「かれぇ……かれぇ……なるほど! これが、()()()か!」


 世紀の大発見だとばかりに目を輝かせた彼は、嬉々とした表情で椅子に腰を下ろした。

 そんな予想外な驚きがありながらも、全員が椅子に座ると、アザミは勢いよく手を合わせた。


「それじゃあ今日も、自然の恵みに感謝して……いただきます!」


 アザミの号令を筆頭に、各々が食事前の挨拶を済ませると、手に取ったスプーンやフォークを使って料理を口へと運んだ。

 先ほどの事もあり、アンドレアスが気になった俺はサラダを口に含ませながら、本人に気付かれないように彼を見た。

 彼は、周囲を観察するように視線を泳がせた後、スプーンを手に取った。

 一口分のカレーを掬い取ると、恐る恐るといった様子でスプーンを口の中へと押し込んだ。

 その瞬間、彼は大袈裟なほどに目を見開いてモゴモゴと口を忙しなく動かした。

 そして、スプーンを口から離すと、彼は満足感に満ちた吐息を漏らした。


「……っ、これは美味い!!」


 感動したような声まで漏らした彼に、アザミは照れたように微笑んだ。


「本当かい? まだまた沢山あるから、おかわりが欲しい時は言っとくれ」


「うむ!」


 躊躇いも無く頷いたアンドレアスを(たしな)めるように、ローウェンは彼の名を呼んだ。


「王子……突然、押しかけて来た(わたくし)達の話を聞いて頂いた上に、食事まで提供して頂いているんです。厚意に甘えてばかりいるのではなく、少しは遠慮して下さい」


「う、うむ……」


 ローウェンの言葉に、アンドレアスは叱られた子どものように縮こまってしまった。

 そんな彼らを見て、アザミは盛大に笑った。


「そんな細かい事を気にしていたら禿げちまうよ、ローウェンさん! それに、王子様は今、育ち盛りだろう? 今のうちに沢山食べて栄養つけておかないと……アタシみたいに大きくなれないよ!!」


(アザミのように……大きく……?)


 俺の脳内に、極端に筋肉質なアンドレアスが現れたが……吐き気を催したため、即、打ち消した。


 時に誰かが笑い、怒り、また笑い……そんな平和な時間が流れる中、ロットだけはクスリとも笑うこと無く、黙々とレタスを頬張っていた。

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