番外編 大晦日から新年へ
こんばんはおはようございます。こんちには
よいお年をおすごしでしょうか?
もうすぐ新年を迎えます。あるいは迎えたでしょうか。
今回は大晦日、そして正月を迎えるということで俺と私のアカシックレコード番外、大晦日から新年へを送ります。
彼らがどんな大晦日を過ごしたのか。という物語です。
「大晦日って学校何か行事あるの?」
12月31日の朝。
そのカオルの一言で話題は始まった。
「いや大晦日はとくにないからゆっくり過ごせるぞ」
「でも結局学校にいるよね俺達」
「私達は今年、こっちで年を越すってことになったわよ」
冬休みだからか生徒はほとんどいない。
静かだ。
「私達ってことは」
「三珠もシャルルもリセリスも一緒ね」
「へぇ~」
俺の言葉にパトリシアは言った。
「でね、いくつか気になる話があるのよ。」
パトリシアが言った時だ。
「やー、みんな何してるの~?」
「お邪魔するわね」
「学校寒いわねぇ…ぁぁああったかいわぁ」
と三人、シャルル、三珠、リセリスが教室にやってきた。
学校にも暖房のヒーターというかストーブなのだが旧型で、お餅が焼けるほど古い。とっくに幻想に消えたと思っていたストーブだ。
「うわぉ壮観だな魔女王候補揃うと。パトリシアが呼んだのか?」
俺の呟きに魔女王候補達は顔を見合わせ頷いた。
いわく、彼女達はまだ帰らない理由があるらしく暇らしい。なのでこうして学校に足を運んでは遊んでるのだとか。まぁ部活動も大晦日近くと当日と正月は休みだ。
「この学校って逢魔を越えるとお化け屋敷になるじゃない?」
「ああ、そうだな文字通りのお化け屋敷だな」
霊峰の言葉に俺は頷く。
「大晦日ってそういうのってどうなるのかなって思って三人で調べてたのよ」
「へぇ、なるほど」
「大晦日って年が変わる前だもんね。やっぱり強くなるのかな?」とカオル。
「強くなるだろうな」
「学校の怪談!って言うんだよね!ボクたち一応図書室で調べてみたんだよ!でさでさー最近どんな怪談あるのかなってなったんだよ」
「ああ、図書室今日あいてるのか」
俺は先輩である遠近千咲が無言で委員をやる姿を想像した。
俺はスマホを取り出した。
「スマホ?」とパトリシア。
「学校の壁新聞部がそういうの調べるために生徒なら誰でも入れるようなサイトを作って情報集めてるんだよ。非公式だけど」
サイトって言葉に異世界の四人は首を傾げる。とりあえず説明した。
なるほどとみんなは理解し話は戻る。
「それはいいのぉ?」
リセリスは首を傾げる。
「良くはないんだけど、生徒の安全と最低限の回避のためってことで見逃してるんだっけ?」
カオルの言葉に俺は頷く。
「あと単純に面白い話も多いから、っと。これだ。最終更新日は四日前か。じゃあ読んでくぞ」
「ああ待って!私が読みたいわ!」
とパトリシアが言ってパトリシアにスマホを渡す。
「じゃあ読むわね。中等部のトイレにハーモニカを探してる女の子がいたって」
「「「「「ハーモニカ…?」」」」」
俺とパトリシア以外の五人が復唱した。
「なんだったけな?なんかトイレの一番奥でハーモニカを吹くと来るってあれだったかな?名前忘れたわ」
「これは最後どうなるの?」とカオル。
「たしか…」
「あ、わかった!言わなくていい!やばいのだよね!」
まあたしかにやばいのだな。
「次行くわね。服裾を引っ張られるけど振り返っても誰もいない」
「「「「「こわっ」」」」」
俺とパトリシア以外のみんなが言った。
「これ龍太は知ってるの?」とシャルル。
「多分袖引き小僧ってやつだったかな。害はないな」
みんなはほっとする。
「次行くわ。甘酒はござらんかって変なお婆ちゃんがやってきたって天文部の書き込み」
「「「「「甘酒…?」」」」」
俺とパトリシア以外の五人が言う。
「これはなによぉ」とリセリス。
「甘酒婆。玄関や入り口で甘酒がないかって聞いてくる怪談。ないって言うと次の日39度の高熱になるから注意だな…」
「わぁ~ひっかけだ!」とカオル。
と余語が手を挙げた。
