74話 今の私にできること
「それじゃあ、また明日会いに行くわね~」
「紗羅、ありがとう! 澪も頑張って~!」
「がんばーるぅぅぅ!」
私と一矢と勇助とアレンと、何故か雷華さんと世羅も一緒に、元の場所に戻れるワープゾーンのような空間の隙間の前に立っていた。こんな大人数での移動を可能にするとか、大魔法使いさんの力って凄い。
ここの世界の住人である雷華さん達は、お嬢様の他の依頼で荒澤町の調査に行くことになっていた。そちらの依頼は1年前から暇であれば調査していたそうで、小遣い稼ぎとして喫茶店のバイトをしていたんだとか。
そして、数ヶ月前に調査が終了し、その秋頃にアレンが出現。春のはじめにアレンがお嬢様の依頼を受け、私が魔法使いになるという話を聞き、この間から何度も様子を見に来ていたらしい。だから、この間の白猫の紗羅や黒田家の黒猫の世羅など、私達もその姿を沢山見ていたのだ。
……こうして隙間をこえた後、3秒くらい星空の空間を歩き続けた。いつか見た夢に似ていると思ったら、どうやら猫達と一緒に丘の上を歩いた夢のようだ。紺色の夜空に亀裂が入り、そのまま砕け散って目が覚めたのだが、今は周りに人がいる。猫はいないおらず、空間もひび割れていない。
向こう側に一点の光が見える。眩しくて、目を細めた。
「あっ、ここは………」
目を開けて、辺りを見回す。気づけば水峰寺の入り口の前だった。この場合、私はとっても助かる。紗羅と会った地点にそのまま帰されたら、わざわざ自転車を取りに表へ帰らないといけないのだ。あの生垣の中を通るなんて勘弁してほしい…… むしむし。
落ちた椿を転がす春風に吹かれ、ふと寺の自転車置き場を見る。そこに置かれているはずの3台の自転車は、やはり2台に減っていた。
男子2人に話を聞いたところ、勇助は待ち合わせ場所である水峰寺で一矢に会い、ここに自転車を止めたらしい。そして、ふっと意識が途切れたかと思うと見たこともない場所にいたという。なるほど、やはりそこで私達と合流したんだな。
じゃあ、本当に澪は………
明日、いろんな場所を調べよう。私の家の電話の履歴を探そう。そして、澪がいた形跡がなくなった事を確認するんだ。彼女はこの世界から跡形もなく消え去り、向こうの世界で魔女として生きることを望んでいる。私には澪の気持ちが理解しきれなかったけど、彼女が喜んでくれるなら、今は出来るだけ彼女の我儘を聞いてあげようと思った。
だって、澪が我儘を言うのはとても珍しい事だもの。いつも我慢をしている澪のご褒美として、彼女と一緒にいられる今の内に、沢山の願い事を叶えてあげたいの。
澪の願いを叶えてあげるのが、今の私にできる大切な役目だから。




