90話_銃声に導かれし者達
※8/10:本編内容の変更のアナウンスを、うっかり忘れてしまい、この度、最新話を読んで頂いた方を困惑させてしまいました。大変、申し訳御座いませんでした。今更で申し訳ありませんが、下記にて改めてアナウンスさせて頂きます。
※8/9に、今後の展開の都合により前話の89話の後半部分を大きく変更しました。
※今回は、少し短いです。
突如、響いた銃声音の余韻が、さざ波のように広がっていく。
今の一瞬で、別世界にでも迷い込んでしまったかのような奇妙な感覚に襲われた。
1発の銃声が聞こえて以来、縄張り花は時が止まったかのように硬直したままピクリとも動かない。
この短時間の間に色々とありすぎて、一体、何が起こっているのかすら把握出来ないが、少なくとも、あの銃声音を響かせた〝誰か〟が、縄張り花の動きを止めてくれたのは、確かだ。
(俺達を助けてくれた……と、いう事で良いんだよな? ならば敵では、無い……?)
色々と疑問は尽きないが、今が拘束から抜け出す絶好のチャンスだ。
俺は、最早、拘束というよりも、ただ添えられているだけの蔓を解き、花の様子を伺いながら、ゆっくりと降下した。
足が地面に着くと、アラン達が駆け寄ってきた。
「大丈夫?! 怪我してない?!」
ペタペタと俺の身体を触りながら問いかけるアランに、思わずフッと笑みが零れた。
「大丈夫だ、怪我はしてない」
流石に、喰われると思った時は、もう駄目かと思ったが……
「でも、先ほどの銃声……一体、誰が……」
やはり、ローウェンも、あの銃声が気になるらしい。
改めて振り返ると、銃声の正体どころか、縄張り花も、ここへ来たばかりの俺達を魅了した花畑の姿へと戻っていた。
ひとまず、危機は去った……という事で良いのだろうか?
「……今のうちに進みましょう」
ローウェンの言葉に全員が頷くと、村へと続く一直線の道を歩み始めた。
あんな事があった後とは思えないほどに、柔らかな追い風が吹いている。
まるで、村へと向かう俺達の背中を押してくれているかのように。
アンドレアス、ローウェン、ヒューマ、アラン。
先へ行く彼らの背中を見つめ、俺は、もう一度だけ振り返った。
風に振られた花々、その周辺を漂う虫達。
もう、あの狂気染みたような空間は、どこにも無い。
あの銃声が無ければ、俺は抗う術も思いつかないまま、縄張り花の餌食になっていたかも知れない。
顔も名前も分からない、あの銃声を響かせた〝誰が〟に感謝の意を込めて小さく頭を下げ、少しだけ小さくなった彼らの背中を駆け足で追いかけた。
そんな俺の姿を、気難しい表情でリンは見ていた。
「あの銃声……もしかして……」
確信と疑惑の間で揺れる不安定な彼女の声は誰の耳にも届かず、穏やかさを取り戻した空気に溶けて消えた。
歩いて、数分ほど経った頃だろうか。先の方に、家や畑が見えてきた。
「お! 村が見えてきたぞ。リン殿、あれが貴殿の住む村か?」
先頭を歩いていたアンドレアスがリンに問いかけると、彼女は大きくと頷いた。
「えぇ、そうです。あれこそ、私が生まれ育った……〝セイリュウ族の村〟です」
短い雑木林の道を抜け、村の入り口を示す木製の門を潜った瞬間、近くの民家から漂っているのであろう腹の虫が喜びそうな香りが鼻孔を通った。
その時、まだ昼飯を食べていなかった事を思い出してしまった俺達は、花の香りに誘惑された虫のように足が自然と、門から最も近い1軒の民家へ向けて前進していた。