「あるって言ったらどうなるのさ龍太」
「次の日39度の高熱になる」
「「「「「「……」」」」」」
俺以外の全員が何とも言えない顔をした。パトリシアが呟く。
「なによその理不尽二択。というか天文部間違いなく引っ掛かったでしょそれ」
「わりとギリギリまで学校にいるからなあそこ」
「でも、ギリギリじゃなくても大晦日が近いから夕方じゃなくても出てきてるってことだよね?」とカオル。
「まぁそうなるな。だからこの学校冬休み早いんだな…今知ったわ」
「次行くわね。階段に立ってる人影。見てると貧血に」
「「「「「貧血に…?」」」」」
俺とパトリシア以外の五人が言った。
「なんで貧血?」とリセリス。
「のびあがりだったかな?。見なきゃいいんだよあれは」
「「「「「「多分気になって無理」」」」」」
と俺以外のみんなが声を揃えて言った。
「じゃあ次行くわね。夜中にグラウンドでゴリラが踊ってた」
「「「「「「グラウンドでゴリラ…?」」」」」」
パトリシア以外みんなが復唱した。
「って、え!?龍太も知らないの?」
「ああ、今のは初耳だ」
「へぇ、ならゴリラは酔っぱらいのオッサンかなんかじゃないの?」
と霊峰は言った。
「まぁかもしれないな」と苦笑した。
「まぁでも結構由緒あるやつだったり質が悪いのも割りと多いんだな。大晦日は中でも正月だし暦が変わるから神聖なやつから胡散臭いのも聞くよな」
「神聖なって、初詣よね?胡散臭いってなに?」とパトリシア。
「神に贄を捧げる日だったりとかかな」
「「「「「「にえ?」」」」」」
「生け贄のことだよ」
俺が言うとカオルと余語はピンと来なかったらしい。
異世界出身の四人は納得する答えだったようだ。
「そんなことあるの?」とカオルは不思議そうに言う。三珠はうーんと唸り口を開く。
「カオルは聞いたことない?白羽の矢が突き立てられた家の娘は神に選ばれた生け贄である。差し出さなければ村に祟りがくる、みたいな?」
「絵本であるようなないような。…それ大晦日の話だったけ?」
「いろいろね。そういう話もゼロじゃないってこと。昔は私達もそういうのあったわね」
と霊峰は呟く。
「ずいぶん勝手なんだね神って」
カオルの言葉と表情からは複雑な顔が隠れていた。
「まぁ神っても良いも悪いも持ってくるから色々あるんだろうな」
とガラガラと引き戸が空けられた。
「ああ、やっぱりいた!こんちは~」
と神崎紗奈がやってきた。
みんな口々に挨拶を交わす。
「おー、なぜここにいる。そもそもまだ冬休みだぞ」
「暇だったから学校来てたの。こーくんも新年に向けて大変そうだったし。で、なんか騒がしかったから来てみたら」
「俺らがいた、ってやつだな」
「うん。仕事もあたしはこの時期はないし」
と紗奈はふと思い出したように顔を上げた。
「そうだ。ねぇ教室の扉の上にある矢ってなに?どうしたの?」
俺達みんな顔を見合わせる。カオルが言う
「わたし達、矢なんて飾ってないよ?」
「え?そうなの?でも白い羽がある矢が」
今度は紗奈がきょとんとした。
「とりあえず百聞はなんとかだな」
俺は席を立ち上がり教室の外に出る。
「さむっ…」
引き戸の上を見るとたしかにあった。
白い羽がついた矢が。
教室に戻り、みんなが集まる。
「わ!ほんとに矢だよ矢!あ!手紙ついてる!誰宛だろう!」
「弓道部かな?もしかしてラブレター!?」
「二人してバカを言わないの」
パトリシアは息を吐く。
「たしかにラブレターはないだろうな。まあ どうも生け贄の話をした直後というのが気味が悪いな」
俺の言葉に紗奈は首を傾げる。
「とりあえず読んでみるか」
矢に巻いてある和紙を広げる。俺は固まった。
シャルルが言ってきた。
「なんて書いてるの?」
「読めん」
「こういうの詳しいのに読めないの龍太。勉強しなさいよ」
パトリシアに言われてしまった。 いやだってあまりに古い文字だし。翻訳石を首にかけてる四人に読んでもらうか。その四人とは異世界出身の四人のことだ。
と思っていたらリセリスが俺が持っていた紙を覗き混んできた。
