70話 森の奥の秘密基地
「……なぁ霊奈、そっちも元気にやってるか?」
「桜さんと満さんも、あれから随分経ったよね」
雷華さんをはじめとした日之影家の住人が、大木に花を供えてしゃがみこんだ。唯一、世羅だけは住人達の後ろに立って空を見上げている。残りの私を含めた四人は、呆然としながら墓も何もない木の根元に花を供える人々を見つめた。静かにつぶやかれた3人の名前を、誰なのかと尋ねる気になんて、なれるはずもない。
お参りが終わった後、大木に背を向けた雷華さんの顔は、これまでにない程の無表情で、とても悲しげだった。普段は笑顔のギャップのせいで、余計に衝撃的だったのかもしれない。それにしても、あの人が時折見せる寂しげな表情、あれは一体何を気にしているんだろう。あんな風に元気に振舞っていても、結構心の闇が深そうだが…… 墓参りのこと以外にも、過去に何かありそうだな。
雷華さんが言っている霊奈っていう人は友達だろうか、それとも彼女の家族だろうか。そんなこと、普通に尋ねるなんてできなかった。雷華さんにはこれ以上悲しい顔をしてほしくなかったし、あの人は今の暗い雰囲気を変えようとしているんだ。その様子を見る限り、墓参りだけが目的ではないはずだ。雷華さんは手の平をパチンと叩いて、私達に明るい笑顔を見せた。
「さぁ、湿っぽい話はここまで。本当の用事はこの木の上にあるんだ」
「ちょっと久しぶりですね、この秘密基地。今は秘密と言えるかどうか、よく分かんないですけど…… 最後にここに来たのは、僕がこの世界を出る二日前でしたよ」
「まさかこんなに早く戻って来るとは思わなかっただろ? おーい、アレン」
「うわあああっ! 階段使ってください、危ないですよ雷華さん!」
「平気平気、こういうのは小さい頃からやってるし」
上を見上げると、深緑の葉に包み込まれた小さなツリーハウスがあった。周りに貼られた絵や、窓際に置かれた人形を見る限り、これは秘密基地だろうか。そして木の幹の隙間に雷華さんがよじ登っている…… 何してるんですか。
紗羅の説明によると、この木は代々エルティエの大魔法使いが育ててきた大木だという。それを育てる北方面の日之影家と、最近は西に建った屋敷のフェアヴァルト家の人と一緒に、街を治めているとかなんとか。だから百合亜さんの家は住宅街から離れてて、他の家より少し大きめだったのか。というか、百合亜さん達って凄い魔法使いの一族だったのか、今まで知らなかった。確かに、この間アレンが言っていた大魔法使いは体力がなく、百合亜さんの体力も多い方ではない。あぁそうか、百合亜さんが大魔法使いのあの人か…… それを知らないからこそ、澪はあそこまで強く張り合えたのかな。
紗羅の説明を一緒に聞いた澪は、蚊の鳴くような悲鳴をあげて硬直していた。
ちなみに、これでも十分な大きさだが、もっと南の湖に近い神社には数倍の大きさの木があるそうな。そして、何故そんな大事な木にツリーハウスがあるのかというと、ひとつ前代の大魔法使いと街の子供達が、街を守る秘密基地を作りたいということで、数ヶ月かけて作ってしまったらしい。1代前の大魔法使いはそんなに気前がいいのか、それとも子供に優しいのか。一応百合亜さんの母親が1代前らしいけど…… 他にも理由がありそうだ。それで、先程の墓参りで名前をつぶやかれていた、桜さんっていう人が百合亜さんの母親なんだとか。そして満さんが父親らしいので、百合亜さん達は既に両親を亡くしているということになる。あの大きな家で、少年少女が暮らしているのにも納得がいく。居候の雷華さんやロックさんも、家族がいなくなってしまったから、今ここにいるんだろうか……
そうやって考え込む私達なんかお構いなしに、皆は階段を上って行ってしまった。




