10話_新たな家族
※最後の方だけ、アラン視点になります。
「えーと……ライの、新しいお友達?」
さすがに、この状況を上手く打破する言い訳が思い付かなかった。
(もう、こうなったら話すしか無い。人喰いである事さえ話さなければ何とかなるはずだ……多分)
俺はスライムの事を話す為に緊急家族会議を開いた。
俺はマリアにスカーレットの事を話した。東の森で出会った普通のスライムである事。そして、ここ1週間、みんなには内緒で世話をしていた事を。
「……そう。森で仲良くなったスライムなのね」
「はい」
俺の話を一通り聞いた彼女は感情の汲み取れない表情でスカーレットを見つめていた。
「それじゃあ最近、予備のトマトの減りが早かったのは……」
「僕が、スライムの餌として持ち出していたからです……ごめんなさい」
頭を下げた俺の真似なのかスカーレットも伸ばした身体を前へ倒した。
彼女は、それから何も言わない。それが逆に恐ろしくて俺は未だに顔を上げられない。
「……ぃぃ」
「はい?」
ボソリと呟かれた言葉を聞き逃し、俺は思わず顔を上げた。
彼女の視線は俺ではなく、スカーレットに向いていた。
「この子、すっごく可愛いわぁ♡」
「……え?」
「ライったら、もっと早く言ってくれれば良かったのに」
早速、スカーレットを抱きしめて感触を楽しんでいた。スカーレットも満更では無さそうだ。
そんな彼女の姿を見て、俺は一体何を悩んでいたのだろうと過去の自分に問いかける。
「この子、名前はあるのかしら?」
「はい……スカーレット、です」
「……スカーレット」
名前を口ずさみ、考える仕草を見せたが、何かを思い付いたのかパッと表情を明るくさせた。
「それじゃあ、スーちゃんね!」
何が〝それじゃあ〟なのか分からないが、楽しそうなので何も言わない。
すぐに受け入れてくれたのは予想外だったが、下手に揉めるよりは全然いい。
「……そういえば母さん、僕に何か用事があったのでは?」
「あ、そうだった! 今日の夕飯の事で相談したかったの。何か食べたい物はある?」
問いを聞くなり、真っ先に主張したのはスカーレットだった。
主張方法は至ってシンプル。身体から触手を伸ばして彼女の服を引っ張る、それだけ。
「あら、スーちゃん。何か、食べたい物があるの?」
そう聞くと、スカーレットは台所へと姿を消した。
(まさか……)
スカーレットの行動に首を傾げたマリアだったが、俺はすぐにスカーレットを追った。
数個のトマトを持ったスカーレットを見つけ、俺の予想が的中したと、思わず頭を抱えた。
(今日、既にトマトを何個か食べたというのに、まだ食い足りないと言うのか……?)
スライムという生き物として当然なのか、それともスカーレットの食欲が異常なのか。日に日に増していく食欲に俺の胃がキリキリと悲鳴をあげていた。
遅れてやって来た彼女はトマトを高く掲げるスカーレットを見て目を丸くする。
「スーちゃんはトマトが好きなの?」
「……そうみたいです」
脱力する俺とは裏腹にマリアは何故か嬉しそうな表情を浮かべている。
「それなら今日の夕飯はスーちゃんの好きなトマトを使ってスープを作りましょうか。新しい家族が増えた記念日だものね」
その言葉に感極まったのかスカーレットは器用にトマトでお手玉をし始めた。
マリアはスカーレットのお蔭で夕飯のメニューが決まったと感謝を述べて撫でるとスカーレットはお手玉を止め、持っていたトマトを差し出した。
「まぁ、良い子ね!」
トマトを受け取った彼女は、ますます上機嫌。
「僕も手伝います」
「あら、ありがとう」
スカーレットがいるからなのか今日の夕食は、いつもより賑やかだった。
明日は、アランにもスカーレットを紹介しよう。
(アイツのことだ。きっと、驚くだろう)
アランの驚いた顔を想像したら、思わず口元が緩んでしまった。フフッとマリアが微笑ましそうに笑う声が聞こえ、緩めていた口元を慌てて引き締めた。
◇
前世では考えられないような穏やかな空間がライの家で流れる中。
同時刻、同じ村にあるアランの家では、穏やかとは言い難い空気が流れていた。
「母さん、嘘だよね……?」
母の言葉が信じられず、アランは思わず聞き返した。
「アラン、貴方の気持ちは痛いほど分かる……だけど、こればっかりはどうしようも無いの。ごめんなさい」
頭を下げる母に、アランは口を閉ざした。
「まだ時間はあるわ。だから今の内に、ライ君との思い出を沢山作っておきなさい」
ライの知らないところで、別れの足音が少しずつ近付いて来ていた。
次回、《双子の占い師 編》突入