「読める?」
「お前の娘を預かった。返して欲しければスイス銀行に八百万ペソを指定口座に振り」
「リセリス、そういうのはいいから」
とパトリシア。
「パトはノリが悪いわねぇ。要約だけするわぁ。
生け贄を神に差し出せ。刻限は大晦の4。ってあるわぁ」
「は? 」と俺。
「大晦の4って?」とカオル。
「つまり今夜の22時だ。場所は?」
「校庭みたい」
一同は絶句。
「ほんとにきたわ…生け贄」とパトリシア。
「ええ、でも急だなぁ」と余語。
「言うこと聞く必要ないよ。そんなの…。ね、龍太くん?」
「え?ああ、まぁそうだな」
反応は様々だ。
異世界出身の四人は神妙な表情だった。
俺は四人に目を向ける。
お前らは反対はしないのか?と目で問いかけてしまった。
シャルルが言いにくそうに話してくれた。
「昔はボクたちの世界もさ。なんかそういう祀り事で生け贄とか…やってたんだよ。でも四か国が協定を結んで共通の敵を倒すために生け贄は共に戦う仲間を失うってわかって違法ということで禁止にしたんだ。だからボクたちは反対だよもちろん」
それはわかってほしいというように四人は俺を見た。
「わかった」
一方
「…ってか。別に焦ることある?馬鹿みたいに従う道理はないでしょ」
紗奈はあっけらかんとしていた。
「そう?なの?」とパトリシア。
「そもそも生け贄って『打ち破られるべき風習』でしょ。保持される因習じゃないじゃん。反抗してなんぼじゃないの?ってかあたしが気になるのはさ」
みんなは、ポカーンとした。
打ち破られるべき風習ってどこの言語だよ、まさか文字通り拳で打ち破る気かよなんて思ってしまった。
まあだが嫌いじゃない。
紗奈らしいと思う。
紗奈は言葉を続けた。
「いったい誰をご指名してんのってこと」
みんなは
「ああ、たしかに」ってなった。
「じゃあ清らかな女ってのが条件だろうからパトリシアとリセリスと俺と志郎は除外だな」
「異議があるわぁ!私!清らかよ! !」
「サキュバスのどこに清らかなって文があるんだ?!」
「う、たしかに…」
「なら私も異議があり!なんで除外なのよ!」
「黒魔術に手を出してる時点で女としては良くても性質上論外なんだよ!」
「おぅふ」
「ちょっと龍太、俺は?」
「テメーは男!。論外以前だろうが!?」
「じゃあ龍太くんも?」
「当たり前だ!」
俺はふぅ、と息を吐く。
「ってことで4択だ」
「わたしか三珠ちゃんかシャルルちゃんか紗奈ちゃん?」
俺は頷く。
「可能性的にはカオルか三珠かなって思ったんだよ。カオルは魔法使い的にもだし三珠は巫女だしな。だけど二人ともめちゃ強すぎるから正直違う気がするんだよな」
「そう?」
「正直、そこまで強いなんて、うーん、まぁありがと」
「で、あたしかシャルル?」
「シャルルは人ってか、でもやっぱり何かの種族なんだよな?」
「うん、ボクは海棲種。セイレーンなんだよ。少なくとも人っていう種族じゃないかな?。でもたしかに強さだけみたら、魔女王候補の中では一番弱いかなぁ」
「うーん、そうか。そんな弱くはないような…って考えると紗奈しかいないんだが」
「あたしか。人だしね。地球人だしね。ええ?でもあたし?あたしだよ?実はカオルちゃんって可能性も」
俺はなんとなくだが矢をクルクル回してみた。
しかしピタリと止まった。その矢先には紗奈だった。
「うそやん」
「まぁ納得の配役か…思えば地球で起こるんだからこういうの名指し系は地球人に狙いは定まるか。始めから二択だったかもな」
「かもね。ってことで紗奈ちゃんを守ろう作戦、参加する人!」
カオルは手を挙げた。
「まぁアイドルの生歌聞けなくなったら嫌だしな」と俺は手を挙げる。
「広報活動は神崎さんしかできないしね」と余語も手を挙げる。
「生け贄なんてやる神を引きずり降ろすいい機会だしね」とパトリシアは手を挙げる。
「パトは素直じゃないわねぇ」とリセリスも手を挙げる。
「大丈夫、ボクたちがいるよ!」とシャルルが手を挙げる。
「東の国の代表巫女としてあなたを守るわよ」と霊峰も手を挙げる。
