6話 つまらない授業
特別日課の3時間目…… ついに、面倒臭い班長決めの時間がやってきた。
私は面倒事はごめんだから、班長なんてやらない。
だって、班長という役割は、いつも変な所で責任を取らされるんだもの。ただでさえ理不尽なこの世の中で、わざわざ自由に生きられなくなるような道を選ぶほど、私は馬鹿じゃない。
成績なんて、勉強で頑張ればいいではないか。むしろそれしか、私には取り柄がないし。
それに、見た感じ3班は誰が班長になっても大丈夫。多分、先生の説明が終わった数秒後に、皆の反応を見てから挙手するに違いない。
本当にそんな感じで話が終わってくれるなら、どんなに楽なことか。
普段は班長をやりたがる人がいなくて、数分話し合った後に沈黙。その中で折れてしまった人が、班長をやっていたというのに。
「うおっしゃー、班長どうするんだ?」
「私はやらないよ」
「じゃあ、僕がやるね」
「……あれ、もう終わっちゃいましたか!? 速いですね~」
見事に予想は的中した。
ここまでリーダーや代表をやりたがる勇助を見ていると、「こいつ頭大丈夫か」と心配しそうになるな……
まぁ、とりあえず頑張れ。色々と無関心な部分が多い私達だが、一応君のことは応援しよう。何か困った事があったら、アドバイスくらいはしてあげるから。
こうして私達は、無事に班長決めを終わらせたのだ。
結局、普通の班ならもう少しかかるはずの事が、たった数秒で終わってしまうとは思わなかった。
他の班はどうなったのかと思い、椅子にもたれながら周りを見渡す。やはり、私達のようにあっさりと話が終わっている班は見当たらなかった。
暇を持て余した3班のメンバーは、あまりにもやる事がないので、さっきから延々とお喋りを続けている。しかし、私は会話に深入りしようとしなかった。
私は静かな方が好き。別に一人が良いというわけではないけれど、班の中に少しでもよく知らない人がいたら、上手く話についていけない気がした。
会話の途中で、突然聞き慣れない単語や話題が出てきたら、私はそれについていけなくなる。そういう事態を避けたい私は、いつも様子見という形式から会話に入っているのだ。
そんな私は、偶然耳の中に入り込んでくる情報を、解析して記憶していくのが趣味。いろんな事を理解できるから、他人が話している事を聞いてしまうのは嫌ではない。
そもそも地獄耳だから、聞きたくない事でも色々と頭の中に入ってきてしまうのだ。
誰が誰の事をどう思っているのか、どう呼んでいるのか、そう思うのは何故なのか。
親しい仲でなくとも、話を聴いていることで、大まかな状況は理解できた。
こうして相手を理解し、親しくなっていく。
そういう方法で、私の友達はできていったのだ。
それにしてもこの学校は、班長を決めるだけでこれ程の時間がかかると思っているのだろうか。
本当はもっと時間を有効に使えるかもしれないが、これにも教師の意図がきちんとあるのだろう。空き時間に自由に会話して、同じ班の人と仲良くなるとか、その他諸々…… いや、そんな訳ないか。
その可能性がないとみれば、ここまで多めに時間をとる教師の頭はどうなっているのだろう。
既に、班長決めだけで10分以上の時間をとっている。
たった1年で離れ離れになるクラスの中で、何故こんなことをする必要があるのだ。3月であっさりサヨナラをしてしまうなら、仲良くなるだけ虚しいものなのに。
特に、計6クラスもあるこの学校については。
「ルシア、南棟の方がどうかしたの?」
「あ、ちょっと外を眺めていたんですネ! 私が住んでいた所は海が中々見えなかったので」
「そうなんだ、イタリアの内陸部か……」
そうつぶやいて窓に背を向けた直後、私の視界の隅に写った屋上に、小さな影が見えた気がした。
数秒後に視線をこちらに戻したルシアは、先程よりもずっと嬉しそうな顔で、時折聞いたことのない鼻歌を歌いながら椅子に座っていた。