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勿忘草の丘  作者: 中さん
第2章 異世界への一歩
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75話 お年頃の少年

現在の時間は4時2分…… 叔母さんに帰ってくると言った時間まで、まだ58分も時間がある。どうしようかと思いつつ、私と勇助は自転車を引きずり出し、それを持ち上げてぐるりと方向転換をした。勇助の表情は、少なからず驚きと困惑が混じっている。澪の自転車が無いことに気がついたんだろう。

それにみんな気づいていて、みんな黙ったまま。

そんな重たい沈黙を破ったのは、さっきまで静かに周囲を視察していた世羅だった。



「全部澪が決めた事なんだ。それに、お前らならいつでも会いに行けるし、大丈夫だろ?」



最初は冷たくて重たい声だったけど、最後の声が私の耳に入る頃には、気まずそうにこちらを見つめる少年の、不器用で優しい声になっていた。きっと彼は、人を慰める事に慣れていない。感情を表に出しているはずなのに、出し切れていない部分がある。どこか素直じゃなくて、たまにはひとりになりたいと思っても、それでは欲求不満。世羅は何か訳があって、何かが少ない。だから暖かい何かを、いつまでも欲している気がする。私はその"何か"が気になって、未だに不完全な読心術を使ってしまった。

しかし、世羅の心の守りは異様なまでに固く、全く心を読み取れない。しいて言えば、その壁の奥に何かもう一つの気配を感じたような…… それにしても彼は、魔法使いとしての才能は異次元並かもしれないけれど、ひとりの人間の感情としては何処かが欠けている。世羅のハンドガンの会話をしていた時に、彼に殺しの抵抗がないのは何故かと尋ねたら、紗羅は「生まれつきだよ」とつぶやいた。

まさか本当に、彼女の言った通りだったのか?



「まだ時間もあるし、何処かで遊ぼうぜ。一矢と雪菜ってこの辺りは詳しいよな? 俺、仕事の関係でここには2ヶ月ぐらいしかいなかったし、もう結構前のことだから、あんまり覚えてないっていうか……」

「それでよく澪の家まで行けたな…… そうだ、俺の家も近いし寄ってくか? あ、母ちゃんには魔法使いだって言っちゃ駄目だけど」



母ちゃんという保護者の存在を口に出した一矢は、これでようやく、明日自分が魔法使いになることに気づいたのだった。他人の勝手な都合で決められた事、家族はその事を何も知らない。きっと彼は、私が叔母さんにアレンの事を言うときの、どうしようもない緊張感に包まれているはずだ。

彼の家族がその事を知ったら、私の家とは違って猛反対されるかもしれない。そうやってなんとしてでも自分の息子を取り返そうとするために、力を尽くそうとするけれど、並の人間が魔法使いに敵うはずもなく。でも彼は、家族にそんな悲しい思いさせたくないから、心配させたくないから、自分自身は魔法使いに興味があるから…… だから彼は、家族には秘密ということで世羅と話をし、魔法を隠しとおすことにしたらしい。

こっそり読心術を使ったわけではないけれど、一矢を見つめる私には、そう考えている事が手に取るように分かった。心配させたくないと思っているなら、家族に自分の秘密なんてわざわざ話したりしない。お年頃の一矢は、自分にとってなんともない事を心配する親を、内心鬱陶しいと思うんじゃないか。

同じ子供だからか、なんとなく思っていることが分かる。魔女の勘、あるいは女の勘というものだ。

私の場合は例外だから、すんなり上手くいったのだ。叔母さんがありえないほどファンタジック星人だったし、優しく慎重なアレンの声に、そっと薦められたから。

ほらまた、アレンのその毛布のように柔らかい声を使って、何かを言おうとしてる。



「あ、それなら」


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