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死なない勇者と不滅の魔王  作者: メリル・D・アリシア
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フメツクエスト -日常編-

陽の光が差さない暗黒の世界。魔界。

ここにひときは目立つ荘厳な城が建っている。

この城の主。魔王は今、永き眠りから目覚めようとしていた。


玉座の間の奥、少し広めの部屋。そこには拷問器具などが置かれており、中央には大きな棺桶。棺桶から漂うは禍々しい気配。今にも溢れんばかりだ。


普段、使われることの無いこの部屋に一人の悪魔の男が立ち寄った。


「何やら禍々しい気配を感じて来てみればこれは……!」


男の表情は歓喜に溢れていた。待ちに待った"主"の復活。それがまもなく訪れようとしている。これが喜ばずにはいられない。


かつての"決戦"において敗れた"主"は永き眠りについた。

いつもであれば数日、長くとも数ヶ月で目覚めるものが今回は二千年。


悠久を生きる悪魔にとっても決して短い時間ではなかった。このまま目覚めなければ粗大ゴミにでも捨ててやろうかと思っていた程だ。


「クハハ…!なんと喜ばしいことかッ!ついに!ついに!我が主、我らが魔王が復活なさるのだ!!フハハ!!」


男が歓喜に震える最中、棺桶から溢れる気配。"魔力"の収束が早まる。


魔力の収束が収まり、ゆっくりと棺桶の蓋が開かれる。

中から現れたのは可憐な少女。金髪のカールがかかったツインテール。


絢爛な装飾がついたドレスに身を包んだ姿は魔王というにはあまりにも可憐。


しかし深紅の瞳その奥には見た者を畏怖させる程の凄みを感じる。


「おはようございます。『クリスティーナ』様」


「ん?あぁ。『セバスチャン』か。少し歳を取ったか?」


「はい。あれから二千年程経ちました。」


「何!?二千年だと!!おのれ、勇者め!」


「如何なさいますか?すぐにでも準備を整え、人間界に攻め込みましょうか?」


「いや、いい。勇者と言えど所詮は人間。二千年も経てば既に奴も死に、その末裔も役目を忘れていよう…。今更、そんな奴らを滅ぼすつもりは無い。」


「流石は陛下。かつての敵を赦すその心の広さ。感服致します。」


「いや、だからといって奴を許す気はない。行くぞ?セバスチャン。」


「はぁ。して、どちらへ?」


「人間界だ。視察に行くぞ?もし、奴が生きていたら殺してくれる!クハハ!!」


「……流石は我が主。素晴らしい程の手の平返しにございます。」



現代…

西暦2028年。


降りしきる雨の中一人の少年がいた。少年の名を神原カンバラ 優斗ユウトと言った。


見通しの良い交差点。雨はそこまで強くはないが傘は必要な程だ。目の前を何台もの自動車が行きかう。

そこそこ交通量は多いがスピードの出し過ぎでもない限りは事故など起きないだろう。


しかし、物事とはそう単純なものではなく常にイレギュラーを孕んでいる。


向かい側の歩道に野良猫の親子の姿が見える。恐らく彼らはこちら側へと渡りたいのだろう。

母猫は車間が空いたタイミングを見計らってこちら側へと渡ってきた。


しかし、子猫は車が怖いのか中々渡ってこない。母猫の呼びかけでようやく走り出した子猫だがすぐそこにトラックが突っ込もうとしていた。


トラックのクラクションが交差点に鳴り響く。

信号待ちしている歩行者の中に優斗の姿はなかった。


道路に蹲りピクリとも動かない優斗の姿がそこにはあった。

子猫は優斗の腕からするりと抜け出し母猫のもとへと合流した。


母猫は動かない優斗ににゃあと鳴くとその場を立ち去った。



薄暗く狭い見慣れた部屋にレトロなビデオゲーム機とアナログテレビがあった。

画面は見慣れた神様ヒゲオヤジのキャラクターが映っていた。


《おお!ゆうしゃよ!なんということだ!しんでしまうとはなさけない! ▼》

《ワシのちからで オヌシを ふっかつ させてやろう! ▼》

《ユウトは ふっかつ した! ▼》

《さあ、いくのじふぁびbうぇいbうぇjねwび》


「うるせーんだよ。クソジジイ。いい加減死なせろ。」


イラっとしたので画面をカチ割るとゲーム機がバグった。だが残機セーブデータは消えそうにない。


優斗はかつて勇者と呼ばれていた。

神の加護を受け魔王討伐の旅に出た。いくつのも試練を乗り越え、ついに魔王を討伐。

彼の冒険は幕を閉じた。


のだが。

神の加護は残り、勇者は"死なない"身体となってしまった。

かつて旅を共にした仲間たちは寿命を迎え皆、死んでしまった。


優斗はこれまでも死のうと試みるもどれも失敗。

かれこれ二千年もの時を生きてしまっている。

今は高校生として生活している。


天から光が降り注ぎ身体が宙に浮く。

復活する合図だ。

宙に浮いた身体が次第に消えていく。

完全に消えると一瞬ブラックアウトし、目が覚める。


消毒液の臭い、腕には点滴、口には呼吸用のマスク。定期的に聞こえるビーコンの音。

"また"病院のお世話になってしまったようだ。


いつもお世話になっている医師なので検査入院などはなし。簡単な診察といつものお説教だけで終わる。


すぐに完治したことに初めは驚いていたがすぐに慣れてくれた。あまり深く事情を聞いてこない物わかりのいい医師で助かっている。


「お世話になりました。」


「はいはい。」


制服に着替えて帰路に着く。雨は上がって日射しが刺しているすっかり夕暮れになっていた。ポケットのスマホを取り出して時間を確認する。まもなくバイトの時間だ。


だが、今からでは間に合う時間ではない。いや、"急げば"まだ間に合うが。


神の加護により身体能力は一般的な人の数十倍。トラックに轢かれた程度では死ねないほどには頑丈だ。もちろんスピードも速く、マンガのスーパーナンチャラ人並のスピードは出せる。


だからといって急いでバイトに向かう気にはなれなかった。いっその事バックれてしまおうか?と思う程にはやる気が出ない。



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