63話 連れて来られた訳
紗羅と澪の間に座っている私は、この部屋にいる人を観察した。
百合亜さんは湯立つダージリンの紅茶を飲んでいて、その隣に並んだ知里花さんは、ちまちまとチョコクッキーをかじった後、すっと立ち上がって外へ行ってしまう。キジトラの仔猫を膝に乗せた紗羅は、箱を使って朱色のマフラーを編みながらぼんやり外の景色を眺めていた。リビングのクローゼットの鏡を見て、黒革製のバレッタを留めなおす雷華さんは、おつかいに行った男性を迎えに行く準備をしているようだ。私の隣の澪は、深緑のソファーに軽くもたれかかって、興味津々に仔猫を見つめている。
そして残りの男子4人は…… 何をやっている。
こんな感じで観察をしているうちに、少年集団から抜け出してきた世羅が、チョコクッキーを咥えて私に話しかけてきた。
「そんじゃ、こっちの世界に連れてきた訳を話すか」
私はぴくりとその言葉に反応し、即座に顔を上げる。世羅曰く、私達が連れて来られた理由は、簡単に言えば魔女になったお祝い行うためだった。
私達を招待して、魔法の世界を知ってもらうために、私が一人ぼっちではないことを知ってもらうために……
ただそれだけのお祝いらしいのだが、その答えには幾つかの疑問があった。魔女になったお祝いなら、普通の人間である中学生三人を連れてくる必要はないだろう。そもそも集まる約束をしたのは日曜日だったし、集合場所も荒澤小だったはず。
なんの予告もなしに突然連れてくるなんて、常識的に考えてあり得ない。
っていうか、約束を勝手に変更するなんて酷い。
「という訳で…… 約束と違う日に連れてったのは、ごめん」
「そ、それで、私達はこれからどうすればいいの?」
「それは他の奴らに聞いてくれ。余分に連れて来たのもあるし、先にあいつらの記憶補正をして、元の世界に返してやらないと。力のないあいつらを"奴ら"に知られたら危険だし、この世界の存在を向こう側に知られたりしたら危ないんだとさ。知られたりしても信じて貰えないのがオチだが、なんか悪いことでもあるんじゃないか?」
「じゃあ、澪達だけ先に帰っちゃうんだ………」
「百合亜がすっげえ用心深い性格なんだよ。もしあいつらが、百合亜の信用に足る人間だったりしたら、補正しなくてもすむかもな。あの様子を見る限り、補正をしない可能性は高そうだから、まぁ大丈夫だろ」
「うーん……」
ぷいっとそっぽを向いて、世羅は相変わらず冷たい表情のまま、リビングの壁の向こう側へ歩いて行ってしまった。
私だけ残して帰ってしまうなんて、寂しいことこの上ない。
記憶を残す可能性が高いと言われたけれど、残りの少しの確率が当たったら、澪達だけ記憶を消されてしまうなんて。
今の出来事を覚えている私も、いつの間にかうっかり魔法使いの話をしてしまいそうで、それがどうしようもなく怖い。
折角、一矢達が魔法使いの世界の事を知ってくれると思ってたのに。私が魔女であることも、ようやく知ってもらえたのに。とても残念で、思わずため息がこぼれた。
でも、世羅が言うように、もしかしたら記憶を消さないでおいてくれるかもしれない。
……これは、賭けをするべきか。
そんな小さな希望を持って、私はチョコクッキーをかじった。




