5話 3班の神
「オレ、イタリア、ワカリマシェン。プシュ~」
ルシアにイタリア語を話してもらったら、ついに一矢がショートした。我々が声をかけても上を向いてプシューとしか言わないので、こいつは完全に諦めている様子。
スーパー帰国子女ルシアのイタリア語は速いから、仕方がないのだろう。抑揚が見事なレベルで無いことには、あえて触れないでおく。
その他にも早口言葉や校歌、英語の教科書の物語などをイタリア語に翻訳してもらった。その後に一番最初のbe動詞の所を普通の英語で読んでもらったのだが、最終的にこの辺りで一矢が撃沈。
英語でトドメを刺されるなんて…… 一矢が馬鹿なだけか、馬鹿なだけなのか。
ヨーロッパの言語はもともと一つのものだったので、その辺の地域の言語が一つだけ理解できれば大体は分かるらしいのだが、普通に英語で対抗できないのかこの少年は。
あ、そんなわけでこの帰国子女、一応英語もできるらしい。5教科のうち1教科はほぼ勉強する必要がないという、こちらからしてみれば羨ましすぎる力を持っているのだ。
という事は、彼女には3ヶ国語を操る能力があるのだな…… 抑揚はまぁ置いておくとして。
「雪菜、今日は班の係決めと自己紹介ですYo!」
「うん、分かった。ありがとう」
「そろそろ準備しようぜ。後から来た奴に悪戯してやる」
「……よし、やろう」
「いや冗談だって」
あれ、何故こんなに沢山、話ができるんだろう。
私は今の生活で十分満足しているし、元から大人数でワイワイ騒ぐのは苦手なタイプ。だから、大勢の人と沢山話せてもあんまり達成感はないはずだ。それなのに、今日は随分と気分がいい。
いつもの心の奥の黒い靄はどこに行ってしまったのか、今まで喉元でつっかえて出てこなかった言葉も、今はどんどん出てきている。
珍しいな…… 私がそこまで親しくない人と一緒に、ここまでふざけることができたのは。
ガラ、ガッ…… ガガガッ………
「あ、みんな来てたんだね。おはよう」
「勇助、おはようございマス! 準備してみんなを待っていましょう!」
「うん、そうするよ」
ぼっち主義の私が物思いにふける中、長年の疲労故に建付の悪くなった教室の扉をなんとかこじ開けて、ふわふわした雰囲気を醸し出しながら入ってきた少年。私達3班の最後の一人である。
まっくろで少し癖のある髪の陸上部志願者…… その名も、森野勇助。
彼は太陽のような優しい心を持っていて、勿論周りへの気遣いも忘れないという神のような性格だ。出会ってまだ1日だが、少なくとも彼は悪い人ではないと思う。
実際に友達は結構多いし、授業や意見討論となればすぐに挙手発言するし、自分から進んで先生の手伝いもしている。学校では勉強しか取り柄がない私から見れば、ただの優等生か良い子ちゃん。かといって、裏表の性格の差がすごいというわけでもないらしい。これは、荒澤中央小学校・黒田情報屋の澪がビシッと断言した。学ランを羽織った彼の身長も、あの一矢と違って低くないし。
いやはや、3班は凄い奴ばっかりです。
………神デスネ。