73話 彼女と私の違い
私の心の奥にはまだ、僅かなとっかかりがあった。私が魔女になった本当の理由とは何か、何故澪はここで暮らすのか。そして、一矢は魔法使いの素質があるのに、何故まだ人間のままなのか。
私が魔女になった理由はやはり、跡取りが少なすぎたからだ。でも、その裏に隠された本当の目的が、知らされずに残っているような気がする。私が魔法使いになれたのなら、その血縁にも何か関係があるはずだから、今は私の両親の事が疑わしくてならない。それに叔母さんは、私の両親の名前や出身地、仕事内容を全く教えてくれなかった。両親の事で知っているのは、私と共通している特徴と、生きているかどうかだけ。母親が仕事の都合で遠い所にいるのは分かっていたが、西洋っぽい国の町ということと、人を助ける仕事をしていることしか分からず、謎は深まるばかり。
一矢が魔法使いになるのはもう少し先でもいいし、澪と同じように人手が足りなかったのかもしれない。
しかし、ひとつだけ分からなかったのは、澪だけがこの世界で暮らすこと。彼女の希望が想定の範囲外だったから、向こうの世界で魔法を教えられる人がもういなかったから、それでも種族を守り抜くためには止むを得なかったから…… 思い浮かぶ答えは沢山あった。
上手くいけば、澪は私の様に普通の人間の生活が出来たかもしれない。私がもっと賢ければ、澪だって…… そう言って先程澪に謝ったら、彼女は「私は幸せなんだから、気にしないの」と優しく微笑んだ。そして彼女は、私の短い黒髪をそっと撫でる。いつの間にか越されそうになっていたその背に、彼女の成長の喜びを感じながらも、私の住む世界では一緒に生きられない現実が突き刺さり、どこか寂しさが漂った。
やはり、あの時に止めておいた方が良かったのだろうか……
「雪菜、大丈夫?」
「……あ、アレン」
「すごく思い詰めた表情してたけど、大丈夫?」
「いや、大丈夫。ちょっと考え事してただけだから。私に何か用事でもあった?」
「うん、あと30分くらいしたら帰ろうかなと思って」
「分かった、準備する」
「それで、これからの事なんだけど、ちょっと耳かして」
アレンはそう言って、によによしながら私に手招きをする。なんだなんだ、何事だ。また何か、変なことを言い出すんじゃないだろうな。まさかなぁ、明日は大魔王を倒しに行きますよなんて言わないでくれよなぁ。あ、それとも今から世羅と戦えとでもいうのかね、少なくともあれと戦ったら死ぬぞ。
紗羅達はまだ実力がわからないけど、あいつと血縁関係にあるヤツなんてみんな強いに決まってる。まして、大魔法使いの百合亜さんと戦ったりしたら、恐らく一瞬で消し炭に……
「えっとね、これからちょくちょく、紗羅さん達が遊びに来るのと~」
「うん」
「一矢くんも正式な魔法使いになりまーす。拍手~」
「……後者はなんとなく分かってたよ。一矢には魔法使いの素質があるかもって、雷華さんが」
変な想像をし過ぎていた私は、普通すぎるアレンの言葉に、つまらなくなって素っ気なく答える。すると、彼は突然脱力した。どうやら私が驚くことを期待していたらしく、その場にずーんと崩れ落ちた姿は、見るからに落ち込んでいる。かわいそうに、まるで日数が経って干からびたもやしの様だ。そんなもやしアレンは、力なく雷華さんの方を見上げ、弱々しい声を上げる。
「うわぁぁぁんっ、雷華さん酷いですー!!」
「え、わ、私はただ素質があるって言っただけだぞ? なれるとは一言も」
「雪菜は頭がいいから分かっちゃうんです~!」
「なっ、私が雪菜と比べて馬鹿だと言いたいのか……!?」
「でもでも、らい姉って馬鹿ではないけどどっかで壊れるよね」
「おい紗羅ぁ!」
「ちょ、ちょっとみんな……」
嘆くアレンに焦る雷華さん、そしてそれに便乗していくスタイルの紗羅。こうしてワチャワチャと言い争う中、ロックさんがその後ろ姿を眺めながら微かに笑っていたのを、騒ぐ彼女らは知りもしない。
……ひとりで笑うなんて不気味ですよロックさん。