「待て!その作戦!俺も混ぜてくれ!」
と葉山が戸を開けながら手を挙げてやってきた。
かくして全員の手が挙がり
「えーと、とりあえず、応援ありがとうって言った方がいいのかな?」
紗奈は苦笑したのだった。
~~~
「とりあえず来てみたがこれは不思議だな」
夜21時半、俺達は学校にやってきた。
「校舎に入るとグラウンドにこんな大道具があるなんてね」
と霊峰は言った。
グラウンドには四ヶ所に設置されたキャンプファイアと真ん中には人が一人入れそうな木の箱があった。
しかもこれ校舎の外にいるとわからないのだ。だから不思議だ。
「なぁ巫凪、わざわざ紗奈をほんとにあの中に入れる必要はないんじゃないか?」
葉山は紗奈の身を案じているんだろう。あの箱に入れたくもないはずだ。
「葉山の言葉は最もだな。でもその場合祟りとかいう物理的な災いが来そうだから本人にはあえて入ってもらうんだ」
「つまり犯人が確実に出てくるシチュエーションを準備するんだね龍太」
余語の言葉に俺は頷く。
「あぁ。出てきたところに鉛弾をくれてやるんだ。なんにせよ火の気があるのは助かる。あんま寒くないし」
カオル、霊峰、シャルル、リセリスは紗奈の緊張をほぐすためにずっと雑談している。いや多分緊張云々よりは元から喋りたいだけだろう。
だがパトリシアは終始無言だった。
「どうした?」
「龍太」
「うん?どうしたよ?ずっと無言で」
「なにか覚えがあるのよね」
「覚え?」
「この状況によ」
「いつだ?」
「二十年前よ」
「へぇ…」
パトリシアは再びグラウンドに設置されたのを見た。
過去に何かパトリシアはしているのかな?と考えたが時間がないからあとでもいいか。
「時間が迫ってるから紗奈」
「…ほんとに助けてくれんでしょうね?」
ぶつぶつ言いながら木の箱に向かっていく。
俺はみんなに向き直る。
「敵が出てきた場合、まず救助を優先にしてくれ。カオル、志郎、準備は」
「いつでも」
「任せてくれよ」
「葉山、リセリス」
「あぁ、大丈夫だ」
「はぃは~い。結界の準備も万端よ」
「パトリシア、三珠、シャルル」
「いいわよ」
「どうぞ」
「うん」
「よし、なら配置に着いてくれ」
俺達は茂みに隠れグラウンドを見る。
時間は22時になった。
「ちなみにこれ、作戦名とかあるのか?」
葉山の問に
「じゃあ…ゆくとしくる年作戦で」
という俺の作戦に葉山は「了解」と言った。
いいのかよ適当だぞ?。まぁ、いいか。
あ、とみんなの言葉が重なった。
空間が滲み割れた。
ドスッという着地音が複数。
「…猿、か??神じゃないのか」
葉山の言葉に俺は首を横に振る。
「神って名前を騙った怪物だ。知恵が回り小賢しい怪談だ。神って名乗ればほんとに生け贄をくれると思ってるんだよ」
しかしあれだな。あの猿。数が多いな。その数七体。
やたらでかいし。キングミニコングかよ。
現れた猿は動物特有の声を鳴きながらも意思というものが感じられた。
「って龍太くん!もう助けていいよね!?」
「ん、ああ、了解。いいぞ。ってかいくぞ」
カオルはそれを聞くと杖を光剣に変えて頷き、一気に地を蹴る。
自分より体格のでかい猿に向かって剣を振りかぶる。
猿がそれを気付いた時には既に身体が十字に斬られたあとだった。要するにカオルの攻撃はめちゃくちゃ速かった。
二体の猿は音もなく倒れる。
「速いな…」
葉山が驚きの声を漏らす。
「紗奈ちゃん!大丈夫!?」
カオルはすぐに木箱を開け紗奈を抱える。
「うぇっ!?カオルちゃん!?大丈夫だけどって猿?!でかっ!?」
「説明はあと!リセリスちゃん!」
「わかってるわよぅ。早くこっちに」
カオルは素早く紗奈をリセリスの側に送る。
その間にも空間の割れ目からは猿がたくさん出てくる。
「おい、リセリス結界は?」
「できてるわよぉ。ここから先あいつらは簡単には通れないわぁ」
見ると大きな丸い円に紫の霞が見えた。
一頭の猿が斧を投げてリセリスと紗奈に迫る。
だがジュワァ…という異音と一緒に斧が消えた。
「溶解液とかやばい毒ね」
