92話 もう片方の魔女の行方
【澪 視点】
黒煙を上げる東の景色はとんでもなく熱そうだったのに、百合亜さん達の北側の家の方は、熱風を雪山の空気が遮って、頬に当たる風はひんやりと冷たい。あの襲来から一日経って、今日は月曜日。
さっき少し雨が降って、火もおさまってきたから、今はもう大丈夫。
街の人々は全員フェアヴァルト家という西の屋敷と百合亜さんの家に避難してるし、燃えている範囲は百合亜さんと知里花さんが結界を張っていたから。そして昨日の夜、2人はようやく黒い魔物を浄化しきった。幸運なことに、住宅街が燃えた範囲自体は小さかった様子。
百合亜さんの家は、元々旅人などが泊まる綺麗な宿屋だった。結構昔に旅人がピタリと来なくなった時、宿屋を改装して今の様に魔法使いが住み着いたから、今も多くの人が避難できるのだ。
まぁ、今はたった数人しか住んでいないから、図書室や実験室みたいな感じに割り振られてるけどね。
私は自分の部屋で、鎮火された外の様子を眺めている。雪菜との約束、守れなかったな。氷のヴェールの奥に見えるか弱い碧の心の花を、私の温かい手で包んであげる為にも、もう一度彼女に会いたかったんだけどな。
今日を含めてあと五日、それまで雪菜とは会えないだろう。
もしも、彼女があの火の海を見て帰ってしまったなら、私達が生きているのかと心配するだろう。ごめん雪菜、心配しなくてもいいよ。私は元気やってるし、ここの生活はとても楽しいから。百合亜さんに勉強を教えてもらいながら、お仕事もしっかりこなしてるからね。あっちよりも、ここの方がずっと楽しいよ。なんなら雪菜も、こっちにおいでよ。
この街には学校がないけれど、最近は他国の文化を取り入れるということで、街の東に小さな学舎がある。でも、私の様な出身地が違う世界だったりすると、何故か入れさせてもらえないらしいんだ。
もしもそれが本当なら、アレンくんは異世界から来た子だね。あるいは、未来や過去からやってきた子なのかもしれない。これはまだ予想に過ぎないけど、可能性は高そうな気がする。
彼は一矢によく似ているけれど、何処かが一矢じゃない。
「本当に、誰なんだろうね」
私はそう呟きながら、この家の魔法使いの過去と秘密を調べていく。
家や街の人から聴いたり、地下にある倉庫を見せてもらったり、北東にある図書館で調べ物をしたり、情報を集める方法は様々。勿論、百合亜さん達には調べる許可を得ている。
一応この街の伝統や言い伝えなどは、簡単に覚えておく必要があったの。それでいろいろ推理したりするのも、勿論楽しいし。深く知りすぎると危ないってよく言われるけど…… 私の好奇心は、いつだって止まることを知らないしからね。少しでも雪菜の役に立つことができれば、私は嬉しいな。




