90話 仲直りの保健室
その後、うずくまるルシアを見た私達はすぐに先生を呼ぼうとした。しかし、廊下を覗き込んでも、南棟の教室に目を凝らしても、大人の人影は見つからない。勇助は本来走ってはいけないはずの校舎を突っ走り、薄暗い1階の廊下に光る職員室へ向かった。その間に私はルシアに肩を貸す。一矢は完全においてきぼり状態だが、そして今、なんとか保健室まで辿り着いた所だ。
その時偶然職員室前の廊下を歩いていた担任の先生に、息を切らした勇助が簡単に訳を話して、ルシアをベッドに寝かす。さっきまで物凄くげっそりしていたが、今では静かに寝息を立てている。
その寝顔、やはり紗羅の顔つきにそっくりだ。
担任の先生と一矢達は、保健室の真ん中に集まった椅子に座って、さっきの出来事を話していた。そばに勇助がいるから多分大丈夫だろうけど、一矢が"魔法使い"だとか"あっちの世界"だとか言い出しませんように。絶対に先生には分かんないから。お得意の地獄耳で話を盗み聞きしているが、今の所そんなことは言っていない様だ。だって、ほとんど勇助が話してるんだもの。「いつもと様子が全然違ったから、心配してしまったんです」って、上手く話すよなぁ。
先生も今朝正門でルシアと会った時、彼女のテンションがあまりにも低すぎて、別人と間違えたかと思ったらしい。まぁ、この学校で髪が白い子なんてルシアぐらいしかいないから、間違えようがないのだが。
何故あそこまで無理したんだろう、なんであんな事を言ったんだろう。その疑問の答えは、幼稚な考えしかできない今の私には分からなかった。周りには仲間しかいなかったのに、どうして。
朝の読書の時間が終わるまで、あと7分。私達はそれまでに教室へ帰ればいいから、今も我々は保健室で待機中だ。一矢達はさっきの椅子に座りっぱなしで、話すこともなくなったので先生と世間話をしている様子。固そうなパイプ椅子に座る呑気な3人に、こっちに来たらどうだと聞かれたが、私はルシアを見守っていたいと言って断り、彼女の白い前髪をそっと整える。そんなこんなで数分後、先生は1時間目が始まる前には戻ってきてねと言い残し、テーブルの縁に右足の小指をぶつけた後、痛そうに職員室の方へ去って行った。
こうして静まり返った保健室にいるのは、紗羅という名の少女に会った事がある3人と、その紗羅かもしれないという疑いをかけられた少女だけだ。
「ん…… 雪菜?」
「やっと起きたね、もう大丈夫?」
「はい、もう平気です。あ、あの、ちょっといいですか?」
「どうしたの?」
「その…… さっきはあんな事言ってごめん! 」
「え!? 気にしないでよ、元はといえば私達が悪かったんだし」
数分後にようやくルシアが目覚めたと思ったら、起きて早々こちらに手招き。何だろうと思って耳を貸した瞬間、突然彼女に謝られてびっくりした。
どうやら彼女、さっきは昨日の記憶を引きずっていたのと、瓦礫の破片で足を怪我した痛みで、ものすごーくイライラしていたらしい。しかもそれに畳み掛けるように私達が問い詰めたので、秘密を打ち明けたいけれど言い出せないという心の矛盾が発生し、混乱して感情が爆発。そのままどっと疲れが押し寄せてきて、めまいがした瞬間に倒れてしまったという。精神的な状況を踏まえて見ると、彼女がキレたのは仕方がなかったことなのだ。
私達のやり取りを見ていた一矢は目を光らせ、再確認と言って椅子の背もたれから身を乗り出す。
「じゃあじゃあ、ルシアの正体は光日紗羅ってことでいいんだな?」
「え、えぇ」
一矢の勢いに苦笑いしながら応える少女は、この保健室で皆と笑いあった瞬間、ようやくこの仲間達と親しい関係になる事ができたのだった。
相変わらず、彼女らの世界にある魔法の力というものには、本当に驚かされるばかり…… まぁとりあえず、紗羅と少しでも仲良くなれてよかった。