霊峰がひきつった顔をした。
「だから絶対安全なのよお」
「ふぅん?」
霊峰は木刀と大幣を構え猿を吹き飛ばす。
その光景の中でもカオルの動きは目立っていた。
鬼神のような乱舞で一頭また一頭と切り伏せていく。
剣の軌跡まで見えるくらい鋭く速く重さのある剣撃だとわかる。
「けど猿が弱すぎる気がするな…」
「それは納得ね。数が多いだけって感じしかしないわ」
パトリシアも同じ感想だったようだ。
すると空間の割れ目から猿の出現が途絶えた。
30秒が経った。
「え?終わり?」
紗奈の言葉はみんなに同調した。
「ボクの出番全くなかったよ」
「いや、俺なんか立ってるだけだったぞ」
シャルルと葉山が言う。
それを言うなら余語もパトリシアも俺も立ってるだけだったな。
「もう少し手応えがあるんじゃって思ったが終わりなのか。まぁよかった」
空間の割れ目もゆっくりと閉じていく。
「生憎ソウ簡単ニハ終ワラナイ」
突然響いた声。俺たちは反射的に振り返った。
再び空間に大きな割れ目が出来た。
ゆっくりと降りてきたのはでかい猿だった。
「さっきよりも大きい…」
カオルの言葉に俺は頷く。
「それだけじゃない」
さっきの猿にはない大きな一本角、紅い染まる体毛、左右の瞳は閃光が迸っている。
しかも言葉をこなしている。威圧感を感じた。
つまりかなり特別な立ち位置にいる猿だ。いやもうゴリラだ。
「こいつボスだな」
ゴリラは再び口を開く。
「愚カシイ。我ラニ、我ニ逆ラウトハ」
俺たちは身構える。
「ココデ果テルガイイ!」
スーっと息を吸い、ゴリラは咆哮をあげた。
「ゴァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
空気が揺れる。聴覚が壊れるかと思った。
再び複数の猿が現れる。
しかも数がさっきよりも多い。
一匹一匹は弱い。だがあの数は厄介だ。長期戦にならないように戦い、勝つ。
「いくぞ!」
「うん!」
俺の言葉にカオルは頷く。
カオルは地を蹴り剣で猿達を切り伏せていく。
「龍太くん!」
活路を開いたチャンスをカオルは作った。なら俺も!
拳に重力を最大限乗せボス猿に打ち込む。これは当たりだと思った。
ボス猿は身体を反転し裏拳を繰り出してきた。
裏拳と俺の拳がぶつかり合った。
重いっ!
重力で威力や重さを上げているのにここまで違うのか。と思った瞬間俺の身体は裏拳の拳圧で吹き飛ばされた。
威力を殺せないでいるとカオルが横に入って俺を受け止めてくれた。
「だ、大丈夫?」
「ああ、ありがとう。けど今のは不意討ちだったんだがな…なんでだ」
だが考えてる余裕はあまりなかった。
「良イ力ダ。ダガ我ニ、神ヲ甘ンジタ罪、シカトソノ身デ受ケヨ!」
グフグフグフと笑い、更に猿の群れが現れる。
その数14体。
迫る群れ。迫る地響き。
狂喜乱舞する猿の群れ。
その状況にみんなが身体を強張らせた。
俺達は何もできないのか…!と感じた時だ。
真っ赤な巨大な火炎放射が全ての猿達を焼き払ったのだ。
「な?!え、炎?」
「すごい威力だよ」
「でも炎って言ったら…」
おろおろする一同。
だが一人、事態を把握していた奴がいた。
「己!!マタ貴様カ!天魔ノ小娘!」
そう、ボス猿である。
天魔の小娘って言ったら、この場に天魔種なんて一人しかいない。
俺たちはパトリシアを見た。
パトリシアは今までずっと考えるように傍観していた。
彼女は俺たちを守るように立った。
「…またって私の台詞なんだけど?」
紅蓮を纏いボス猿と対峙する。
「前も同じことしてたわよね?懲りないわね。正直私、飽きてるわよ?さっさと終わらせましょうか猿」
「黙レ!此度、此度コソ!負ケハセヌ!」
前?此度? 飽きた?。
みんな状況が読めずにいるがパトリシアと猿との会話は続く。
「なんで復活したのよ。あと千年は死んでるわよね?猿」
「我モソウ思ッテイタ。シカシ!、数日前、紅ク光ル花ガ我ヲ、ココヘ呼ビ起コシタ」
「…あ~そう。わかったわ。余波かなんかで蘇ったのね」
パトリシアはため息を吐いた。静かに言った。
