59話 異世界への扉
白髪金眼少年の世羅の肩には、小さなキジトラの仔猫が乗っている。霰粒橋の彼の瞳に劣らない程の、真っ赤な目だった。そして、尾には小さな赤い宝石が金の鎖で繋げられている。柿の大きな枝につかまった少年は、そのまま石垣に飛び乗って紗羅のそばまで寄った。やはり、彼の金の鎖のペンダントは、鎖だけでなく宝石も紗羅の色違いだ。仔猫と同じ、真っ赤な色。まるで、血のようだった。
もし仮にアレキサンドライトの宝石だったというのなら、紗羅は自然の光を当てた青色で、世羅はロウソクなどの光を当てた赤色。もちろん他の可能性もありうるのだが、本当にどんな石なのだろうか。
「……また会ったな。集合が少し早かったけど、雷華が着いたら出発するぜ」
「え、出発って何処に? それに、集まるのは明日だったし、準備もしてない」
「訳ありで予定変更だ。荷物はお前の小人がなんとかしてくれるだろうし、行く場所は後ですぐに分かる。おい紗羅、予想以上に客が多いけど、連れて行けるか?」
「多分大丈夫、今日の調子はいい感じ!」
「そうか…… で、来たのは何処のどいつだ?」
「後から二人くらい来ちゃったみたいだけど、全員雪菜の仲良しクラスメイトだから、多少混乱しようが問題なさそうね。らい姉が着いたら出発しましょ」
「おう」
世羅は私にだけツーンと冷たいまま、ワケも分からないうちに話を進めていく。
何処に行くか分からないし、どうやって行くのかも分からないから、危険な目にあうかもしれない。混乱する私達を見て、世羅は「予定狂った、わりぃ」と言い、目を背けながらも軽く私に謝った。しかし、彼の声が私の耳に届いても、私が彼に返事をすることはない。
背後の静けさに違和感を憶えた世羅は、警戒の対象である私から距離をとりつつ、私の固く結ばれた口元を見つめる。彼の無表情がだんだんジト目の顔に変わり、陶器のような白い頬にツーっと冷や汗が流れた頃、私はなんとなく状況を理解しはじめた。
私の仲良しクラスメイトという事を踏まえると、後から来たのは、一矢、ルシア、勇助の中の二人。その中で、この少年に関わった事があるのは一矢だけ。一矢の家が寺から近い位置にあるあたり、可能性が高いのは男子二人だけど…… 寺に遊びに来たのに突然変な所に飛ばされたら、その二人は混乱するだろう。紗羅達の目的地に着いたら、急いで迎えに行かなきゃ。
「雷華が到着した、行っていいぞ」
「じゃあ行くわよ、"私達の故郷"へ!」
その雷華という人が到着した直後、少年の知らせを聞いた紗羅は、指をパチンと鳴らして言い放った。"私達の故郷"、ただそれだけ。特にこれといった地名もない、彼女らの故郷だ。
彼女の指が鳴ることに羨ましいと思いながらも、私達は強力な魔力の流波に呑まれ、冷水の心地よさにふっと意識を手放した。




