60話 小さな丘に咲く花
目を開けると、いつもとは違う青空が広がっていた。草が揺れる音、小鳥のさえずり、全ての音に聞き覚えがある。それでいて、とても懐かしい。あの日、入学式の次の日に見た夢だ。
そして、あの時とは違う、頭を撫でられているような擽ったい感覚。
「……ん」
「あ、雪菜。気がついたか?」
哀愁の漂う榎原一矢が、花畑に寝転ぶ私の隣に座っていた。優しく私の頭を撫でていたはずの右手は、突然引っ込んでしまう。何をしていたのかはあえて聞かないでおくが、そんなことより ……ここは、何処だろう。
重たい上半身を持ち上げて、辺りを見渡す。碧く小さな丘の下に、小さな小さな街が見える。後ろで声が聞こえたので振り向くと、白と茶の二人の少女が、こちらに向かって元気に手を振っていた。勿論、今起きたばかりの私に、同じテンションで手を振り返す気力など無い。
どうしようもない程に疲れていたのか、私の意識はもう一度途切れた。
もう一度気がついた時、私は小さな岩の陰で座らされていた。さっき寝ていた丘のすぐそばだ。私を心配した白と茶の二人の少女が、私の顔を覗き込む。私は大丈夫だと言って立ち上がり、もう一度辺りを見回した。中学組の澪と一矢と勇助、魔法使いの白い二人、見習い魔導師のアレン、水玉オレンジの亜瑠斗さん、そして可愛いキジトラにゃんこ…… 恐らく全員揃っている。
私を含め、合計八人と一匹。さっきより少し多くないかと思ったが、追加の三人のせいのようだ。
って、そこの水玉オレンジさん、あなたどうしてこんな所にいるんですか。この集団の顔と先程の状況を見る限り、雷華という名前が当てはまるのは亜瑠斗さんのみ。ということは、貴女のお名前は……
「亜瑠斗雷華さん…… ですね?」
「おー、直美叔母さんのとこの雪菜か。そういえば私、自分の名前を名乗ってなかったよな…… じゃあ、これからは雷華ってことでよろしく! ところで、ハーブティーは飲めるようになったか?」
「雷華さん、この期間で飲めるようになったら苦労しませんよ」
「なら目標は1年以内だなー」
突然のハーブティー攻撃を仕掛けられ、あの記憶に怯む私。あの時から、たまに叔母さんのお茶を飲ませてもらうことはあったのだが、結局一滴飲んだ後は香りを楽しむという繰り返しになってしまった。というわけで、もう少し待っていてくださいね雷華さん。
そしてなんと、あの夢で見た胸部の僅かな膨らみは、見間違いではなかったのだ。中性的な雷華さんでも、性別が分かれば新たなる知識の進歩となる。
これはいい成長ではないか…… 彼女の胸のサイズはともかく。
そうやって考えを巡らせているうちに、幽霊の霰粒橋で出会った世羅が指揮をとる。
ところで彼、私と会話する時にだけ異様に冷たいというか、警戒心を露わにしているような気がするんだが。何なのだろうか……
「さーて、全員揃ったから行くか。この丘を下りて行けばすぐ街に着くぞ」
「だったら街まで飛ばせば良かった気がするけどね…… 」
「仕方ないだろ紗羅。着地地点といえば、ここが一番安全なんだし」
「はいはい、分かったからゆっくり歩いてあげてよね。みんな疲れてるんだから」
「おうよ」
【亜瑠斗 雷華】♀
《魔女を守りし大地の狩人》 戦闘方法:ダガー、体術、スリングショット
〔好きな物〕自然、動物、梨 〔嫌いな物〕踊り、爆弾、仮面
豆知識… 17歳で177cm。襟付き水玉オレンジ服は友達に選んでもらった。
ひとこと「私の苗字、本当に変なんだよなー。うんうん」