「まぁいいわ。出たからには倒すだけよ」
「我ノ台詞ヨ!!アノ目障リナ小娘ヲ叩き潰セ!」
言った瞬間、パトリシアの周りに猿が取り囲んだ。
猿達はパトリシアに拳を振り下ろすもその拳は届く前に猿は倒れ伏す。
よく見ると猿が焼きごてのような状態になっていた。
「甘いわよ。不意討ちは効かないってことくらい前回ので覚えなさい」
この寒い場所で、高密度の高温の炎を操れるパトリシア。
思わずみんなはすげぇ…と息を飲む。
「さ、始めましょうか猿」
パトリシアは不敵に笑う。
「それとも、終わらせましょうかって言ったほうがいいかしら?」
炎を纏い、キラキラと火の粉を踊らせる。
パトリシアはそれらを腕に集め、真っ赤な炎の紅い槍を放つ。
「同感ダ!!」
ボス猿も負けてなく炎の槍を左腕受け止め、空いた右腕は背中に指したばかでかい斧を持ち、振り抜く。
パトリシアの髪を掠めかわした。
「パトがでばって来たから私達蚊帳の外ねぇ。あとは任せて帰るぅ?」
開き直り気味のリセリスの言葉に葉山が口を挟んだ。
「俺達の相手もきちんと用意しているようだぞ」
ぞろぞろと猿の群れが現れていた。
「直接、生け贄を取りにくるみたいだよ!」
「出鼻挫かれた気分だけど出番ね。シャルル」
「はいよ~!」
霊峰とシャルルは猿の群れに突っ込んでいった。
「俺達も」
「うん」
「龍太、俺もいくよ」
「わかった!いくぞみんな!」
今年最後の戦いが始まった。
俺の拳で吹き飛ばしカオルはどんどん猿を切り伏せていく。余語は的確に猿の頭を撃ち抜いていく。
葉山は魔法で作ったチェーンソーで倒していく。
霊峰は木刀と大幣で圧倒しシャルルは水を使い倒している。
リセリスは近づいてきた猿にふっと何かを吐き倒していた。
「リセリス、毒針?」
「便利なのよねぇ。あ、お茶飲む?」
「え?あ、うん。飲む…」
リセリスと紗奈は気楽そうだなぁと思ってると
「龍太くん!!パトリシアちゃん!受け止めて!!!!」
カオルの叫び声が聞こえた。
俺は身体が反応し飛んできたパトリシアを受けとめた。
「っっっっぅぅぅ…。龍太助かったわ。大丈夫?」
「大丈夫って…いやそれ俺が大丈夫かと聞きたいんだが」
「大したことはないわよ。…うーん…」
「???」
「何か変なの。手加減してるわけじゃないし。正直あのとき確実に倒したと思ったんだけど?」
「アノトキハナ。二人ガカリダッタカラナ。後レヲ取ッタ」
「なにその言い訳。だいたい数ならそっちのが多かったじゃない。ああ龍太。気にしないでいいわよ。こいつ強いわけじゃないから。しつこいだけ」
その言葉にボス猿はグフグフと笑う。
「言ッタデアロウ。何度デモ甦ルト」
「アイ・さる・リターンなわけか。猿だけに」
俺の言葉にパトリシアに一瞬苛つきが浮かんだ気がした。
「龍太くん!パトリシアちゃん大丈夫?」
カオルが駆けつけてくれた。余語も来てくれた。
カオルはボス猿を見据えた。
「ナァ小娘ヨ。如何程ナルダロウナ。コノ因縁」
「知らないわ。思い出したくないわ。というか一回だけでしょ」
「言われてもわかるモンキーか。猿だけに」
パトリシアはじろりと俺を見る。
「幾度貴様ニ倒サレテキタ怨ミ、ドレ程カ、貴様にはワカルマイ」
「そうね、知らないわ。興味ないし。そもそも一回だけだし」
「金額にして五リラくらいかな?」
パトリシアは片目をひきつらせた。
「シカシ、此度コソ我ノ勝利!。見ルガイイ。ソノ無様。我ヲ討テルカ?」
「討てるわよ…!」
「おら討ーたん。猿だけに」
「このっ龍太!!!」
パトリシアがついに俺に組かかってきた。
「あああパトリシアちゃんってば!落ち着いて!」
というカオルはよく見たら笑顔だった。その肩は小刻みに震えていたりする。
余語はどうしようかと悩む顔だったが何か楽しそうだった。
「ちょっと!!そこ!ちゃんと戦って!!」
霊峰から声が聞こえた。
「あいあーい」
ドォン!!!!と俺の真横を炎が通過していった。
「龍太ァァァァァ?!」
「わかった、わかった。悪かった悪かった。でもこれがある意味ほんとのマンドリ―…あー…わかったって。ちゃんとやります」
また炎投げられそうになったので俺は口を閉じる。
いいギャグだったと思うんだが。
パトリシアはそんな俺達を見て呟いた。
「楽しそうねあなた達」
「…まぁあんまりピリピリするよりはいいだろ」
俺の言葉にパトリシアは俺の顔を見た。
「余語ー!桜ー!手貸してくれー!」
葉山の声が聞こえカオルと余語はすぐに駆ける。
「…あの猿、群れる猿って概念がそのまま出てきた存在なのよ。頭がいる限りずっと出てくるわ。弱いけど厄介なのよ」
「だが勝ってるんだろ一度」
「えぇ」
「ならなんでだ?」
ボス猿の背後に鎌を持った傀儡が現れ、振りかぶる。完全に死角。当たりだ。
ボス猿はひょいと避けてその傀儡を破壊した。
バチッとパトリシアの右手が光った。どうやら傀儡を操る魔術を使っていたらしい。
「さっきからこんな調子。角が生えるくらいは気にしないけど、地味に力付けられるのはね」
角が生えるくらい?。
「……あー」
心当たりがある気がした。
「なによ?じっと私見て」
「いや、角だけか?」
「は?」
「他に変わったところ」
「…。笑い方とか、体毛とか違うわね。前あんなに赤くないし」
「なるほどな。いいかよく聞いてくれ。こいつには」
「猿という怪談全ての能力を併せ持ち、全ての能力を発揮できるんだ。―ソウ言タイノダナ?」
俺ははっと口を閉じた。
「あぁ、だがその猿の怪談には」
「人の心を読む力があるものもいる―ダロウ?」
「当たりだよ。その力を使えば」
「どんな攻撃も避けれるはず―ダナ?」
「ビンゴだよ」
俺は吐き捨てるように言った。それを聞いたボス猿はグフグフと笑う。
「なるほどね。最初から読まれてたのね。失態だわ。もしかしてそれも」
「花の影響なの?―然リ然リ!!!」
「あああなんか鬱陶しいわね!!!」
「さすがに反則がすぎるな…」
「観念セヨ。他ニ術ハナイ」
これが事実なら俺達の攻撃は当たらない。
どうする…?
ゴーン、ゴーンと鐘がなるおとがした。除夜の鐘か。
「あのさみんな」
「もういいよありがとうなんて言ったら張り倒すぞ」
紗奈の言葉を葉山は即座に返した。
「こ、こーくん…でもこのままじゃ」
「ああ、なかなか決め手はないし作戦も術もないだろうよ。でもな。
諦めないってことだけはできるんだ」
「…!?」
「だからちゃんとお前はそこにいろ。いいな紗奈」
葉山の言葉に紗奈は
「…わかった。ありがとう」
紗奈は頭を下げた。
こうなるともうやることは一つだ。
お互いが倒れるまでやるだけだ。
俺達は構えて決心した時だった。
空から何か来た。音がする。
「なに?馬の蹄の音?」
リセリスの言葉に俺達はたしかにとなる。
そしてその姿を捉えた。
真っ黒い馬に乗った、真っ黒い鬼だった。
鎧を着て背には黒い刀をさしている。
ちなみに驚いたのは主に馬である。
その馬には首がなかった。
俺の頭の中では、こいつは危険だと警笛が鳴っていた。
「新しい敵?こんな時に」
余語は狼狽えるが銃を構える。
みんなは構え臨戦態勢になるが
「全員あれと顔を合わせるな!視界に入れるな!!!」
俺は叫んでいた。
俺はカオルを抱きしめ顔を隠す。
パトリシアも俺の行動に何かを感じ取ったのか余語を引っ張って空へと退避する。
霊峰とシャルル、リセリス、葉山と紗奈も顔を背けた。
ちなみにここからは俺達の想像でしかない。
「愚カナ。鬼一人ナニヲ怯エル必要ガアル」
「…」
「何ダ?貴様、心ガ読メヌ」
そして、パコーン!!!という良い音がし馬の蹄の音が段々遠退いていく。
数分経つ。
「えっと、そろそろいいかな」
俺の言葉を合図にみんなはグラウンドを見渡すと猿は全て消えておりボス猿が白眼を剥いて泡を吐いて倒れていた。
みんなは「ええええええ」と叫んだ。
「終わったの?」
「まぁ、ああ…終わったな」
と紗奈の言葉に俺は頷く。
「巫凪、今のあれなんだったんだよ」と葉山。
「いや、悪い。うろ覚えでしかないんだが夜行っていう大晦日から正月に切り替わった時だけ現れる怪談、というか神様に近いやつでな。見られている相手を片っ端から蹴り殺すんだよ」
っていう話をしていたらボス猿は無くなって消えていった。
「そういえばあのお猿さん心が読めないって聞こえたような」
「カオルよく聞こえてたな。まぁだから見られている相手を蹴り殺すって概念だけだから読めなかったんだな」
「つまり、あの猿とその夜行って言ってみれば妖怪なのね?」
パトリシアは聞いてきた。
「まぁ、そうなるな。猿に関してはちょっと曖昧だけどな。花の影響もあったぽいし」
「たしかにそうかもね。何はさておきこれで終わりなの?」
「ああ」
「わたしたち勝ったんだね!」
「そうだな」
最後のオチは予想外すぎたけど。とは言わない方がいいか。勝ったし。
みんな万歳して盛り上がってるし。
紗奈も助かって嬉しそうにしてお礼をみんなに言っている。
「じゃあこれからどうする?みんなでどこか行こうよ」
余語の提案にみんなは賛成する。
「そうだなぁ初詣か?」
「ええ?こーくんはいつも夜にいってたの?」
「ああ」
「なら初詣は朝になったら行こうよ。あたしたちまだ年越しそば食べてないよ」
「そういやそうだな。俺も食ってないな」
「あ、じゃあ龍太くんの実家は?」
「はい?」と俺。
「さすがにダメかな?」
カオルのお願いに俺は「聞いてみる」と言ってお母さんに電話をかけようとしたら、ピリリリリとスマホが鳴った。
え、なに?なに?
「誰からよ?」と霊峰。
俺は「母から」と答え出る。
「もしも」
『龍太明けましておめでとう。今年もよろしくね~』
ととんでもないタイミングで電話がお母さんからかかってきた。
「あ、ああうんよろしく。もしかして見てた?」
『ん、何が?見てないよ~?。あ、そうだ。家今から帰る?。蕎麦あるけど』
いや、タイミングすごすぎだろ…。まぁいいけどさ。
「あー、あのじゃあ、その、みんなもいいかな?」
『待ってるね~』
ガチャと切られた。多分大丈夫だろ。
カオルはワクワクした面持ちで聞いてくる。
「どう?」
「いいってさ」
そしてみんなは「よっし、いくぞ~!!」ってなる。
俺は先に言わなきゃならないことがあった。
「ちょっと待ってくれ」
みんなは足を止め????となる。
「皆さん明けましておめでとうございます」
俺の言葉にみんなは思い出すように「あああ!!そうだった!」となり新年の挨拶を交わす。
「明けましておめでと。今年もよろしくね龍太くん」
「ああ。明けましておめでとう。今年も…いや」
「え?」
「明けましておめでとう。これからもよろしくカオル」
その言葉にカオルは嬉しそうに頷いた。
「うん。明けましておめでとう。これからもよろしくね龍太くん」
とまぁそんな感じで俺達は新年を迎えたのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
今回物語の中で、一番文字数が多くなっています。
読んでくれてありがとうございます。
ここまで読んでくれた方はすでに新年を迎えているかもしれませんね。
では今回のネタバレですが、今回はあえて内容は言いません。
是非俺と私のアカシックレコードの世界を楽しんでくれたらいいなと思っています。
けれど種族についてちょっと出したので話しておきますね。
異世界出身の魔女王候補の四人の種族です。
パトリシアは天魔種
リセリスは夢魔種
シャルルは海棲種
霊峰三珠は巫凪やカオルと一緒の人類です。
この物語ではそれぞれ種族の固有の能力があります。なかなかその能力の出番がないですがいずれどこかで書けたらとも思っていますがよく読んでくれている方は「あ、もしかして」とお気づきかもしれないですね。
それでは今回はここまでです。
次回からは本編第八章に突入します。
本編の物語も後半を過ぎました。
少年少女がどんな世界を作っていくのか楽しみです。
それでは、ここまで読んでくれてありがとうございました。
よいお年を!
そして明けましておめでとうございます。
これからもよろしくお願いします!




